可視光での硬化速度を向上させるフォトポリマー樹脂

ステレオリソグラフィー(Stereolithography:SLA)やデジタルライトプロセッシング(Digital Light Processing:DLP)などの3D印刷方法の技術革新は、航空宇宙から医療の分野に至るまで設計の進歩を推進してきた。このような光誘起重合プロセスは、通常、比較的高い光子エネルギーを持つ紫外線(UV)光での硬化により、液体樹脂を固体物質に変換する。硬化に可視光を使用すると、コストの削減、生体適合性の向上、光がより深くに到達する、光散乱の減少といった利点が得られるが、可視光での硬化は遅すぎて実用的ではない。
 現在、米テキサス大(University of Texas)の化学分野の助教授であるザカリア・A・ページ氏(Zachariah A.Page)が率いる研究者チームによって開発された新規の樹脂形態における化学的な革新は、可視光での硬化を加速し、不透明な複合材料、マルチマテリアル構造、生きた細胞を含むヒドロゲルの作成など、3D印刷の新しいアプリケーションの開放を約束する。研究者らは、モノマー、光酸化還元触媒(Photoredox Catalyst:PRC)、2つの共開始剤、及び不透明剤を含む、紫、青、緑や赤色の樹脂を開発した。PRCがLEDからの可視光を吸収すると、共開始剤間の電子の移動を触媒し、ラジカルを生成してモノマーを重合させた。
 「この革新は、低エネルギーの可視光で高速かつ効率的に硬化できる3成分の光反応系を含む新しい樹脂に端を発している」とページ氏は説明する。「さらに、使用しているプリンターは、紫から赤の可視スペクトルにまたがるほぼ単色の発光ダイオードを使用している。これは、光硬化を高エネルギーのUVまたは紫色光に依存する現状の光ベース3Dプリンターを超えている」。
 不透明剤は、硬化を光が当たる領域に限定するのに役立ち、空間分解能を向上させる。最適化された化合物により、100μm未満の微細性、機械的均一性、及び最大毎時1.8インチの積層速度を備えた、硬くて柔らかいオブジェクトの印刷が可能となった。研究者によると、最高積層速度は、UV光を用いて得られる最速速度の半分未満だが、光の強度を上げるか、樹脂に他の化合物を追加することでさらに改善できる。

材料光化学

可視光の光硬化能力を改善するには、ラジカルやイオンなどの反応性硬化剤がどのように生成されるかを化学的に理解する必要がある。発色団による光の吸収に続いて、光硬化は2つのメカニズムのうち、いずれかによって発生する。光開始剤(Photoinitiator:PI)の直接光分解、またはPRCから共開始剤への電子移動とそれに続く結合切断によるラジカルまたはイオンの生成である。
 低エネルギーの可視光LEDを使用して従来のUVベースの高速高解像度DLPのような3D印刷を行うには、反応性パンクロマティック(全色性)樹脂の開発が必要だった。これらの感光性ポリマー樹脂には、モノマー、架橋剤、及びPIまたはPRCと共開始剤が含まれている。モノマー、架橋剤、及びPIは一定に保たれ、さまざまなPRC及び共開始化合物が合理的に組み合わされて、数秒程度での光硬化を可能にする混合物が得られた。特に、RPC再生を促進するため、そして光吸収ごとに生産されるラジカルの濃度を2倍にすることを目指し、3成分系(PRCと2つの共開始剤)が研究された、
 フーリエ変換赤外(Fourier-Transform Infrared:FTIR)分光法及び光レオロジー実験では、紫、青、緑、及び赤の光が、加マイテックス・システムズ社(Mightex Systems)のコリメート光源「LCS」シリーズのLEDによって供給された。発光波長は405nm、460nm、525nm、及び615nmである(図1)。これらのLEDは、強度制御用のマイテックス・システムズ社製電流調整可能ドライバ「SLC-MA02-U」と組み合わせて使用され、印刷、FTIR、及び光レオロジーの実験間のすべての強度を一致させることができた。光は液体ライトガイドを介して供給された。照射強度は、 米ソーラボ社(Thorlabs)の「S120VC」シリコンベースのフォトダイオードパワーセンサを備えた「PM
100D」光度計で測定した。発光プロファイルは、QEプロ分光計で記録された。LEDはマイテックス・システムズ社製の3mm径液体ライトガイドを用いてファイバ光学システムに接続された。

図1

図1 (a)可視光硬化の3成分系の一般的なメカニズム(酸化クエンチ)(左)と光開始剤(PI)及び光酸化還元触媒(PRC)の化学構造、それらに対応する定性的ゲル化時間の光硬化フィルムの画像(右)。(b)ヨードニウムアクセプター(A)、ホウ酸塩ドナー(D)共開始剤の化学構造。(c)不透明剤(OA)の化学構造。(d)最適光硬化濃度におけるPIとPRC混合物の波長に対する光吸収。OAは0.5mM(赤)、1mM(緑、青、紫)。光露出はDLP3Dプリンターイメージ面において較正された紫(405nm)、緑(460nm)、青(525nm)、赤(615nm)のLEDによる。(画像提供:テキサス大)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/04/006-007_wn_digital_light.pdf