Laser Focus World、2020年上位20のフォトニクス技術選定

ジョン・ウォレス

2020年のフォトニクスの進歩には、商用中空ファイバ、多目的深層学習(ディープラーニング)、材料加工向け最先端超高速レーザが含まれる。

Laser Focus Worldがカバーする技術は、おそらく大まかに「フォトン関連のもの」と分類できる。もちろん一定の前提条件があり、有用性、斬新さ、かなり高い技術レベルが含まれる。結果的には、Laser Focus Worldは単一市場に焦点をあてた種類の媒体誌ではない。むしろ、広い範囲の人間の専門技術をかなり熱心にカバーしている(ただし、フォトンに関する限りだが)。
 従って、昨年の技術成果の上位20リスト選定は難題である。われわれがカバーする技術と市場のタイプの両面は、簡単に分割及び細分化されるため、各リストが20を超えるアイテムを含むからである。結果としての選定は、従って、われわれがカバーする技術と市場のサンプリングにすぎない。以下の選定は、大まかに任意のグループに分けられ、優劣のランキングはない。2020年フォトニクス領域に取り組んだエンジニア、技術者、研究者のスキルと発明性により、ここのすべてのアイテムが最良のものであり、リストの最上位に来るべきものである(注:ここには、多くのディープラーニングとAI関連アプリケーションがあるが、主にイメージング関連である)。

ファイバオプティクスにおける進歩

1 中空コア光ファイバは、フォトニックバンドギャップあるいは反共鳴などの現象を利用して、空気充填コアに光を流す。数年の研究で、この種のファイバの光損失は大幅に低減された。このファイバの大きな利点の1つは、相対的に高いデータ伝送速度である。光は、ガラスよりも空気を通してのほうが伝搬速度は大幅に高くなるからである。今年、米OFS社は、特に高速伝送を重視する市場、つまり高頻度トレーダーを対象としたフォトニックバンドギャップ中空コアファイバを商業的に導入した(図1)。OFS社のファイバは、マイクロ波タワーとデータセンター間接続「ラストマイル」のマイクロ波伝送を置き換えることができる。ガラスファイバに対するそのスピードの優
位性は、取引間の時間から価値あるミリ秒を削り、トレーダーの利益を増やす(参照“中空コアファイバは高頻度トレーダーに利益をもたらす”October 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev1)

図 1

図 1 中空コアフォトニック結晶ファイバの横断面は、コア、格子構造とシャントを示す。

2 ハイパワーレーザ光は、光ファイバにより、そのアプリケーションポイントまで簡単にダクトを通せる。。しかし、手術やある種の材料加工などの中赤外アプリケーションで使用される既存のソリッドコアカルコゲナイドガラスファイバは、過熱するほどのエネルギーを吸収し、損傷を起こすことさえある。英サウサンプトン大
のオプトエレクトロニクス研究センターとチェコのパルドゥビッツェ大の、材料・ナノテクノロジーセンターで開発された、中赤外バージョンの反共鳴中空コアファイバは、この問題を解決している。ファイバ外面が、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)ポリマーで被覆されて耐久性が高くなり、湿気からファイバを保護する。テルライトガラスファイ
バ材料は、高い熱安定性があり、外気環境で合成可能である。そのファイバの動作は、シングルモードに近い(参照“中赤外向けテルライト中空コア反共鳴ファイバは、かなり曲げやすい”June 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev2.)

3 超高速レーザ材料加工の世界では、ピコ秒、フェムト秒ファイバレーザが、現在、存在感が増してきている。

これらのレーザでは、アクティブファイバそのものの特性が、パルスエネルギー向上を制約する。従来、パルスエネルギーを上げるためにファイバ径を大きくしてきたが、これら大きな有効モードエリア(LMA)ファイバのビーム品質は、ファイバベンディングに極めて敏感である。現在、テーパー型ダブルクラッドファイバ(T-DCF)増幅器が、優れたビーム特性を持つハイパワーに有望である。欧州PULSEプロジェクトで開発されたT-DCFは、ファイバ線引き工程を利用して製造されたダブルクラッド光ファイバであり、ファイバ長に沿ってテーパーを形成している。欧州PULSEプロジェクトには、フィンランドのタンペレ大と同アンプリコニクス社(Ampliconyx)が含まれる。コアとクラッドの両方ともテーパー状になっている。ファイバパラメータの変更結果は、ますます増加するコア径の増幅器チェーンであり、従来の小径、ダブルクラッドシングルモードファイバとハイパワー増幅に用いられるはるかに大きな径、ダブルクラッドマルチモードファイバの特性の組合せである。(参照“テーパー状ダブルクラッドファイバ:超高速ハイパワーレーザ加工の未来”May2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev3.)

