ディスプレイ分野の主要な進歩−DisplayWeek取材報告

クリス・チノック

今年はバーチャルで開催されたDisplayWeekでは、主要なパネルメーカー各社から、モバイルディスプレイ、ゲームディスプレイ、TV、自動車コックピット、AR/VRの進歩を示す出展があった。

ディスプレイ業界はかなり幅広く、消費者、プロフェッショナル、商業向けの用途に用いられるディスプレイの材料から最終製品に至るまでのあらゆるものを網羅する。Society for In formation Display(SID)が主催する年次カンファレンスDisplayWeekは、今年はバーチャルで開催され、さまざまなディスプレイ技術と応用分野にわたる最新の進歩が披露された。本稿では、主要なパネルメーカーが何を披露したかに焦点を当てて、このカンファレンスで発表された主要な進歩のいくつかを、まとめて紹介する。パネルメーカーは、ディスプレイ技術の発明元である場合が多く、消費者やプロ向けに最終的なディスプレイ搭載製品を製造するブランド企業に、製品を販売している。
 液晶ディスプレイ(LCD)は、支配的なディスプレイ技術であり、この20年間で幅広い用途においてほぼすべての競合技術にとって代わっている。有機ELディスプレイ(Organic Light Emitt ing Display:OLED)は最近、スマートフォンやTV市場に広く採用されている。直視型LEDディスプレイは、看板や情報表示用の大型ディスプレイで圧倒的なシェアを占めている。しかし、これらすべての主要技術において、変化は引き続き急速に進行している。
 例えば、LCDでは、新しい蛍光体や量子ドット技術を取り入れて、色域を広げることがトレンドとなっている。ハイダイナミックレンジ(HDR)機能を提供して、暗い影のレンダリングを改善し、明るい物体の輝度をさらに上げることができるように、コントラスト比も拡張されている。解像度も高められており、すべての主要TVブランドにおいて現在、最上位機種は8Kの解像度を誇る。
 OLEDは自己発光型であるため、LCDのようなバックライトは不要である。最近のトレンドとしては、薄いフレキシブル基板上に形成されたOLEDや、透明ディスプレイなどがある。アクチュエータをOLEDに追加して、ディスプレイではなく独立したスピーカーからオーディオを出力することも可能だ。新しい加工方法によって、今ではOLEDのインクジェット印刷も可能になっており、コストの削減が期待されている。
 LEDは、無機光源である。LEDディスプレイは、赤色、緑色、青色のLEDを組み合わせたマトリックス構造とドライバチップによって構成される。これらの「キャビネット」をタイル状に並べることにより、企業のロビーや、小売またはエンターテインメントの分野で使用される、任意のサイズや形状の大型ディスプレイを構成することができる。ここでの最新トレンドとしては、LEDダイのサイズの縮小によるコストの削減や、ピクセルピッチの縮小による近距離視聴を念頭に置いた新しい用途の実現などがある。

モバイルディスプレイ

スマートフォンディスプレイでは、性能の高さを理由にLCDに代わってOLEDの採用が急速に進行している。DisplayWeekでの出展はなかったが、韓国のサムスンディスプレイ社(Samsung Display)は明らかに、モバイル分野向けのパターンRGBディスプレイのリーダーである。スマートフォンにおけるトレンドとしては、画面本体比の増加、ディスプレイ画面における「ノッチ」の削除をはじめ、折りたたみ可能画面やフレキシブル画面への移行の他、ディスプレイスタック内にセンサや薄膜を組み込む技術の洗練化が続けられている。折りたたみ可能スマートフォンや、ノッチをなくしてカメラをディスプレイの裏に移動させたスマートフォンが、既に複数のメーカーから提供されている。
 中国のパネルファブ企業であるBOE社は、現在世界で最も大きなディスプレイメーカーであり、ほぼすべてのディスプレイ技術分野に参入している。例えば、モバイルディスプレイとしては、中国のファーウェイ社(Huawei)のスマートフォン「Mate XS」に現在採用されている、折りたたみ可能なOLEDパネルを開発している(図 1a)。折りたたんだ状態では6インチ画面だが、広げると8インチのタブレットになる。
 DisplayWeekに お い てBOE社 は、ローマ時代の巻物のように巻き取り可能な12.3インチのOLEDディスプレイのプロトタイプを初披露し(図1b)、複数のリフレッシュレート(30/60/90/120Hz)で動作可能な、新しい6.4インチのスマートフォンディスプレイを発表した。
 韓国のLGディスプレイ社(LG Display:LGD)も、折りたたみ可能なOLEDを製造している。DisplayWeekでは、中国のレノボ社(Lenovo)の「ThinkPad X1」に2020年のうちに採用される予定の新しいノートPC用デザインを披露していた(図 2)。写真は少し紛らわしいが、キーボードはディスプレイであり、ヒンジもイメージになっているので、これは上から下まで連続した1枚のOLEDパネルである。ノートPCを閉じても、エッジの小さな画面はオンのままで、通知を表示することができる。完全に開いた状態では、13.3インチ画面のタブレットとなる。ペンタッチをサポートする初めての端末でもある。
 DisplayWeekの直前には、台湾を拠点とするディスプレイメーカーであるイノラックス社(Innolux)が、カメラが画面の裏に埋め込まれた6.4インチのスマートフォンディスプレイを開発したことを発表した。これは、画面本体比を拡大するトレンドの一環である。

