車載ヘッドアップディスプレイの設計と解析

チヒョン・チャン、チャオシー・ツァオ、リチャード・N・ヤングワース

自動車用ヘッドアップディスプレイシステムの設計に、最新の光学設計及び照明ソフトウエアが活用できる。

現代の自動車市場の需要に応えて、優れた性能を備えた費用対効果の高い光学システムを必要とする、多数の新しい用途が登場している。そうしたシステムを構築するには、光学設計とエンジニアリングの両方に対して、新たなソフトウエア機能が必要である。本稿では、米ラムダリサーチコーポレーション社(Lambda Research)の「OSLO」(Optics Software for Layout andOptimization:レイアウトと最適化のための光学ソフトウエア)と「Trace Pro」を使用した、品質の高い車載ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムの光学設計と解析について解説する。これらの製品は、光学系のさまざまな問題を有効に解決するために、連携して動作するように設計されている。
 HUDシステムとは、ユーザーの通常の視界の中に情報とデータを表示する、透過型のディスプレイである。通常の視界とは基本的に、ユーザーが目や頭を動かすことなく見ることのできる範囲を意味し、その範囲に拡張データを表示することは、自動車の主要な最新安全機能である。自動運転車が登場しても、拡張システムに対する需要は続くと考えられる。本稿で用いるシステムの概念を、図 1に示す。
 ハイレベルの概念は、自己発光型の光源パネルが投影するデータを、仮想画像としてユーザーの前に表示するというものである。適切に実装されたHUDシステムは、必要な情報をユーザーに伝達し、高い画質(コントラストなど)を実現し、画像が二重に見える二重像などの望ましくないアーチファクトを抑え、診断情報でユーザーを支え、さまざまな条件下で使用するための優れた照明特性を維持する。このシステムは、さまざまな使用条件下で動作し、費用対効果も高くなければならない。イメージング性能だけでなく、視覚条件に特化した照明機能も求められる。

図1

図1 車載HUDシステムの概念。

重要な要素となる工業設計

図 2はシステムの概念を、一般的な構成要素とともにより詳しく示したものである。光源ディスプレイによって、拡大光学部品を備えた反射システムに光を照射し、その光の一部がフロントガラスで反射して、ユーザーのアイボックス(視認範囲)に入る。複数の異なる概念に基づいた実装が可能だが、2つのリフレクタを用いるものが、現時点で最も一般的な構成である。多くのメーカーがこれまで以上に、顧客層に訴求する工業設計を、設計作業の非常に重要な要素としてとらえている。その成功を促すために、工業設計要素に関する情報フィードバックを提供することが、非常に重要である。
 このイメージングシステム設計は、大きな射出瞳に対して機能するが、ここではユーザーの瞳の視認範囲を、性能が求められる視覚条件として想定する。このHUD設計例の主要なシステム仕様を表にまとめた。本稿のソリューションにおいて、ミラー 1はフリーフォーム面、ミラー 2は平面で、このシステムの回折限界は、ユーザーのアイボックスと視野(Field Of View:FOV)の範囲である。
 イメージング性能は、OSLOが提供する設計の柔軟性と自由度を最大限に活用して、最適化されている。OSLOでは座標系が柔軟に設定できるようになっており、それに基づく座標機能や座標制約によって、このような軸外反射設計や、難しい反射望遠鏡に対応することができる。ここでは、分散、表面傾斜、座標復元を組み合わせて、システムの設計と解析を行った。OSLOのスライダー式のコントロールは、この種のシステムに対して非常に有効で、初期光学レイアウトにおいても役に立った。スポットダイアグラム指標を使用した、OSLOのオペランドエラー関数フォーマットを実装することにより、使用条件に対して回折限界性能を達成するように、システムをさらに最適化した。
 複数のモデリングオプションの間を行ったり来たりすることがもちろん可能で、設計者は、無数の異なる仕様に対して効率的かつ柔軟に設計を行うことができる。また、スポット、ひずみ、変調伝達関数(Modulation Transfer Fun ction:MTF)、拡張光源シミュレーションを解析するための多数の解析機能も利用した。これらの指標の一部について、システム性能を図 3に示す。これは、TraceProで行った二重像解析も含めた結果である。
 この種のHUDシステムには、イメージング性能以外にも複数の課題が伴う。本稿の設計プロセスでは、そうしたその他の課題に対応するために、TraceProのソリッドモデリング、光源モデリング、表面特性、フォワードレイトレーシング、輝度解析、写実的レンダリングを活用した。TraceProでは、特性データベースを使用するか、必要なデータを構築して一般表面特性として保存することにより、光源や表面の特性を変えることができる。TraceProのデータベース機能を利用することにより、さまざまな光源と表面の設計特性に対して性能を確保することができる。

図2

図2 HUD の構成要素を示したハイレベルの概念。

図3

図3 OSLOによるHUDのイメージング性能。示されているデータは、TraceProを使用した、二重像現象を回避するためのフロントガラスのテーパリング設計も含めた結果である。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/09/029-031_ft_optical_design_software-1.pdf