計測器が観察能力を高める

4 スイス連邦ローザンヌ工科大のバイオメディカルオプティクス研究所で開発された超分解能光変動イメージング(SOFI)は、生物学向けの新しい顕微鏡技術である。これは、他の多色蛍光技術と違い、顕微鏡の多様なスペクトルチャネル間のクロストークを奨励する。これにより、付加的に「仮想」スペクトルチャネルを実現する統計分析が可能になる。ソフトウエアアルゴリズムが、点滅フルオロフォアの時系列の高次時空統計を統計的に分析する。結果として、個々のフルオロフォアの発光の分離が不要になる。一見複雑に見える技術は、実際にはフルオロフォア選択と実験を簡素化する。(参照“超分解能光変動イメージング顕微鏡はマルチカラー” July 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev4.)

5 シート蛍光顕微鏡(LSFM)は、サンプル面を照射し、サンプルの2D部分を撮像する。LSFMの改善は、香港大のグループが行った。コード化ライトシートアレイ顕微鏡(CLAM)という技術により、多数のライトシートからデータを同時取得でき、単一のライトシートでサンプルをスキャニングすることに時間をかけることなく、3D画像を得ることができるようになる。単一光源からの光は、2枚の鏡の間を跳ね回り、多数の光源となり、パス長差が光源間で非干渉になる(図2)。回転レチクルにより各光源に独自のコードを与える。レチクルは、個々のビームレットに異なる変調周波数を与える。すると円筒型レンズがライトシートセットを作る。最大40の同時ライトシートが実証された。(参照“コード化されたライトシートが蛍光容積イメージングを改善”June 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev5.)

図2

図2 コード化ライトシートアレイ顕微鏡(CLAM)では、ほぼ並行な2枚の平面鏡の間でレーザビームを反射させることで、相互に非干渉な仮想光源の1セットを作成する。仮想光源は並行なライトシートを作ると同時に、生物学サンプルの全体ボリュームを照射する。(提供:ケビン・ツィア氏)

6 白色光干渉計は、超高精度3D表面計測の実績ある方法である。とはいえ、それから得られる情報は、拡張可能である。米KLA社は、干渉計3D光学プロファイラを開発した。これは、センサ融合技術を使い干渉計からのデータでマッピングされる色画像エリアを統合して、正確なカラー 3D表面プロファイルマップを提供する。加
えて、他のセンサからのデータを取り込んでさらに多くの種類のデータ統合ができる。白色光干渉計(WLI)、位相シフト干渉計(PSI)、True Colorイメージング(KLA社のブランド名)、及びスティッチング(多くの隣接画像フィールドを統合し、より大きなフィールドを作る)を1つの光学プロファイラに統合して、フレキシブル電子デバイス、
材料、製造工程の特性評価を行う。複合WLI+PSI技術により、WLIよりも10倍以上高い垂直分解能が実現し、平滑面の特性評価に役立つ。同時に、カラー増強機能が付加される。例えば、導体層のインクジェットプリンティングでは、オーバーラップ領域は、TrueColor画像では色変動が直ぐに見える。(参照“可視化3D光学干渉計で、フレキシブルエレクトロニクスの理解が向上する”September 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev6.)

7 単分子顕微鏡は、完全なままの細胞内で個々の分子間の相互作用を調べることができる。しかし、これらの分子の相互作用は、既存の単分子顕微鏡で解像できるものよりも少なくとも4分の1のスケールで起こる。「単分子顕微鏡の位置決定精度が、通常20nmから30nmである理由は、実際のところ、その信号を検出しようとしている間に顕微鏡が動くからである」とカタリーナ・ガウス氏(Katharina Gaus)は話している。同氏は、豪ニューサウスウェールズ大医学部のEMBLxーストラリアノード(EMBL Australia Node in Single Molecule Science)を率いている。UNSWのチームは、安定性を1nm以上に、また位置決定精度を約1nmに改善した。これは、サンプルとステージ位置の間にフィードバックループを、またエミッションパスに自律的光学フィードバックループを挿入し、顕微鏡のEMCCDカメラの特性評価と色彩補正を行うことによるものである。UNSWチームが設計したフィードバックシステムは、既存の顕微鏡に適合している。(参照“自己整合顕微鏡は、超解像度顕微鏡の制約を克服する”Laser Focus World online [April 23, 2020]; https://bit.ly/2020TechRev7.)

