標準的なCMOSイメージセンサに3Dイメージングをもたらす回折マスク設計

ギル・サミー、ジェームズ・ミハイチュク

CMOSイメージセンサに光符号化透過回折マスクを適用すると、高品質の2Dカラー画像と近視野深度マップの両方が生成される。

3Dイメージングは、セキュリティ、民生エレクトロニクス、自動車をはじめとする多くの業界において、人間とマシンビジョンを対象とした多くの用途に不可欠な要素である。非常に広く利用されているため、ハードウエア、サイズ、演算負荷がいくらかでも削減されれば、メリットがある。本稿では、加エアリー 3D社(AIRY3D)が開発した3Dコンピュータビジョン手法である「DEPTHIQ」について、概要を説明する。従来の3Dイメージング技術よりもシンプルで、手ごろな価格で入手できるため、より高速で安価で小型の3Dビジョンシステムを構築することができる。
 DEPTHIQは、標準的なCMOSイメージセンサに光符号化透過回折マスク(Transmissive Diffraction Mask:TDM)を重ねることにより、互いに本質的に相関関係のある高品質の2Dカラー画像と近視野深度マップの両方を生成する技術である。
 2つの薄い透過材料層で構成されるTDMを、多くのCMOSイメージセンサの上に重ねることにより、2D画質を実質的に全く低下させることなく、3Dセンシング機能を提供することができる。これらの層は、位相格子からの回折を利用することにより、3D画像をキャプチャするための低コストで低演算量の小型ソリューションを実現する。図 1は、透明なTDMを従来型のCMOSイメージセンサに適用した様子である。簡単に言えば、透明な材料によって、マイクロレンズアレイの上に回折格子が形成されている。これが、マイクロレンズとカラーフィルタアレイ(CFA)の両方の特性に与える影響は最小限である。アクティブシリコンの中のピクセルフォトダイオードに達する前に、光を屈折及びフィルタリングすることにより、マイクロレンズとCFAは、スペクトル応答と色精度に強く影響を与える。このTDMは、元の2DのCMOSイメージセンサの基本的な微小光学構造に対応するように、設計が最適化されている。

図 1

図 1 水平方向と垂直方向の格子を持つ透過回折マスク(TDM)を標準的なCMOSイメージセンサの上に配置した様子。

TDM設計の概要

TDMの背景にある物理的原理は、位相格子からの回折である。従ってTDMは、高損失のマスクではなく透明構造であり、不透明なリソグラフィによるパターン形状には依存しない。そのため、少数の後処理工程によって、任意の既存のイメージセンサ設計に追加することができる。
 一般的にわずか数ミクロンの厚みしかないため、通常はレンズやその他のカメラモジュールコンポーネントに変更を加える必要なく、TDMをイメージセンサに追加することができる。ただし、どのようなイメージセンサもそうであるように、開口数(Numerical Aperture:NA)、主光線入射角(Chief
Ray Angle:CRA)、アライメント許容誤差に関して、適合性のあるレンズを選択することがやはり重要である。
 TDMは回折によって、位相/方向情報を光強度分布に符号化するように設計されている。この通常は「隠された状態にある」自由度には、発光源の深度に関する情報が含まれている。方向情報はTDMによって、フレネル回折という近視野光学現象に基づくプロセスを使用して抽出される。具体的には、回折格子などの周期的な構造によって生成された光照射野が、タルボット(Talbot)効果として知られる自己像形成現象によって表される。これは、光の位相と強度の両方によって、格子の近くにフラクタルに似た回折パターンが形成される現象である。

光学設計に関する考察事項

TDMとカメラモジュールの設計は、2Dイメージング要件だけでなく、必要な深度検出範囲や相対深度精度などの3D仕様によっても左右される。深度精度は通常、対象物体までの既知のグラウンドトゥルースの距離を基準としたパーセント誤差で表される。例えば、広く知られている商用のステレオカメラでいうと、有効範囲は約20cm〜数m、絶対誤差は2%以下と表記されている。
 実際の性能は、3Dイメージングソリューションの使用目的と、照明やコントラストといった実装の詳細条件に依存する。それでも3Dイメージングシステムの仕様を、TDMを採用するかどうかにかかわらず、2D画像キャプチャ仕様と、所望の深度範囲及び精度の組み合わせによって、暫定的に定義することが可能である。
 光学設計者は、TDMを適用したイメージセンサから高品質の2D画像が簡単に再構築できることも示す必要がある。評価の対象となる画像品質の主要指標には、変調伝達関数(ModulationTransfer Function:MTF)、量子効率(Quantum Efficiency: QE)、色忠実度、感度不均一性(photoresponse nonuniformity:PRNU、光を当てた場合の固定パターンノイズ[Fixed Pattern Noise:FPN]に相当するもの)などがある。

開口数(NA)

2Dイメージセンサの場合、重要な設計パラメータは、NA、CRA、所望の2D解像度(ピクセル数)などである。TDMを使用して3Dイメージングに拡張されたイメージセンサの場合でも、これらの属性はやはり重要だが、光学特性が深度分解能と精度に与える影響も、評価する必要がある。
 NAは、屈折率と、カメラレンズの受光範囲を表す境界光線を母線とする光円錐の頂角の半分との積で概算される。つまりNAは、システムが受光する角度範囲を表す。
 対物レンズに入射して、境界光線を母線とする円錐の範囲内にある光に対し、適切に設計されたTDMは、2Dまたは3D画像データにひずみを引き起こすことなく、格子で変調された2D画像の中に有効な方向情報を提供することができる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/03/033-035_iiv_diffraction.pdf