顕微鏡システムの設計においてあまり知られてない考慮点
新たな対物レンズ技術により、高水準の開口数、色収差補正、フラットネスを同時に実現し、光学性能が向上する。
メーカーがシステムに使用する光学部品を検討する際、倍率、開口数(NA)、焦点距離、作動距離などが、よくある仕様として検討される。しかし、最終製品の全体的な品質に大きな影響をもたらす重要な要素が他にもある。本稿では、波面収差補正、無補償設計、新規のレンズ製造技術による向上という3つの要素を紹介する。
波面収差制御
波面収差とは、理想的な顕微鏡イメージを形成するために使用する理想的な波面と、実際の波面との差異である。波面収差の大きさは映像の欠陥につながる。対物レンズの性能を評価するには、さらにストレール比、点広がり関数、及び変調伝達関数という3つの方法がある。
対物レンズの光学性能を測る標準的な方法はストレール比である。理想的な無収差光学システムの像面における収束比(中央部の明度)に対して、実際に収差がある光学システムで達成可能な収束比の比率をパーセンテージで示したものである。ストレール比が高いほど光学システムの品質が高いことを意味する。ストレール比が95%以上の対物レンズは光学性能のピークとされている。
点広がり関数(Point Spread Function:PSF)は、実際の解像度を知るために用いられる。一方、変調伝達関数(Modular Transfer Function:MTF)は信号伝達(顕微鏡光学)のための入力信号と出力信号の間に発生する変調やコントラスト変化の割合を示す(2)。MTFは空間周波数、焦点位置、視野数に対してプロットできる。
顕微鏡の対物レンズの性能向上は、レンズ構造の内部の複雑化と小型化をもたらしている(図 1)。その結果、対物レンズは製造上の誤差による品質の差が生じやすくなり、その差が最終製品の性能のばらつきの原因となることがある。
この種のばらつきの可能性を最小限に抑えるため、ある種の高性能対物レンズの組み立て構成では、技術者が波面収差を測定しなければならない(図2)。
波面収差は、結像されたイメージが理想的なイメージからずれることで生じるものであり、品質パラメータとして管理される。理想の状態(無収差)に近づけるために、各対物レンズの波面収差を測定して制御することで、メーカーは従来の対物レンズに比べて光学性能のばらつきが非常に少ない対物レンズを製造できる(図 3)。
波面収差を補正した対物レンズの採用
ここでは、波面収差を補正した対物レンズを顕微鏡の設計に組み込むべき理由を3点挙げる。
1. 安定した高品質画像の生成:
画質は、機器のソフトウエアがどれだけ早く正確に計測できるかに影響を及ぼす。波面収差を補正した対物レンズは、安定した高品質画像を提供できる。そのため、最終製品で信頼性が重要な場合には、波面収差を制御した対物レンズの採用は必須となる。
2. コストの削減:
対物レンズの性能のばらつきが原因で撮像装置が適切に動作しないと、余分なコストが発生する。例えば、対物レンズを破棄して代替品を購入する必要があるかもしれない。波面収差を補正した対物レンズは高性能であるため、余分なコストを削減できる。
3. 製品の納期の安定:高性能が要求される機器では、対物レンズの性能のばらつきに対処するための調整が余分に必要となる。製造のリードタイムが長くなってしまう要因である。これに対し、波面収差を補正した対物レンズを設計に取り入れることで品質が安定し、予定した期間で機器を納品できる。さらに、信頼性の高い対物レンズのバックアップ在庫を確保できる。
波面収差補正は上記の理由で重要だが、ハイエンドの対物レンズを組み立てるときには、波面収差補正だけが設計上のキーポイントではない。特にシステムメーカーにとっては、高画質と設計・商業的な柔軟性を確保するためには、補償のない光学系が極めて重要である。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/03/040-043_bioft_microscopy.pdf