高い精度とスループットを実現する可変マルチビームツール

ホルガ—・シュルター、ステファン・アイフェル

スキャナに、それと同期するメカニカルステージを統合したマルチビーム光学エンジンは、大きな走査領域を処理するための新しいレベルの精度とスループットを実現する。

業界では小型化が急速に進行している。電子部品やディスプレイの製造において求められる、さらなる構造の微細化に伴って、フィーチャ密度が増加する一方で、穴あけなどの製造工程における、1秒あたりの移動距離という意味でのスループット目標を達成するために、レーザ走査速度の増加も必要になる。
 その一方で、超短パルスレーザの平均出力とパルスエネルギーは、継続的な技術的進歩に支えられて、ますます高まっている。その高い出力を産業プロセスで最大限に活用することを妨げる最大の障害は、一般的に走査技術である。加工対象物への熱蓄積効果を防ぐには、十分に高いパルス分離が必要になるためである。
 利用可能な出力レベルを増加させるために適用できる有望な方法として、ポリゴンスキャニングとプロセス並列化の2つがある。

3つのマルチビーム走査コンセプト

独スキャンラボ社(SCANLAB)と、マルチビーム走査を専門とする独パルサーフォトニクス社(Pulsar Photonics)の共同開発プロジェクトは、1つのメインスキャナ上で複数のビームを使
用することによる、並列化に着目したものである。このいわゆる「マルチビームレーザスキャニング」構成により、多数の同一構造を高い構造密度で加工する必要がある用途における、レーザプ
ロセスを高速化することができる。そうした用途としては、高密度のプリント回路基板(PCB)やマイクロLEDディスプレイの製造などが挙げられる。
 産業用レーザ加工のスループットを上げることを目的とした、複数の異なるコンセプトが存在する。1つめは、1つのレーザと1つのスキャンヘッドで所望のスループットが得られない場合に、レーザやスキャナを含む機器をもう1台用意することによって、プロセスを拡大するというものである。しかし、この方法はコストが高く、効率が低い場合が多い。また、高エネルギーの超短パルスレーザの最新の進歩が考慮されず、例えば、利用可能な最大レーザ出力が効率的に活用されない可能性がある。
 2つめの方法は、1つのレーザにビームスプリッタを組み合わせて、複数のスキャナにビームを供給するものである。しかしこの方法には、加工対象物へのアクセス性に関する問題が生じる場合が多い。各スキャナによって、加工対象物のそれぞれ異なる領域を処理する必要があるためである。加工対象物が小さい場合は、各スキャナによって異なる加工対象物を処理しなければならないため、ハンドリングシステムに追加のコストが発生する。
 3つめのコンセプトは、1つのメインスキャナで複数のビームの走査を可能とする、新しい方法を採用するものである。最大限の柔軟性を持たせるために、個々のビームは個別にオン/オフ可能であるとともに、限られた領域に
ステアリング可能である(図 1)。

マルチビームエンジンのパラメータ

この動的なマルチビーム走査システムを、エレクトロニクス業界の用途に有効な形で開発するには、以下の要件を満たすことによって、スキャナベースのマルチビームプロセスにおける、高い生産性を達成する必要がある。
・ レーザビーム数が柔軟に変更可能
・ マルチビームのスポット構成が柔軟に変更可能
・ 異なるスポット構成の間を高速に切り替え可能
・ 各レーザサブビームが個別に走査/位置決め可能
 図1には、このマルチビーム光学エンジンのコンセプトの主要パラメータが示されている。このデモ機には、スキャンラボ社の関連企業であるイスラエルのホロオア社(Holo/Or)が開発した回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)が採用されている。このDOEによって、レーザのメインビームが4つの同一のサブビームに分割される。その結果、このマルチビーム
スキャナは、垂直スポット間隔が0.4〜1.6mmの間で変更可能な4本のサブビームを照射する。
 各サブビームが個別にオン/オフできるだけでなく、すべてのサブビームを半径0.3mmの円の範囲内に個別かつ動的に位置決めすることができる。その位置決め範囲の例が図1に示されている。加工対象物のすべての領域を網羅するために、メインスキャナと個々のビームを組み合わせて動かすことが可能である。このプロジェクトの次の段階では、個別ビームの数を増やすことが可能になる予定である。

図1

図1 マルチビームツールのマルチビームパラメータと構成例。4本の個別ビームが加工対象物上に、約1mmの公称距離間隔で位置決めされている。個々のビームは、半径0.3mmの範囲内で操作可能で、個別にオン/オフ可能である。焦点距離は100mmである。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/11/016-018_ft_scanning_systems.pdf