より現実的な段階へとギアを上げる自動運転車の技術

ジェフ・ヘクト

フォトニック集積は、コストを削減し、自動運転車に必要なパフォーマンスを達成するための重要なテクノロジーとなった。

産業界において自動運転車はギアを一段と上げている。本田技研工業は2020年後半に、2021年3月に日本のレジェンドモデルにいわゆる「渋滞アシスト」を導入すると発表した。これは低速車線における自動運転であり、高速道路の走行がゆっくりになったときに自家用車の制御を運転者から引き継ぐ機能である。マニュアルによると、レーダーとカメラを使用して、道路がほぼ真っ直ぐで車線が検出できる限り、安全を保った距離で先行車を自動的に追跡する(1)。これにより、人間のドライバーは、高速道路の速度に達
するまで走行の心配をする必要がなくなる。高速道路の速度に達すると、ドライバーは再びハンドルを握る必要がある。人間のドライバーによる制御手段を欠いているロボタクシーは、これよりも未来へと滑り込んでいる。
 技術開発における大きなシフトは、自動運転システムの長距離トラックの制御への適用である。大きなトレーラートラックは道路で長時間を過ごし、通常、走行距離の約95%は、手入れが行き届き、アクセスが制限された高速道路である。これは自動運転車に向く適切に制御された環境である。開発者はさしあたって、高速道路を降りて倉庫に行く必要があるときや、道路の交通員が指示する一時的な迂回路などの複雑な状況に対応する必要があるときに、人間をトラックに乗せて運転することを想定している。完全なレベル
4の自動運転は、技術が洗練され検証されるにつれ、あと数年で実現するだろう。大きなトレーラートラックは大きな投資であり、休憩や睡眠なしでロボットがまっすぐに運転可能にすることによる節約は、新技術の対価になる可能性がある。

自動運転へのでこぼこ道

これらの方向転換は、経済的及び技術的限界を部分的に反映しているが、最も重要な限界は人間のドライバーの能力かもしれない。開発者は当初、自動車の自律性が、補足(「運転自動化のレベル」を参照)に表示されるレベルを進むに従って、人間のドライバーからロボットへ制御をシフトすると想定していた。当初の目標はレベル3の自律性であり、ロボットが車を運転し、人間の運転手は道路に目を向け、ハンドルに手を添えて、必要に応じて警告なしに引き継ぐ準備をしておくというものだった。
 しかし実際には、人は車を運転している時でも気が散りやすいものだ。車の運転を見ているだけとしても、目は道路に向くよりも携帯電話やその他の画面に向きがちである。前方を向いていなかったテスラのドライバーは、前方の道路を横断する青い空を背景にした白いトラックを車が認識できなかったために死亡した。米ウーバー・テクノロジーズ社(Uber Technologies)の車両は、夜間に自転車を押して道路を横切っている歩行者を認識できなかったため、死亡させた。制御が運転者に戻されたが、歩行者をはねた時、運転手はまさに電話から顔を上げたところだった。
 これらの致命的な事故により、多くの開発者はレベル3は危険な段階だと考えている。多くの企業は、レベル2からレベル4に一気に引き上げることを期待されている。このためには、車が人間の助けなしにほとんどの条件を処理できることが必要である(2)。特に、道路に停車してライトを点滅させていた真っ赤な消防車に自動運転車が衝突するといった、致命的ではないもののばつの悪い事故が発生してから、一般市民も警戒を強めている。パンデミックは2020年初頭に開発にブレーキをかけたが、企業はすでに技術を洗練し、コストを削減するために開発を遅らせていた。

