水質改善につながる環境センシングの進歩

ロバート・V・キメンティ

世界中の当局が、より高い水質基準を推進している。UV LEDを利用するシステムの技術的進歩が、その基準の達成を支えている。

フォトニクス技術、特に分光法は、環境センシングにおいて広く利用されている。過去10年間に本誌に掲載された環境センシングに関する記事のほ
とんどが、差分吸収分光法(Differential Optical Absorption Spe c troscopy:DOAS)や差分吸収ライダ(differ ential absorption lidar:DIAL)の大気汚染測定への適用など、現場とは離れた場所での検出手法に関する議論に終始していた。それらの手法は、技術的観点において興味深く、大気汚染を減らす大きな可能性を示しているが、フォトニクスが環境センシング分野に与える効果全体のほんの小さな割合を占めるものにすぎない。実際、この四半世紀の間に、紫外(UV)分光法による現場での水質検査が、環境センシングにもたらした効果は、その他すべてのフォトニックアプリケーション
を合わせた効果よりもはるかに大きいという見解もある(1)。
 その期間の大半において、現場用のUV水質センサは、固定の連続フロー監視ステーションに設置するには、限界があった。サイズや消費電力の他、従来型のUV光源の寿命が比較的短いことが、その主な要因である。幸いにもUV­C LEDが成熟し、今では1000時間を超える連続動作寿命が標準となっている。さらに重要な点は、オン/オフサイクルを繰り返しても、従来の照射ランプと違って、ほとんどあるいはまったく劣化しないため、一般的な動作条件下で何年もの耐用年数が得られることである。多くの水質監視システムが非常に低いデューティサイクルで稼働するため、これは標準的なUV­CLEDが、通常の動作条件下で5〜10年は優に持つ可能性があることを意味する。
 Laser Focus World誌の姉妹誌であるLEDs Magazine誌の2020年9月号には、水質検査に対するUV­C LEDのメリットを詳しく紹介する記事が掲載されている(2)(日本版は2020年12月号P14)。この記事の中で著者のハリ・ヴェヌゴパラン氏(Hari Venugopalan)は、水質解析における、重水素ランプ
やキセノンランプなどの従来の広帯域のUV光源からUV­C LEDへの移行の背景にある論理的根拠を、専門的に解説している。同氏は、LED技術によって「光学設計が簡素化され、ミラー、フォトダイオードアレイ、シャッターが不要となり、安価なフォトダイオードが使用可能となる」と記していた。また、硝酸塩やPAH(多環芳香族炭化水素)など、さまざまな水質汚染物質に対してどのLED波長を選択するべきかについても論じている(表参照)。しかしこの記事は、さまざまな水質汚染物質の本質的なUVスペクトル特性にしか触れていない。実際にはそれは、現場でのUV水質検査能力を表面的になぞっただけにすぎない。
 市販のUV­C LEDの進歩と並行して、マイクロ流体デバイスと超小型クロマトグラフィも大きく進歩し、UV水質解析のためのポータブルな「湿式化学センサ」が技術的に実現可能になっている。水質解析に関しては特に(すべてのサンプルが濡れた状態にあるため)、その名称は直観に反するが、この文脈においてその用語は、マイクロ流体チャネルを通して水サンプルに試薬を添加して、UV活性派生物質を発生させることを意味する。また、UVセンサの機能は、それらの反応に基づく他の一般的な汚染物質、特に亜硝酸塩レベルの定量化を行うように拡張される。
 さまざまな種類の細菌がアンモニアを亜硝酸塩に変換し、亜硝酸塩を硝酸塩に変換するものもあるため、水質センサは、水中の合計窒素含有量だけでなく、亜硝酸塩と硝酸塩の個々の濃度を正確に定量化することが重要である。経済連携協定(EPA)のガイドラインでは、水中の硝酸塩の最大汚染度は10mg/Lと定められている。一方、亜硝酸塩はたった1mg/Lと規定されているため、硝酸塩や合計窒素量のみが検出可能なシステムでは、実際には許容できない亜硝酸塩レベルで汚染されている水を、安全であると認定してしまう恐れがある。
 その結果、学術界と民間企業の両方で、ポータブルでハンドヘルドのUV水質検査装置の開発に対する関心がこれまで以上に高まっている。次世代のポータブルUV水質センサを十分に理解するには、UV­C LEDと光検出器が、最新のマイクロ流体デバイスとクロマトグラフィの技術進歩とともにどのように適用されているかを、より包括的に理解する必要がある。

ポータブルUV水質センサの中のマイクロ流体デバイス

マイクロ流体デバイスの最も一般的な定義は、直径1mm未満の1つ以上のチャネルを液体が流れるデバイスである。マイクロ流体チャネル内の具体的な動力学に関する厳密な物理的解説は、本稿の範囲外である。ただし、チャネルが細いほどフローは層流状になることを理解しておくことが重要である。乱流にも、混合に適しているなど、いくつかのメリットはあるが、乱流によってサンプル体積内は時空間的に不均質になり、測定が不確かになる場合が多い。それとは対照的に、一様な液滴の一様な層流を生成するマイクロ流体チャネルには、複数のメリットがある。例えば、必要なサンプル量が少なく、試薬の消費量が減り、検出限界が低く、光出力要件が低く、エアギャップやオイルギャップの液滴形成が可能である。
 チャネルが細長くて総体積が小さいマイクロ流体デバイスは、優れた光学的性質を備えるが、フローを生成するための能動的なポンプが必要である。最も一般的な種類のポンプは、電気浸透流ポンプ(electroösmotic pumping)というもので、チャネルに印加された電圧を使い、チャネル壁面近傍のイオンを利用してフローを生成する。残念ながら、この方法には通常、やや大きな電圧とコストの高い材料が必要で、ポータブル装置に対しては理想的な方法ではない。一方、ぜん動ポンプやベンチュリーポンプは、サイズとコストが年々低下しており、今ではポータブルデバイスに十分に搭載できるレベルに達している。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/01/024-027_ft_environmental_sensing.pdf