小型化に向けて進行する周波数領域のテラヘルツシステム

ビョルン・グロービッシュ、ラーズ・リーバーマイスター、アンドレアス・ソス

新しいファイバベースのシステムは、サブミクロン精度の高速測定が可能である。次のステップは、すべての構成部品をチップサイズに集積することである。

テラヘルツ放射は非常に有益なツールである。X線とは対照的にイオン化しないが、人間の目には不透明に見える多くの物質が、電磁波スペクトルのテラヘルツ領域では透明になる。この効果が利用できる明白な用途として広く議論されてきたのが、空港セキュリティだった。しかし、最終的にボディチェック用の装置として選ばれたの
は、ミリ波スキャナだった。
 テラヘルツスキャンは初期段階にあるものの、薄い誘電層の正確な厚みの測定など、産業計測に対して多大な可能性を秘めている。テラヘルツスキャナは現在、自動車業界における塗料層の厚みの測定、パッケージにおける膜厚測定、不透明なブリスターパックの中のタブレットの確認に使われている。通信技術や周波数領域分光法に基
づく新しいデバイスによって、この技術は高速になっており、イメージングセンサなど、さらに多くの応用分野において関心を生み出している。
 産業分野にはシンプルで、多くの場合はポータブルなソリューションが必要である。例えば、防衛分野向けに開発されたレーダーは、時が経つにつれて適用機会が増加し、システムサイズは大幅に縮小された。現在、レーダーの光学版ともいえるライダ(LIDAR)は、自動運転車分野の要件の高まりにけん引されて、チップサイズの固体デバイスにまでシステムサイズが縮小されている。
 テラヘルツ技術も、似たような経路をたどっている。小型で高速で安価でなければならず、可動部品をなくす必要があることから、レーダーやライダで学んだ教訓が、テラヘルツ技術の開発に役立つ可能性があると考えられる。
 これまで、テラヘルツ放射の生成と検出が、より幅広い分野での利用を阻む主な障害だった。ジャイロトロンやシンクロトロンなどのシステムは大きすぎる。その他のソリューションには、繊細な可動要素を備えた複雑な光学システムが必要になる。この問題は40年前から議論されているが、これまでのところ、ほとんどのソリューションが産業分野には適していない。
 この20年間で、コンパクトなフェムト秒ファイバレーザの発明によって、超高速フォトスイッチを利用した、ファイバ結合のパルステラヘルツシステムの開発が促進された。ポリマー、塗料やコーティング、医薬品、電子部品、石油化学製品、ガス、紙、木材など、さまざまな材料の測定に対するそのメリットが、科学文献で論じられている(1)。そうしたシステムにおいてフェムト秒レーザパルスは、バイアスを印加した感光性半導体に非常に短い電流を生成するために使用される。これによって、帯域幅が6THz以上という広帯域のテラヘルツパルスの生成が可能になるのである。
 テラヘルツ検出は、その逆のプロセスで行われるため、元の超短レーザパルスを複製したものがもう1つ必要になる。そこで、複雑なレーザシステムと可動光学素子を使用して、2つのフェムト秒パルスに必要な時間遅延を加える(図1)。この方法で、数ミクロンの分解能の多層膜厚測定が可能である。

テラヘルツ放射を利用して膜厚測定を行うマルチセンサヘッド。(画像提供:独ヘルムート・フィッシャー社[Helmut Fischer GmbH])

図1

図1 テラヘルツ時間領域(TDS)測定の代表的な構成。Txはテラヘルツエミッタ、Rxはテラヘルツレシーバーを表す。

通信用部品に基づくコンパクトなレーザ源

独フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ通信技術研究所(Fraunhofer Heinrich Hertz Institute)の科学者らによって開発された、新しいテラヘルツシステムは、複雑なフェムト秒パルス源の代わりに、シンプルな連続波(Continuous Wave:CW)レーザを使用する。2つの既製品の通信用レーザを使用し、一方は固定周波数のもの、もう一方は掃引レーザ源である。後者は変調格子Y分岐レーザで、2つのマルチピークのリフレクタによってバーニア(Vernier)効果を利用し、1530〜1565nmというCバンドの通信帯域全体にわたって、広い周波数チューニングを達成する。固定周波数レーザでミキシングすることにより、可動部品なしで、約0.1〜3THz以上までの周波数範囲をカバーすることができる。図2は、システムアーキテクチュアと測定構成を示した図である。最初の要素は、固定周波数レーザと掃引レーザである。両方のレーザ信号がファイバ結合器で重畳され、標準的なエルビウム添加ファイバ増幅器(Erbium Doped Fiber Amplifier:EDFA)で増幅される。混合信号には、2つの入力信号のビート周波数(差周波数)が含まれる。この光学ビートノートが、フォトダイオードによってテラヘルツ放射に変換される。フォトダイオードは、もともとは高速光ファイバ通信リンク用に開発されて、商用利用されているものである。放射されるテラヘルツ信号は、2つのパラボリックミラーによってエミッタからレシーバーへと導かれる。レシーバーは、入力されたテラヘルツ信号と、2つめの光学アームのビートノートを、ミキシングして中間周波数に変換する。

図2

図2 シンプルなCWテラヘルツシステムの光/電気信号パス(Txは生成、Rxは検出)。高速周波数掃引を、レシーバーアームの0.2mのファイバ遅延と組み合わせることにより、中間周波数(IF)のレシーバー信号が得られ、これがTIAによって電気的に増幅され、DAQによってとデジタル変換される。IF信号には、測定されたテラヘルツ波の振幅と位相の両方の情報が含まれる(左)。テラヘルツ源と分光計(灰色のラック)の構成の写真も示されており、反射測定用のセンサヘッドが前に示されている(右)。被検物は、ベルリンの代表的なお土産である小さな緑色のアンペルマン(ドイツの信号機キャラクター)である。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/07/016-019_ft_terahertz_instrumentation.pdf