8 デジタル光ホログラムは、定量位相顕微鏡(QPM)システムで長期生細胞イメージングに使用されており、ここでは低レベル照射光が利用されている。細胞が自然環境で活動する際に細胞内解像度で細胞をとらえるためである。しかし、微光レベルは、低品質ホログラムになりがちである、つまり基本的なノイズ制約、ショットノイズにより粒子が粗く見える。オーストラリア国立大のチームは、Holo-UNetというニューラルネットワークを利用することでこの問題を回避した。これは数千の学習サイクルで訓練され、ホログラムのノイズを除去する。Holo-UNetは視野の位相物体エリアの並行強度フリンジに沿った変化を学習し、トレーニング後、余分な強度変化やショットノイズ関連の強度変化を除去し、フリンジ可視性を改善する。微光(サブミリ秒イメージング速度でほぼ真っ暗)を使ってもまだ、その設定は、ホログラムをほぼ完璧に回復することができる。(参照“ニューラルネットワークはショットノイズ制約のある顕微鏡ホログラムを改善する” October 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev8.)

9 ウィーン医科大の研究者は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)形式のディープラーニングを使い、眼科OCT画像を分割する。眼の涙メニスカスを認識するためである。涙メニスカスとは、まぶたが眼の表面を動くに従い顕れる液体層。ドライアイ症状の患者は、異常なメニスカス形状があり、涙メニスカス量、高さ、あるいは曲率半径などの計測により定量化できる。そのような計測は、涙メニスカスが画像の他の領域から分離されていることが必要である。これはCNNが人よりも確実にできる可能性がある。2つの新しいアプローチがある。大きなOCT画像から涙メニスカスを分割するワンフェーズニューラルネットワークと最初に関心のある領域を選んで次により小さな領域から涙メニスカスを分離するツーフェーズニューラルネットワーク。両方とも、標準の画像処理と同様に正確であり、また大幅に高速である。(参照“OCT画像解析向けディープラーニング”May 2020 issue; https://bit.ly/2020TechRev9.)

量子及び他の用途向けフォトニックデバイス

10 大規模CMOSプロセス製造フォトニクスを実現する可能性のある最初の集積フォトン光源は、英ブリストル大の物理学者チームが作製した。
光源は、インターモーダル自然放出4光波混合(SWFM)に基づいており、ここではシリコン導波路を伝搬する光のマルチモードが非線形干渉し、シングルフォトン生成の理想的な条件を作る。標準的なSWFMと対照的に、インターモーダルSWFMは、強力なスペクトル反相関(量子オプティクス回路で必要となるものの反対)を持つフォトンを生成しない。チームは、フォトニック量子コンピューティング用にそのような光源の利用をホン・オウ・マンデル(HOM)実験でベンチマークテストし、96%というこれまでに観察された最高品質のオンチップフォトニック量子干渉が得られた(図3)。HOMは、光量子情報処理の基本要素。そのシリコンフォトニックデバイスは、商用ファウンドリのCMOS適合プロセスで作製された。結果として、数千の光源が、単一のデバイスに簡単に集積可能である。研究者は、単一チップに数十から数百の量子光源を集積する計画である。(参照“シリコンフォトニックフォトン光源は、量子光技術向けのほぼ理想的な光源 ”July 2020 issue; https://bit.ly/2020Tech Rev10.)

図3 発表済みのホン・オウ・マンデル(HOM)の結果を示す。縦軸は4フォトン混合イベント、また横軸は位相。このデータを得るために、2つの異なる量子フォトン光源を干渉させた(理想的には、この位相依存干渉曲線は、π/2位相シフトでゼロに落ち込む)。プロット上の点はフォトンカウント、またエラーバーは1つの標準偏差を示す。実線フィットは、96%可視性に等価。挿入図は、研究で用いられたシリコンフォトニックチップ。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/06/014-019_ft_technology_review.pdf