より長波長の励起によるNdドープDPSSレーザの改良

イェルク・ニューカム、フロリアン・レンハート

より長い波長ウィンドウで発光する半導体レーザ励起モジュールにより、DPSSレーザの熱負荷の問題が劇的に軽減され、パワースケーリングが簡素化される。

Nd:YAGやNd:YVO4といったネオジム(Nd)ドープの結晶は、商業的に成功を収めた最も初期の固体レーザの1つだった。長年にわたり、そうしたレーザの中の結晶利得媒質は、フラッシュランプによって光学的に励起されていた。これらのレーザは、非常に効率が低かった。フラッシュランプが幅広の連続波長を生成するのに対し、Ndイオンは急峻なバンドとラインからなる吸収スペクトルを持つことが、その一因だった(図 1)。その結果、励起光の大部分が熱として無駄に消費され、結晶を積極的に水冷する必要があった。その後、長寿命でパワースケーリング可能な半導体レーザの成熟によって、LD励起固体(Diode Pumped Solid State:DPSS)レーザの画期的な進歩がもたらされた。DPSSレーザでは、Ndの強吸収ピークに合わせて、波長808nmで発光するように設計された半導体レーザが励起源として用いられる。
 Qスイッチ方式である場合が多いDPSSレーザの高い信頼性と長い寿命は、医療器具の製造から集積回路のパッケージングに至るまでの、増加の一途をたどるさまざまな産業用途を支えてきた。それらの用途では、最適化された微細加工を達成するために、近赤外基本波長の周波数2倍化や3倍化によって緑色出力やUV出力を生成することが、ますます多く行われるようになっている。それらのDPSSレーザのほとんどが端面励起型である。ファイバ結合の半導体レーザを使用することにより、半導体レーザをレーザ共振器から遠く離して配置することができるため、保守が簡素化され、レーザヘッドの熱要件が緩和される。ファイバデリバリにより、DPSSレーザにおける励起と望ましいTEM00モードの間の良好なモード重複も可能になる。

図 1

図 1 Nd:YVO4 の近赤外吸収スペクトル。長年にわたり、レーザ設計者は808nmにおける強ピークでの励起のみを対象としてきた。結晶は通常、b軸に沿って励起される。グラフ内の2本の曲線は、それぞれ a軸とc軸に偏光された光に対応している。

DPSSレーザの熱問題

しかし結局は、レーザ結晶そのものの中で本質的に生成される熱が、より高い出力に加えてTEM00ビームを必要とする用途を対象とした、端面励起型のDPSSレーザの開発の制約となった(良好なビーム品質も、効率的な第2高調波発生[SHG]と第3高調波発生[THG]に必須である)。例えば、半導体レーザと比べると、808nm励起のDPSSレーザは、驚くほど効率が低い。その大きな理由の1つが、大きな量子欠陥である。量子欠陥とは、808nmの励起光子と1064nmのNd出力の間のエネルギー差のことである(専門的に言えば、808nmの励起によってNdは、効率の低さで知られる四準位レーザとして動作する)。また、利得結晶は効率の悪さ故に熱を持つが、水冷冷却を実施したとしても、結晶の大きさ
には排熱的な限界がある。加えて、加熱によって熱レンズ効果が結晶に生じ、レーザ出力の変化に伴ってその焦点特性が変化し、(図 2)出力モード品質が低下する。このモード品質の低下は、SHG/THG結晶の波長変換効率のしかし結局は、レーザ結晶そのものの中で本質的に生成される熱が、より高い出力に加えてTEM00ビームを必要とする用途を対象とした、端面励起型のDPSSレーザの開発の制約となった(良好なビーム品質も、効率的な第2高調波発生[SHG]と第3高調波発生[THG]に必須である)。例えば、半導体レーザと比べると、808nm励起のDPSSレーザは、驚くほど効率が低い。その大きな理由の1つが、大きな量子欠陥である。量子欠陥とは、808nmの励起光子と1064nmのNd出力の間のエネルギー差のことである(専門的に言えば、808nmの励起によってNdは、効率の低さで知られる四準位レーザとして動作する)。また、利得結晶は効率の悪さ故に熱を持つが、水冷冷却を実施したとしても、結晶の大きさには排熱的な限界がある。加えて、加熱によって熱レンズ効果が結晶に生じ、レーザ出力の変化に伴ってその焦点特性が変化し、(図 2)出力モード品質が低下する。このモード品質の低下は、SHG/THG結晶の波長変換効率の低下を招く。また、加工機として応用する場合、一部の切断、穴あけ、スク
ライビング加工で達成可能な精度とエッジ品質が悪くなる場合がある。
 加熱は励起入力面付近で局所的に生じ、励起光は非常に強く吸収されてしまうために、結晶の奥深くまで浸透しない。この現象は、結晶を両端から励起することにより、複雑さと引き換えに部分的に緩和することができる。それでも、一般的なDPSSレーザで使用される結晶の長さはわずか8mm以下で、出力は限られ、許容できるビーム品質は1つの最適な出力レベルでしか得られない。この性能は、ますます多くの用途において、スループットと材料の厚みに悪影響を与える。

図2

図2 端面励起は、高いモード品質を達成できるが、吸収光による熱レンズ効果が、高いビーム品質の達成を阻む要因になる可能性がある。

量子欠陥の低減、三準位の効率

高いビーム品質とともにさらに高い出力を求める市場需要を受け、原点に立ち返ってレーザの設計が行われるようになった。その取り組みから誕生したのが、図1に示されている、880nm付近の比較的弱い吸収ピークによってNdを励起することに基づくソリューションである。具体的には、878.6nm、885nm、888nmの3つの「新しい」波長でNdを励起する半導体レーザ励起モジュールが、現在提供されている。体積系ブラッググレーティング(Volume Bragg Grating:VBG)を、パッケージ化された半導体レーザモジュー
ル内に組み込むことによって、波長がその都度目標値に維持されるため、半導体レーザの温度を正確に制御する必要はない。これらの長波長のすべてが、808nmという従来の励起波長に勝る複数のメリットを備え、特に888nmには、偏光関連のさらなる重要なメリットがある。
 これらの長波長を使用することの1つめのメリットは、808nm励起と比べて50%以上という、量子欠陥の大幅な低減が得られることである。その直接的な結果として、これに伴う望ましくない不要熱も、同じだけ減少する。また、DPSSレーザは、808nm励起による四準位よりも本質的に効率の高い、準三準位レーザとして動作するようになる。要するに、より少ない廃熱量で、より多くの励起出力がDPSS出力に変換されることになる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/06/038-040_ft_diode-pumped.pdf