テラヘルツ光照射による細胞内タンパク質重合体の断片化

理化学研究所(理研)光量子工学研究センターテラヘルツイメージング研究チームの山崎祥他基礎科学特別研究員、保科宏道上級研究員、大谷知行チームリーダー、東北大大学院農学研究科の原田昌彦教授、量子科学技術研究開発機構の坪内雅明上席研究員、大阪大産業科学研究所の磯山悟朗特任教授、京都大大学院農学研究科の小川雄一准教授らの共同研究グループは、水溶液中で培養した細胞にテラヘルツ(THz)パルス光を照射した際、その光エネルギーが水溶液中を「衝撃波」として伝搬し、細胞内のタンパク質重合体を断片化することを明らかにした。
 共同研究グループは、大阪大産業科学研究所の自由電子レーザによって発生した THzパルス光(周波数 4THz、80~250μJ/cm2)を、水溶液中の培養細胞に向けて照射したところ、細胞内に存在するタンパク質重合体(アクチン繊維)が切断され、断片化することを発見した(図 1)。この断片化は、THz光が到達できない水深数mmで観察されたことから、THz光がタンパク質重合体に直接作用したのではなく、水表面で吸収された光エネルギーが衝撃波として水溶液中を伝搬し、細胞内のタンパク質重合体構造の変化を誘起したと考えられる。

図1

図1 水溶液表面で吸収されたTHzパルス光が衝撃波を発生させ、細胞内のタンパク質重合体(アクチン繊維)を断片化する。

背景

近年、技術的な発展を遂げたテラヘルツ(THz)光は、物質の内部構造を観測する検査技術や、次世代の無線通信帯域として、その応用が期待されている。この社会的背景から、THz光のばく露による生体組織への影響が注目されている。
 THz光は水に強く吸収される性質があるため、生体組織のような水を含む物質では、10マイクロメートル(μm、1μmは 1000分の 1mm)程度しか透過できない。そのため、THz光の生体への影響に関するこれまでの研究は、主に皮膚や目など生体表面の組織を対象としており、生体深部の組織については研究が進んでいなかった。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/01/8-9_wn_Riken.pdf