先進的なレーザ光伝送によって向上する医療

アンソニー・カッパビアンカ、ハイケ・フランク、ベルント・シュルタイス

低侵襲性外科手術の支援、腫瘍の死滅、皮膚疾患の治療など、光による治療は患者の健康増進に重要な役割を果たしている。

ここ数十年の間に、レーザはさまざまな病状を治療するための重要なツールとなっている。例えば、レーザ間質性熱療法(LITT)では光ファイバを用いてレーザ光を直接組織内に照射し、てんかんの原因となる腫瘍細胞や病変部を焼灼する。光線力学的療法(PDT)や光免疫療法(PIT)はいずれも光増感剤と光を用いて、がんを標的にする(図1)。これらの成功への必要条件は、光ファイバの先端部に拡散性をもたせて、均一で効率のよいレーザ光を伝送することである。
 近年、レーザ熱アブレーションともいわれるLITTは、定位脳手術において、脳組織の低侵襲性治療の新たな選択肢を提供している。リアルタイムMRIを用いて、頭蓋骨に小さな穴を開けてレーザカテーテルを挿入し、主に980nmまたは1064nm波長のレーザ光を照射する。これにより、選択的に病変部やがん細胞を死滅できる熱を発生させる。最 初に市 場に投 入されたLITTシステムは2007年に米国でFDAに承認され、つい最近では2018年に欧州でCE承認を取得した(1)、(2)。LITTは、脳腫瘍や薬剤抵抗性てんかんといった、アクセスが困難な治療法として期待されている。
 PDTは、主に赤色の波長(665nmまたは690nm)の光で活性化して、がん組織を選択的に破壊する非侵襲的な治療法である。光増感剤と呼ばれる光感受性の高い薬剤は、悪性細胞に蓄積する。レーザ光で活性化させると、その薬剤が有害な酸素を発生させる。隣接する正常組織へのダメージは最小限に抑えながら、がん細胞を破壊する。PDTは、皮膚、膀胱、頭部、頸部に関連するがんを治療できる。
 PDTと同様、PITは赤色スペクトル(例えば690nm)の光照射を使用する。光で活性化する抗体・色素の結合体を用いて、がん細胞を破壊し、免疫系を刺激する。PITは、特定の頭頸部がんの治療法として、2020年に日本で初めて承認された(3)。
 同じく、静脈瘤の治療に使われる静脈内レーザ治療などにおいても、光を制御して照射することは重要である。レーザは皮膚科分野においても、病変部の除去、脱毛、乾癪の治療などに用いられ、粘膜の感染を軽減するための処置にも使われる。歯科の抗菌アプリケーションでは、レーザは歯周病を引き起こす細菌を破壊するために使用される。
 光による治療がより複雑で精密になるにつれて、区画された領域に正確な光強度で照射するための部品にも多くのことが要求されるようになっている。これらのアプリケーションの厳しいニーズに対応できる先進的なレーザディフューザによって、より効率よく、より簡単に治療を行えるようになっている。ガラス製ディフューザは、非常に均一な光出力と、可視光や近赤外波長を高効率で伝送できる高出力を併せ持つ、ユニークな部品である(図2)。

図1

図1 レーザ間質性熱療法(LITT)(a)、光線力学的療法(PDT)と光免疫療法(PIT)(b)。いずれも、がんや、他の重篤な病変の治療に使用される。

図2

図2 ショット社のガラス製のルミナスディフューザに光ファイバを組み合わせると、集光したレーザビームが均一で制御された方法で散乱する。円筒形や球状だけでなく、前面発光や特殊形状の設計も可能。

高性能とカスタムデザインの融合

 円筒形のディフューザは、さまざまな医療分野において期待されている。独自の光学ガラスを製造し、ユニークな散乱要素を組み込んだカスタマイズ可能なガラスマトリクスによって、ディフューザの全長にわたって±10%以下の誤差で優れた均一性のある光の放射が可能となる。LITTでは、外科医が制御された方法で組織を加熱でき、不要なホットスポットをほぼ減らすことができることを意味する。PDTとPITでは、均一な光の放射により、外科医はデュフューザの全長にわたって同じ光量を照射できる。
 ガラスマトリクスはカスタマイズ可能であり、近紫外から近赤外まで、幅広いさまざまな波長に対応できる。デュフューザの長さは約3mmから50mmまでカスタマイズできる。この範囲を超えて要求する製品設計に対しても、要望に応じて対応する。放射プロファイル試験では、同一シリーズのディフューザで高い再現性が得られている。
 さらに、これらのディフューザは、80〜90%という非常に高い効率を実現している。これは、レーザ光が効率よく照射され、デュフューザ本体での光の吸収が少ないことを意味する。効率が高ければ高いほど、背面反射が少なくなる。これにより、レーザはより安定し、LITTアプリケーションでは重要な要素であるオーバーヒートが原因のレーザの停止や破損が起こりにくくなる。PDTとPITでは、熱吸収が少ないデュフューザでは温度が下がり、より高い性能が得られる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/01/040-042_bioft_biomedical_optics.pdf