自家用車vs.ロボタクシー

米テスラ社(Tesla)は、2020年に、2019年に比べて35%増の約50万台の自家用車を納入した(3)。2019年3月以降のすべての「テスラ」にはオートパイロット機能が搭載されており、追加機能を提供するオプションとして、「フルセルフドライブ機能」と呼ばれる拡張ソフトウエアが利用可能である。追加機能の中には、車が高速道路の侵入車線から出口車線まで運転する機能、インターチェンジをナビゲートする機能、車線を変更する機能、正しい出口を出る機能などがある。ただし同社は、自動運転機能には「積極的なドライバーの監督が必要であり、車両を自動運転にしない」ことを強調している(4)。つまり、今までどおりドライバーには道路に目を向け、ハンドルに手を置くことが期待されている。
 ホンダの渋滞のパイロットのように、テスラの制御システムはレーダーとカメラを使用して環境を感知するが、ライダは用いていない。2年前、テスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏(Elon Musk)は、「ライダに依存すると破綻する」と宣言し、レーダーとカメラでナビゲーションに十分であると宣言した(5)。テスラ社が自動運転機能を備えた自家用車を販売して利益を上げるには、ライダは高すぎると言ったほうが適切かもしれない。
 ホンダの渋滞アシストも同様の技術を使用しているとみられるが、車の走行速度が非常に遅い時に前方の車を追いかけるためのもので、重傷を負う可能性はほとんどない。マニュアルは注意深く、オートバイを追う時、料金所に入る時、または追いかけている車が別の車線に移動した時に正しく機能しないことを警告している。他にも、自
家用車用に同様のシステムを開発した
企業がある。
 かつて米グーグル社(Google)の一部門だった米ウェイモ社(Waymo)、米ゼネラル・モーターズ社(General Motors)の自動運転車部門であるGMクルーズ(GM Cruise)、及びその他のサービスとして個人輸送を提供している企業によって開発されているロボタクシーの市場では話は変わる。これらの車両は、自家用車のようにガレージに収まっているのではなく、多くの場合道路上にあり、自動運転に必要なライダのコストを相殺するのに役立つ。レベル4の自動運転が望ましいとされる。しかし、これらの計画は遅れており、初期のパイオニアであるウーバー社は、12月に自動運転車グループを米オーロラ・イノベーション社(Aurora Innovation)に売却した(6)。
  米ルミナー・ テクノロジーズ社(Luminar Technologies)の共同創設者兼最高技術責任者であるジェーソン・アイヒェンホルツ氏(Jason Eichenholz)は、現在、真のレベル4の自律性を備えた車を提供しているところはないと述べている。ただし、2022年に、スウェーデンのボルボ社(Volvo)は、ルミナー社の「イリス(Iris)」1550nmライダと、スウェーデンのゼンセアクト社(Zenseact)の他のセンサ及び自動運転ソフトウエアを組み合わせた「ボルボ・ハイウェイ・パイロット(Volvo Highway Pilot)」と呼ばれるオプションシステムを搭載した車の提供を開始する。このライダは消費者向け車両において初になる。
 アイヒェンホルツ氏は、ボルボ社の製品は高速道路では、レベル4の自律性を備えた「真の自動走行モード」システムになると述べている。高速道路は走行速度が速い場合があるが、環境は都市や郊外の道路よりもはるかに予測可能であり、交差点の通行や歩行者、信号機、自転車はない。高性能ライダを備えたレベル4の自律性は、高速道路環境内の物体を識別し、それらの周りを安全に操縦するための長い検出範囲と高いポイント密度を提供する。車の制御は他の環境では人に引き渡されるため、一般的なドライバーは車を自宅から高速道路に誘導し、車はそこから出口車線まで運転し、人間は高速道路を出て目的地まで運転するときに制御を再開する。
 「時間の経過とともに、そのレベル4のエクスペリエンスの運用領域が拡大し、テクノロジーが向上するにつれて、より多くの運転エクスペリエンスをカバーできるようになる」とアイヒェンホルツ氏は言う。しかし、急速な移行を期待するべきではない。「すべての運用領域で完全に自動走行モードのレベル5に到達することは、非常に困難である」と彼は言う。「(道路の)99%のカバーを達成するのは簡単だが、規制当局はファイブナイン(99.999%)を望んでいる」。それには正当な理由がある。アメリカの田舎は、標識のない未舗装の道路でいっぱいだ。悪天候により、車の前後の視界が悪くなり、高速道路は滑りやすい状況に陥る可能性がある。