図1

図1 (a)は、ファーウェイ社のスマートフォン「MateXS」に採用されている折りたたみ可能ディスプレイ。
(b)は、巻き取り可能なモバイルOLEDのプロトタイプ。(画像提供:BOE社)

図2

図2 13.3インチの折りたたみ可能なノートPC用ディスプレイ。(画像提供:LGディスプレイ社)

ゲームディスプレイ

LCDディスプレイの主要なイノベーション領域の1つが、ミニLEDやマイクロLEDへの移行である。両者の違いはLED発光領域のサイズにあり、一般的にミニLEDは一辺が100〜300μm、マイクロLEDは一辺が約50μm以下のものを指す。ミニLEDには、LCD用のバックライトや直視型LED画面に用いられる、より大きな表面実装デバイス(SMD)LEDのパッケージ技術やアセンブリ技術が、ほぼ活用できる。マイクロLEDには、新しいプロセスと装置の開発が必要である。より小さなLEDへの移行を後押しするのは、コストを削減して性能を高めたいという要求である。ミニLEDは、自動車、ゲーム、TVバックライト、直視型LED画面をターゲットに開発されている。マイクロLEDも類似の用途をターゲットとしているが、商用化はミニLEDよりも遅れる見込みだ。
 ゲーム用モニターでは、リフレッシュレートの向上、より性能の高いHDR技術への移行、遅延時間(入力してから結果が画面に表示されるまでの時間)の短縮の他、さらに没入感あふれる視聴体験を実現するための、高いアスペクト比とカーブした(曲面状の)フォームファクタを備えた、ウルトラワイドアスペクト比のモニターの提供が、トレンドとなっている。
 DisplayWeekでは、台湾を拠点とするパネルメーカーのAUオプトロニクス社(AU Optronics:AUO)が、リフレッシュレートを高めたミニLED採用のゲームディスプレイを出展していた。同社が米エヌビディア社(Nvidia)と共同開発した、17.3インチ、1080pの新しいノートPC用ディスプレイは、300Hzのリフレッシュレートで1000nitの
HDR性能を提供する初の製品で、27インチのスタンドアロン版は、240Hzのリフレッシュレートを提供する。BOE社はフレームレートの水準を引き上げる製品として、360Hz、15.6インチ、解像度1920×1080の新しいゲーム用パネルを発表した。また、ゲームモニターメーカーを対象とした、アスペクト比32:9、リフレッシュレート240Hz、49インチのOLED曲面パネルも披露した。イノラックス社は、31.5インチ、4K、ミニLED採用のモニター用途向けのHDR LCDディスプレイを、同社の製品ラインに追加した。
 もう1つの興味深い進歩が、インクジェット印刷で製造されたOLEDディスプレイの来たる商用化で、より効率的な材料の活用によって、コストを削減すると期待されている。DisplayWeekでは、AUO社が世界初となるインクジェット印刷製造のOLEDディスプレイの1つを商用化する計画を明らかにした。4K解像度と120Hzのリフレッシュレートを備え、DCI­P3色域を100%カバーする、17.3インチモデルになるという。Display Weekの直後には、サムスンディスプレイ社が、インクジェット印刷による18.2インチのOLEDディスプレイを開発したことを発表した。解像度は2560×1440、フルホワイト輝度は350nitである。しかし、同社は、商用化を発表するには至らず、印刷による青色OLED材料が、従来の真空蒸着方式で製造された材料よりもはるかに効率が低いことを指摘した。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/04/020-028_ft_future_photonics-1.pdf