高出力レーザの測定:冷却方式

アッシャー・イジャーク

高出力レーザを測定するには、パワーメーターセンサ内で効率的に熱制御を行う必要がある。処理に適した熱移動方法を選択することが重要である。

特定の用途に対してレーザ出力を測定するためのセンサを選択する際には、そのセンサに適した熱制御方式を選択することが、重要な検討項目である。その選択を支援するために、本稿では、高出力レーザの測定用センサに採用される、複数の異なる冷却技術について解説する。レーザの出力レベルの増加に伴って変化する冷却システムの要件についても調査し、それらの要件が、ファン空冷方式と水冷方式においてどのようにして満たされるかについて考察する。また、パルス波と連続波(Continuous Wave:CW)のレーザ
測定センサで異なる冷却要件を比較し、非強制冷却センサ(ファン空冷も水冷も使用しないセンサ)による高出力レーザの測定を可能にする技術について説明する。

対流と伝導

対流とは、水や空気などの流体によって、ある場所から別の場所へと熱が移動する過程である。対流には、自然対流と強制対流の2種類が存在する。
 自然対流は、流体を移動させるための力を加えることなく、熱が移動する現象で、流体は重力のみによって自然に移動する。例としては、熱いお茶の入ったコップから出る蒸気の動きや、コップの中の冷水と熱湯の動きなどが挙げられる。密度の低い熱湯は上に向かって移動し、密度の高い冷水は下に向かって移動する。コップの上部に移動した熱湯は、その熱を空気中に伝達することによって温度が低下するのに対し、コップの下部の冷水は温度が上昇する。その結果として生じる連続的な流れによって、熱がコップの外へと移動する。
 強制対流は、ファンや水ポンプなどを使用して、流体の動きを促進するために力を加える場合に生じる。
 伝導の場合、熱は固体物質内で移動する。固体物質内の熱移動速度は、ほぼ一定である(その物質の熱伝導率と固体の形状に依存する)。それに対して対流は、放熱速度を最適化できる可能性がはるかに高い。例えば、流体の速度を制御したり(強制対流を適用する)、流体と接触する部分の面積を変えたり、流体の温度を制御したりすることなどができる。強制対流が、高出力センサからの熱を除去するための熱移動手段として最も一般的に採用されているのは、そのためである。

水冷とファン空冷

ファンの追加により、フィンから空気に熱を移動させる自然対流を、センサの背面に配置されたフィン上の気流(エアフロー)を増加させる強制対流へと、大幅にアップグレードすることができる。気流の増加によって、より多くの熱がフィンから取り除かれる。CFM(立方フィート/秒:ft3/s)の単位で表される、気流速度の高いファンを使用することにより、その効果をさらに高めることができるが、最終的にはボトルネックに達することになる。その制約要因は、熱移動チェーンプロセス全体の一部を形成する、(センサフィン内の)熱伝導である(図 1)。
 ファンを使用する場合のもう1つの制約は、音響ノイズである。CFMレートが高いほど、ユーザーのワークステーション環境内の気流速度が高くなるとともに、生成されるノイズレベルも高くなる。
 フィン内部の伝導(これが上述のボトルネックの要因である)で始まり、フィンから空気へと熱を取り除く強制対流で終わる、伝導と対流からなる上述の熱移動チェーンプロセスは、強制対流と伝導で、放熱速度が異なることを表している。
 レーザの出力レベルが高い場合は、水冷による強制対流が、効率的な放熱のための最良の手段となる。
 ファンの追加と同様に、水流速度を増加することによって放熱速度を増加させることができる。つまり、より多くの水をセンサに流すことにより、より多くの熱を放出させる。しかし、水冷システムには、空冷システムにはない自由度がある。注入する水の温度を制御し、チラーを使用して特定の温度に設定できることである。この冷却方式を使用することで、強制対流プロセスの制約は緩和される。センサ内の伝導が低下し、当然ながら音響ノイズも低下するためである(図 1と図 2)。
 ただし、水冷システムにもそれ独自の制約が存在することに留意する必要がある。センサを正しく動作させるには、水流速度や水温など、多数のパラメータを正しい範囲内に維持しなければならない。おそらくそれよりも重要なのは、水流速度と水温の安定性である。水の種類も、同等に重要である。水中に存在するイオンの間の相互作用や水のpHレベルが、センサの水路内の腐食リスクに影響を与える可能性がある。

図1

図1 ファン空冷センサ「FL600」内の伝導/対流エリア。

図2

図2 5000Wの水冷センサ内の伝導/対流エリアは、ファン空冷センサよりもはるかに小さい。空
気/ファンによる対流よりも水による対流の方が、効率的に放熱できるためである。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/07/028-030_ft_power_meters.pdf