ロボトラックのブーム

テスラ社は、自家用車と同様に、自動運転機能を備えた大型トラックを最初に市場に投入することを目指している。同社は2021年1月、今年からテスラの自動車と同様の自動運転機能を搭載する「テスラ・セミ(Tesla Semi)」トラックの生産を開始すると発表した(7)。しかし、セミの主な焦点は、全電動化「ゼロエミッション」電力システムであるように思われる。このために、米ウォルマート社(Walmart)は2020年9月に130台のトラックを注文した(8)。
 他の企業は、長距離トラックを自動運転車の当面における潜在的な最大の市場と見なしている。これは米国で年間8000億ドルの事業であり、州間高速道路における走行距離のほとんどを占める。トラック業界は、現在6万人のトラック運転手が必要であると述べており、ベテランドライバーが引退するにつれて不足が拡大し、自動運転が魅力的になると予想されている。ルミナー社は、独ダイムラー・トラック社(Daimler Trucks)及びその子会社の米トルク・ロボティクス社(Torc Robotics)と協力して、レベル4の自動運転トラックシステムを開発した。大きなトレーラートラックのサイズは、センサをより広いスペースに配置したり、他の自動化システムを搭載したりできるため利点がある。
 自動運転車で使用されている多くの技術はトラックに移すことができる。ただし、米トゥーシンプル社(Tu Simple)のチーフプロダクトオフィサーであるチャック・プライス氏(Chuck Price)は、「トラックのダイナミクスと機能的動作は乗用車のそれとは大きく異なる」と述べている(9)。トラックは大型荷物を満載し、高速道路では速度を出して走行しているため、安全に停止するには、はるかかなたから物体を検知して認識することが必要である。トゥーシンプル社は、昼夜、雨天あるいは晴天を問わず最大1000m離れた車両を識別できる10台の高解像度カメラをトラックに装備しており、他の車両を操縦したり、必要に応じて停止したりするための十分なスペースを提供する(図1)。5つのマイクロ波レーダーは最大300m離れた物体を検出及び識別できる。これは、霧や雨が視界を妨げる場合に重要である。ペアの200m範囲のライダは、その範囲内のオブジェクトの詳細なビューを提供する。
 これまでのところ、トゥーシンプル社は、アリゾナ州とテキサス州の間で人間のセーフティドライバーを乗せてトラックの試運転を行ってきた。今年のうちに、同社は積極的な人間の監督なしに自動運転モードでトラックを運転させることを計画しているが、セーフティドライバーとテストエンジニアはその性能を監視する車両にいる。トゥーシンプル社の目標は、高速道路の出口から少し離れた場所にあるターミナル間でレベル4の運転を実証することである。同社は、国際トラックメーカーである米ナビスター・インターナショナル社(Navistar International)と提携し、2024年までに高速道路用のレベル4の自動運転トラックの生産を開始することにしている。エンバーク・トラックス社(Embark Trucks)やウェイモ社(10)、プラス・テクノロジー社(Plus Technology)、オーロラ社などのシリコンバレーエリア企業を含む他のいくつかの企業も同様の計画を立てている。オーロラ社は、2020年12月にウーバー社の自動運転車グループを買収し、自動車の前にトラックに自動運転技術を導入することを計画している。

図1

図1 トゥーシンプル社の自動運転トラックで使用される200m範囲のライダ。これはトラクターユニットのボンネットの片側のヘッドライトの上部、少し後方に取り付けられている。2つ目のライダは他方の上部にある。(画像提供:トゥーシンプル社)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/09/012-017_ft_autonomous_vehicles.pdf