材料科学のための効率的なラマン分光法

セバスチャン・レミ

マルチステージの分光法により、研究者は物質の内部特性に関する重要な情報を取得して、量子や2次元物質をより深く調査することができるようになる。

物質のラマンスペクトルには、元素組成など、その物質の内部特性に関する豊富な情報が含まれており、その情報は、物質の識別だけでなく、分子、電子、バンド、エネルギー構造の解析にも利用できる。また、そこには、電荷担体、原子、その環境の間の重要な相互作用も示される。
 ラマン光は外的パラメータに敏感で、ラマンスペクトルの応答を検出することによって、温度、圧力、化学的環境や分子環境の変化に応じた、波長や強度シフトの他、スペクトル線の拡大を観測することができる。
 ラマン分光法は、材料科学研究において、新しい応用分野の特性評価や開発のための重要な手段となっている。太陽電池の研究、オプトエレクトロニクス素子、量子物質、生物化学、合成
触媒など、さまざまな分野の進歩に不可欠な情報が、ラマン信号から取得されている。

分光システムに対する要件

ラマン分光法の応用分野は非常に多岐にわたるため、さまざまな用途に対するラマン分光システムの要件が、広範囲に及ぶのは当然のことである。しかし、先進的な材料科学研究で一般的に求められるのは、以下に挙げるいくつかの性質である。
 高い分解能。分解能とは、異なる波長のスペクトル線を分離及び検出する分光システムの能力である。高い分解能を備えるシステムは、スペクトル内のより多くの情報と微細構造を示し、スペクトル線の位置の小さなずれを測定することができる。
 多様な物質へのシステムの適応。研究施設では、さまざまな物質や、さまざまな励起波長や検出波長で動作する実験装置を使って、実験を行う場合が多い。また、時間分解測定か定常状態測定かなど、特定の実験に対して最適化された、さまざまな検出器が使用される。
 高い迷光除去性能。迷光除去とは、ラマン信号とは関係のない背景光や環境光を抑制するシステムの能力である。迷光除去性能が高いシステムは実質的に、レーザ線の非常に近くでスペクトル特性を測定することができる。
 励起レーザの弾性的なレイリー散乱は、弱いラマン信号よりも一般的に106倍以上強く、ほとんどのラマン分光システムに、これを抑制するための強力な光学フィルタが採用されている。マルチステージの分光器は、光学フィルタなしでレーザ光を抑制し、多くのファイバベースのシステムよりも高い分解能と迷光抑制機能を提供することができる。

マルチステージシステム

図 1は、3つの分光器からなるシステムの概略図である。入射スリットを通過した光は、回折格子によって、異なる波長成分に分離(分散)され、分光器の出射面に集光される。
 マルチステージシステムでは、1つの分光器の出射スリットが次の分光器の入射スリットとなって、この工程が複数回繰り返される。信号は、最終ステージの出口でカメラによって検出される。図1に示した3ステージシステムは加算モードで動作し、各ステージの分散の分解能は加算されていく(分解能は、最大で各ステージの分光器と格子の3倍になる)。レイリー散乱は、格子の調整によって除去されるため、レーザ波長の光は中間スリットを通過できない。

図1

図1 3つの分光器は、分散加算モードで動作する。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/11/020-023_ft_raman_spectroscopy.pdf