2光子顕微鏡と平均研究予算10万ドル可変か固定波長フェムト秒レーザか

アンドレイ・アンドリーフ

超高速レーザ技術に精通していない生物学者は多いが、それでも 2光子顕微鏡では、可変あるいは固定波長レーザかを決定する必要がある。

2光子顕微鏡というライフサイエンスで多くの研究者が使用する蛍光イメージング技術は、時間と共に成熟したアプリケーションになった。2光子顕微鏡のセットアップで最も高価な装置はフェムト秒レーザだが、ほとんどの生物学者が精通していない技術である。利用される最も一般的なタイプは、チタンサファイア(Ti:sapphire)チュー
ナブルレーザである。これは、コストが20万ドルにもなる。しかし、同等の結果をもたらす、より安価で小型の固定波長ファイバレーザが、入手できるようになっている。
 イメージング向けにチタンサファイアとファイバフェムト秒レーザを突き合わせて比較すると、その性能は非常に似ていることがわかる(1)。現在、12社を超える会社が2光子顕微鏡向けのレーザ光源を出している。多数のレーザパラメータが追加されていて、決定が難しい。本稿では、これら2種類のレーザのどの特徴が、イメージング実験に重要であるかを説明し、研究者が十分な情報を得た上で購入を決定する際に役立つことを目的にしている。

フェムト秒レーザと生物学的発見

フェムト秒レーザに依拠した顕微鏡実験には、いくつかのタイプがある。ここでの焦点は、2光子蛍光と光遺伝学による、マウスの脳深部イメージングとゼブラフィッシュの全脳イメージングである。蛍光タンパク質と光ゲートイオンチャネルの吸収スペクトル範囲は、通常900〜1100nm(近赤外域)である。長波の光のほうが深く浸透し、散乱が少ない、また不可視光の利用により、透明動物では光に感度がある実験が可能になる。2光子蛍光は、100mWオーダーのハイパワーを必要とする。シングルフォトンイメージングでは、マイクロワットである。吸収効率は、光エネルギーにも依存する。つまりフェムト秒レーザなどの短パルス光源の利用が好便である。
 これらのアプリケーションに関心がある研究者は、伝統的に、チューナブルチタンサファイアレーザ(1986年ごろ開発された)に依拠していた。これは、700〜1000nm範囲の所望の波長で光を出力する。現在、多くの企業が、こうしたシステムを提供している。波長選択機能は、多色イメージングを可能にする。それには、柔軟な一連の蛍光色素分子を利用する。また、新しい蛍光色素分子の設計など、分光学的アプリケーションも可能になる。
 チタンサファイアシステムで積み上げられた経験は豊富である。これらのシステムの主要な欠点に含まれるのは、12万ドルを超えるコスト、物理的なサイズと重量。このために、イメージングセットアップ間で光源を柔軟に動かすことができない。実験室やイメージングコアは、それほどの投資を準備するのは難しいかもしれない、というのは平均的な研究装置予算は、年に10万ドル程度だからである(2011年、Lab Mana gerの報告)。
 単一波長フェムト秒レーザは、2004年ごろに登場した比較的新しい技術である。これらの光源は、相対的に小型で価格は4万ドル程度からと安価である。チタンサファイアレーザ光源と同等の特性を持つ光を供給するが、出力波長は可変できない。より小型で省電力動作であるため、水冷の代わりに空気冷却を利用できる(図1)。しかし、これらのシステムには経験が不足している、特に動作安定性とサービスについてである。

図1

図1 固定波長超高速レーザ(上)と電源供給(下)は、チューナブルチタンサファイア代替品よりも小型である(固定波長レーザと電源供給はオレンジ; チューナブルは青緑)。しかし、2光子顕微鏡では、おのおののレーザ技術に、研究者が慎重に考慮すべき長短がある。(提供:アンドレイ・アンドリーフ氏)

現在提供されているもの

イメージング用レーザを規定するパラメータはいくつかある(表1)。何よりもまず、波長である。GFPやGCaMPなど、よく使われる蛍光たんぱく質は、920〜940nmの光で励起される。一方、レッドシフトタンパク質は、1040〜1100nmの光で励起される。
 イメージングと光遺伝学に求められる電力は、慎重に考慮されなければならない。レーザメーカーは、レーザパワー向上に熱心に取り組んでいるが、実際のイメージング実験では、そのようなハイパワーレベルは必要でないかもしれない。点スキャニングアプリケーションは、920nmで10〜100mWを使うが、ライトシート顕微鏡は、500mWまでが必要かもしれない。これらのケースでは、1〜2Wを超えるレーザパワーは、一般的に50%のパワーロスを考慮した後でさえ必要はない。もっとハイパワーレーザのアプリケーションの1つでは、レーザ光源を2あるいは3顕微鏡で分けている。最後に、チューナブルレーザは、その波長範囲で出力は一定でない。例えば、920nmで2W出力するレーザは、1040nmではわずか1W出力になる。
 もう1つ重要なパラメータは、レーザパルス幅である。短パルスのほうが、蛍光シグナル生成では効率がよい(2)。通常、イメージング向けのフェムト秒レーザは、80〜200fsレーザパルスを生成する。3番目に重要な数字は、パルス繰り返しレートである。標準的な繰り返しレートは、80MHzである。しかし、繰り返しレートが低いほうが、同じ平均パワーで効率的な蛍光励起ができることが示されている(3)。まとめると、繰り返しレートが低く、短パルスであるほうが、光損傷が少ないことが、ゼブラフィッシュの実験で示されている(4)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/04/030-032_ft_ultrafast_lasers-1.pdf