パルス圧縮のための超短パルスマルチパスセル

トニー・カラム

マルチパスセルは、分散ミラーベース超短パルス圧縮器でミラー面の数を 2つに減らし、小型化を可能にする。

超短パルスレーザの短パルス幅と素晴らしいピークパワーは、一連のアプリケーションにとって超短パルスレーザが非常に優位になる。アプリケーションとしては精密材料加工、マイクロマシニング、バイオメディカルシステム、通信、非線形顕微鏡及びイメージングがある。材料加工向けの利点に含まれるのは、寸法公差の向上、必要な後加工ステップの低減、周囲への損傷最小化などである(1)。レーザ手術などの医療アプリケーションでは、超短パルスレーザは外傷低減、必要となる麻酔や殺菌の減少がある(2)。
 超短パルスレーザは、短パルス幅であるため、本質的に広い波長帯域であり、光学媒体では色分散が大きくなる。負の群遅延分差(GDD)を持つ、分散フラットミラーなどの光コンポーネントは、ほとんどの光学媒体の正のGDDとバランスをとるために使われることがよくある。しかし、高GDDを補償するには、多くの反射回数が必要となり、多数のフラットミラーの煩雑なシステムの利用が必要となる。この問題は、マルチパスセルを実現することで解消される。スルーホールのある凹面分散ミラーを1個、あるいはそれ以上使う。このマルチパスセルにより、最大パルス圧縮が可能になり、これまでのアプローチと比較して、よりコンパクトでコスト効果のよい配置が容易になる。

超短パルスシステムにおける分散補償

超短パルスレーザは、モードロッキングにより超短レーザパルスを生成する。これは、光波が位相重ね合わせによりコヒーレントに放出され、大量のモードを含むときに発生する(図1)。
 パルス圧縮は、超短パルスレーザセットアップの本質的な部分である。ほとんどの高エネルギー超短パルスシステムは、いわゆるチャープパルス増幅(CPA)プロセスで、これに依存している。パルスストレッチャーを利用して意図的に超短パルスを広げることで、ピークパワーは大幅に低減され、非線形パルス歪なしで、利得媒体、あるいは周囲の光素子を損傷することなく、パルスをさらに大きなエネルギーに増幅することができる。増幅されたレーザパルスは、次に高強度超短パルスに再圧縮される(図2)。
 さまざまな光コンポーネントを利用する、多くの種類の超短パルスパルスコンプレッサがある。従来のパルスコンプレッサは、非常に大きな分散を補償できるプリズム、あるいは回折格子ペアを使う。しかし、GDDは通常、ペア間の距離を変えることで調整される。これは、多くのレーザシステムで、大きな機械的セットアップを必要とし、ミスアライメントに非常に敏感になる。プリズムやグレーティングペアのもう1つの欠点は、低透過あるいは低反射率であり、これはレーザ強度の大幅な損失になる。
 分散コーティングしたミラーだけをベースにしたコンプレッサは、アライメントフリー、低損失、3次分散ゼロであるため、パルス圧縮には非常に有利である。しかし、これらのミラーからの多重反射は、通常、必要とされるGDD目標を達成する必要があり、そのためこれらのコンプレッサのフットプリントは非常に大きくなる。オールミラーコンプレッサのサイズを縮小できるなら、コンパクトな超短パルスレーザコンプレッサ構築に極めて有利になる。コンプレッサ設計を成功させるには、セットアップ全体で省スペースを維持しながら、目標GDD達成のために分散ミラー間の反射回数を増やす必要がある。この戦略は、セットアップにおけるミラーの数を減らすために役立つ。これは、コンプレッサのコスト低減となり、コンパクトな超短パルスレーザにつながる。

図1

図1 レーザキャビティ内のさまざまな波長の建設的、破壊的位相干渉を表す。超短時間パルス幅ではあるがブロードな波長帯域のパルスを生成。

図2

図2 チャープパルス増幅(CPA)に基づいた高エネルギー超短パルス生成の図示。

マルチパス圧縮セル

マルチパスセルは、サンプルに多数回光ビームを送って弱い吸収スペクトルを見つけるために、数十年、弱い微量吸収分光で一般に利用されてきた。ガスサンプルを1回通しても信号が観察されないことがよくあるが、ビームを多数回通すことによってのみ見つかる。総光パスが増加し、今度はこれが吸収信号の増幅になる。典型的なマルチパスセルは、2つの凹面鏡、あるいは凹面鏡とフラットミラーで構成される。スルーホールがあり、セルの出入りの開口部として機能する(図3)。そのような構成は、長い光パス長になるが、反射数を増やして確保されている。設計は簡素でコンパクトであり、非常に安定していて、擾乱が少ない。ビームがそのようなセルに向けられると、ビームは2つのミラー間で何度も反射され、ミラー表面で典型的な楕円または円形パターンになる。

図3

図3 Zemax OpticStudioからのマルチパスセルの概略図。スルーホールのある2つの凹面鏡で構成されており、ここでは超短パルス入射パルスが、1つのミラーのスリットから入り、2つのミラー間を何度も反射して、第2ミラーのスリットから出る。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/06/024-026_ultrafast_optics.pdf