レーザ市場、危機と課題に見舞われるも現状を維持

アレン・ノジー、コナード・ホルトン

新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われ、景気は後退し、社会的にも政治的に不安定な情勢が続く中、世界レーザ市場は、いくつかの主要な部門で力強さを示し、脆弱な部門も、懸念されていたよりは健闘した。

はじめに
コナード・ホルトン(Laser Focus World誌編集主幹)

誰もが簡単に列挙できる理由に基づき、2020年は非常に厳しい一年だった。壊滅的な影響を及ぼしたパンデミックや景気の後退から、社会的及び政治的な騒動まで、二度と繰り返されないことを願う一年だった。それでも、さまざまな理由に基づいて、多くのレーザ部門がまずまずの業績を上げ、力強く成長した部門もあった。部門ごとに状況や様相はそれぞれ異なる。
 レーザ市場全体の年間売上高としては、2020年の成長率は8.8%だったと推定される。前年の2019年の推定売上高はその後改訂され、最終的に前年比で1.5%の減少だった。企業各社の2020年最終四半期決算報告が本稿執筆時点でまだ発表されていないが(2021年1/2月発表予定)、2020年のレーザ市場総売上高は約160億ドルになると、本誌は見積もっている(図 1)。
 朗報として、2021年には世界レーザ市場の売上高が、15.5%という力強い成長を見せると、本誌は予測している。

図 1

図 1 レーザ年間売上高の推移と2021年の予測

本稿の読み方

本稿では、世界レーザ市場を6つの主要分野に分割して、市場分析と予測を行っている。各市場分野には、複数の技術と応用分野が含まれており、それぞれの市場状況や業績結果は、大きく異なる場合もある。
 6つの主要分野は以下のとおり。
材料加工とリソグラフィ:すべての方式の金属加工(溶接、切断、アニール、穴あけなど)、半導体とマイクロエレクトロニクスの製造(リソグラフィ、スクライビング、欠陥修復、ビアホール加工)、すべての材料のマーキング、その他の材料加工(有機材料の切断と溶接、ラピッドプロトタイピング、微細加工、格子製造など)が含まれる。
通信と光ストレージ:テレコム、データ通信、光ストレージの用途に使用されるすべての半導体レーザと、光増幅器用のポンプレーザが含まれる。
科学研究と軍用:大学や国立研究所などで基礎研究と開発に使用されるレーザと、測距計、照明装置、赤外線防衛手段、指向性エネルギー兵器研究などの新規及び既存の軍用レーザが含まれる。
医療と美容:眼科(屈折矯正手術と光凝固手術を含む)、外科、歯科、治療、皮膚、毛髪、その他の美容の用途を含む。
計測機器とセンサ:生物医学計測機器、分析機器(分光計など)、ウエハとマスクの検査、計測工学、水準器、光学マウス、ジェスチャ認識、ライダ、バーコードリーダ、その他のセンサが含まれる。
エンタテインメント、ディスプレイ、印刷:ライトショー、ゲーム、デジタルシネマ、前面及び背面プロジェクタ、ピコプロジェクター、レーザポインター用のレーザが含まれる。また、商業用プリプレスシステムと写真仕上げ用のレーザに加えて、消費者用及び商業用の従来型のレーザプリンターも含まれる。
 以降のセクションでは、上記の6つの市場分野別に、2020年の分析と2021年の予測について、売上高の推移を示すグラフとともに解説する。
 材料加工と産業用レーザ市場の詳細については、Industrial Laser Solutions(ILS)誌4月号掲載予定のデイビッド・ベルフォルテ(David Bel forte)の記事「COVID-19 leaves its mark onthe industrial laser market」(COVID19が産業用レーザ市場に残す爪痕)を参照してほしい。
 米中関係の移り変わりについては、同号掲載予定のボ・グ氏(Bo Gu)による記事「米中のデカップリングは起きるのか」を参照してほしい。
 SPIE Photonics Westにおいて2021年3月4〜5日にオンラインで開催された第33回Lasers & Photonics Market-place Seminarでは、最新データと予測を加味したレーザ市場の詳細な分析結果の発表をアレン・ノジーが行った。
 最も包括的なデータと分析結果を示す最終報告書となる、「世界のレーザ市場:市場レビューと予測2020年版」は、2021年4月にLaser Focus WorldMarket Researchから発行される予定である。

レーザ市場分野別分析と予測
アレン・ノジー(米レーザ・マーケット・リサーチ社[Laser Markets Research]社長)

材料加工とリソグラフィ

2020年が始まった時、材料加工用レーザ市場は引き続き、米国と中国の間で繰り広げられていた貿易戦争の悪影響を受けていたが、関税が緩和され、解決に向けた協議が進められるにつれて、この問題は徐々に解消されていった。2つめの問題は、中国そのものにあった。すなわち、2019年終盤になって同国の経済成長が鈍化してきたことである。中国は、材料加工用レーザの非常に大きな消費国であるため、これは悪材料でしかなかった。
 しかし結局、そうした問題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに比べれば、些細な話だった。COVID-19によって、まずは中国で工場が閉鎖し、ロックダウン措置がとられ、中国レーザ企業の2020年第1四半期の売上高は最大で80%減少した。米国と欧州のレーザ企業の影響はそれよりは小さかったが、それでも第1四半期の売上高はある程度落ち込んだ。
 レーザ企業は、この最初の製造停止に続いて、サプライチェーンの問題や出荷の遅延に見舞われたが、総じて既存受注は維持した。それよりも少し懸念されるのは、再び減速することがあれば将来の需要に影響が生じるかもしれないという事実である。しかし、COVID-19のワクチン接種が開始されており、2021年は材料加工用レーザにとって良い一年になると、本誌は楽観的にとらえている。ただし、素晴らしい一年になることはなさそうだ。
 最終的に、材料加工とリソグラフィ用レーザの売上高は2020年に約3%増加したことになるだろうと、本誌は推定している。それは、北米の材料加工用レーザが少し減退したこと、中国の材料加工用レーザ企業が好調な売上高を示したこと、そして、既存の極端紫外線(EUV)レーザ販売に支えられて、レーザリソグラフィ企業がまずまずの業績を上げたことの総合的な結果である。
 2021年については、不透明な部分が多いが、いくつかの部門でやや減少するものの、より平常に近い状態に戻ると考えている。材料加工とリソグラフィ用レーザの売上高は、10%近い成長率を示すと本誌は予測する。その売上高の一部は、2020年に購入されたレーザのうちの遅延分である(図 2)。

図2

図2 材料加工とリソグラフィ

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/06/008-012_ft_annual_laser_market.pdf