新しい商用分野を開拓する、コンパクトな深紫外連続波レーザ

スコット・バクター

ダイオード励起のプラセオジム結晶と第2高調波発生に基づく小型レーザは、堅牢性が高く、商用分野に適用できる状態にある。

深紫外線(deep UV)の波長領域(λ< 300nm)で動作する連続波(CW)レーザは、ラマン分光法、蛍光顕微鏡法、光学検査、殺菌など、多くの用途に有 効である。この種のレーザは従来、波長が1μm付近の近赤外(near IR)ネオジムレーザの周波数4倍化によって 構築されてきた。このアーキテクチュアには、単一周波数の基本レーザと、共振器内第2高調波発生(SHG)の場合は1つ、それ以外の場合は2つの高感度の外部共振空洞が周波数変換のために必要であることから、このような システムの利用は主に研究用途に限定されている。その複雑な構造により、最もコンパクトなデバイスでも靴箱ほどのサイズがあり、携帯型やハンドヘルドの装置には基本的に使用できない。フィンランドのUVCフォトニクス社(UVC Photonics)はこの数年間、ダイオードレーザと同等のフォームファクタと堅牢性を備える、プラセオジムをベースとした深紫外CWレーザの開発に取り組んでいる。

プラセオジムレーザの歴史

プラセオジムは、決して新しい可視光レーザイオンではない。イットリウムリチウムフルオライド(YLF)をホストとするプラセオジムからの室温における青色レーザ発光が初めて示されたのは、1977年にまで遡るためである(1)。その実験では、励起源はパルスエキシマレーザ励起の色素レーザで、完成したシステムはコンパクトでも実用的でもなかったために、商用製品の開発には至らなかった。その20年後に、アルゴンイオンレーザを励起源とする、初めての室温でのCW可視光発光が示された(2)。しかしこのアーキテクチュアも、研究用途にしか適さないものだった。1998年には、最初の完全固体のプラセオジムレーザが、赤、緑、青の出力波長で実証された(3)。これはコンパクトなレーザに向けた大きな一歩だったが、それでもフラッシュランプ励起の固体レーザが励起源として必要だった。
 ほぼ同じ時期に、初めての青色発光のダイオードレーザが開発されていた。これは、可視域内の複数の波長で動作し、UV域へのSHGの可能性を秘めた、コンパクトなプラセオジム源を期待させるものだった。しかし、青色ダイオードの出力が励起源として使用できるレベルに達するまでに、さらに数年を要し、最初のダイオード励起のプラセオジムレーザが示されたのは2004年のことだった(4)。この最初のレーザの出力はわずか数mWだったが、プロジェクターでの使用を目的としたディスプレイ市場に主に牽引されて、青色ダイオードの励起源は急速に改良された。数年のうちに、実験室で実証されるプラセオジムベースのレーザからのCW出力は、可視域からUV域までの波長にわたって、数百mWレベルにまで増加した(5)。
 有望な未来が待っていると思われたプラセオジムレーザだったが、商用システムはほとんど登場せず、登場したものも短命に終わった。その一因は、可視光ダイレクトダイオード技術の急速な進歩にある。2010年代初頭には、赤、緑、青色波長でワットレベルのCW出力が可能なダイオードが提供されていた。これらのデバイスは、ビーム品質は一般的に固体レーザよりも低かったが、大半の用途に適しており、そのシンプルさとコストは、他の技術では太刀打ちできないものだった。
 プラセオジムベースのレーザが急増しなかったもう1つの理由は、本質的により科学的なものである。その優れたレーザ結果を詳しく説明する文献の中ではほとんど触れられていないが、プラセオジム添加のフッ化物結晶は、商用製品に求められる品質と一貫性を確保しつつ成長させるのが、極めて難しい。UVCフォトニクス社の結晶成長の専門家らは、50年以上にわたってフッ化物結晶の成長に取り組んできた。実際、上述の1977年に初めて実証されたレーザに用いられた結晶を成長させたのも彼らだった。その経験が最終的に、レーザ製品に必要な再現性を達成するための材料の高純度化と成長のプロセスにつながっている。

プラセオジムレーザの商用応用の追求

一見したところ、これらの深紫外レーザの光学的構造は、かつては至る所にあった、周波数を2倍化したネオジム添加結晶をベースとする緑色レーザポインタに、非常によく似ているように見える。構成要素は、シングルエミッタの励起ダイオード、レーザ結晶、非線形結晶、出力ミラーとシンプルである(図1)。このレーザは、522nmの基本波長で動作するように設計されている。共振器内周波数2倍化により、出力波長は261nmになる。しかし、材料成長の課題に加えて、状況を複雑にする微妙な相違点が存在する。

図1 深紫外レーザは、青色励起ダイオードレーザ、プラセオジムレーザ結晶、第 2高調波発生(SHG)結晶、共振器出力ミラーで構成されている(a)。これによって、非常にコンパクトなデバイスが完成した(b)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/01/028-031_ft_scientific_lasers.pdf