レーザ技術向上により実現する痛みのない美容治療

ジョン・ダリー、リック・スレイグル

脂肪除去などの美容治療において、レーザを熱源として使用すると皮膚に触れることなく脂肪組織内で均一な出力密度を得られるため、レーザの利点がさらに認められている。

レーザは何百もの医療分野で貴重なツールとなっている。1960年代に開発された最初のレーザであるルビーレーザは、登場してから1年も経たないうちに市販され、外科手術で使われた。無菌状態(非接触)で高出力を得ることができ、焼灼も組み合わせることができるため、医療分野へのレーザ応用は急速に発展した。
 医療用レーザは、出力や波長、組織との相互作用や透過性などを考慮して、特定のものが選ばれる。CO2レーザのような初期の機器は、互換性のある光ファイバを持っておらず、レーザビームの照射と操作のために複数のミラーを備えた多関節アームを使用する必要があった。現在は、ほとんどの医療用レーザ機器が、軽量で柔軟性があり、施術者が簡単に操作できる光ファイバケーブルに接続できるようになっている。このような使いやすさと、低リスクで非侵襲性であることにより、ほとんどの種類のレーザを外科医、皮膚科医、歯科医、獣医師が使っている。
 患者は、外科手術ではなく、より低リスクで優れた結果が得られるレーザを使った新しい技術を望んでいる。形成外科や美容医療の分野では、非侵襲的で治療後の回復時間が不要な施術として「ボディスカルピング」という言葉が使われており、しわの除去、脂肪の減少、筋肉の引き締めなどに応用されている。
 すべての生きている細胞は、分裂または成長と死の連続的なサイクルのもとにある。アポトーシスという正常な細胞死は常に起きており、自然に数週間かけて進行する。一方、ネクローシス(壊死)は細胞の突然死であり、瘢痕組織の形成など生体防御機構が生じる。適切な脂肪減少は、脂肪細胞へのアポトーシスに依存しており、低温または高温にさらされたときに起きる。無線周波数(RF)、超音波、レーザは、脂肪組織に42〜52℃の熱を発生させ、アポトーシスを引き起こす。52℃を超えると、組織においてネクローシスや望まない副作用を伴うため、避けなければならない。
 1064nmのダイオード励起レーザは、皮下脂肪組織への透過性が高いため、脂肪除去などに有効であることがわかっている(図1)。1000nm付近の波長は、水、ヘモグロビン、メラニンによって特徴づけられる皮膚や真皮組織への透過性が比較的高く、脂肪組織での吸収率が高い。例えば、米ドミニオン美容テクノロジーズ社(Dominion Aesthetic Technologies)は、1064nmのNd:YAGダイオード励起レーザが、治療後の回復時間がゼロで痛みのないボディスカルピング美容治療に有効であることを発見している。
 従来のNd:YAGレーザ機器はフラッシュランプで励起するため、循環水による冷却システムが必要だった。程よく機能して理想のレーザ特性があるものの、効率は5%以下であり、通常は循環水冷却とメンテナンスが必要である。フラッシュランプをダイオードレーザに置き換えることで効率は上がったが、水冷はまだ必要でコストも高くなってしまう。過去10年間で、産業用の固体レーザやCO2レーザから、ウォールプラグ効率が40%に迫るファイバレーザに徐々に置き換わっている。ファイバレーザは励起源としてファイバ結合ダイオードレーザを使用するため、この技術も進歩している。ファイバ結合モジュールは幅広い波長に対応するため、多くの用途で旧来の産業用レーザと競合できることに、ダイオードレーザのサプライヤーは気づいている。
 レーザダイオードバーは、低いDC電圧で動作する導電性冷却モジュールであり、簡単に50W以上の連続出力を得ることができる。複数のダイオードバーを光学的に組み合わせることで、1000Wを超える小型ファイバ結合レーザデバイスを作成できる。ウォールプラグ効率は50%と高く、導電性または基板冷却により300Wまで出力できる。ファイバ結合レーザダイオードモジュールは簡単に波長を調節でき、小さいサイズ、高い効率、ファイバ伝送、基板冷却の特徴があり、メンテナンスフリーで5万時間近い寿命がある。医療グレードの製品では、内部温度、レーザ出力モニタリング、ファイバセンシング、照準ビームの可視化、外部ブローバックウィンドウが一般的になっている。

図1

図1 さまざまな種類のレーザの組織透過性。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/03/036-038_bioft_aethetic_lasers.pdf