フローサイトメトリーと組み合わせてサブミクロンの検出を可能にする共焦点フィルタリング

ロバート・V・キメンティ

擬似的な共焦点設計により、光学ノイズリダクションを介して空間分解能が向上することで、細胞外小胞などのサブミクロン粒子の解析が可能になる。

異種細胞の混合物を個々の細胞ごとに同定、ソート、計数する機能として、フローサイトメータは有効な実験ツールである。フローサイトメトリーは、HIV患者を評価する手段としてT細胞を計数する必要性から、1990年代に研究施設から臨床応用へと移行した(1)。今日では、フローサイトメータは血液細胞の表現型の特徴付け、アポトーシスマーカーの測定、細胞内サイトカインの検出などにおいて広く使われている(2)。フローサイトメトリーの新たな、そしてすぐれた応用の1つが、サブミクロン物質、特に細胞外小胞の測定である。細胞外小胞は細胞内コミュニケーションの手段として細胞から分泌されるため、臨床応用においてバイオマーカーとして非常に興味深いものとなっている(3)。
 しかし、細胞外小胞のサイズは非常に小さく、従来のフローサイトメータで検出するのは困難だった。光路内の迷光に起因するノイズが原因である。近年、オランダのユトレヒト大(Utrecht University)のヴォーベン氏らの研究グループ(Wauben Research Group)は、ベルギーのBDバイオサイエンスヨーロッパ社(BD Biosciences Europe)と共同で、フローサイトメータの空間分解能を格段に向上させるために新規の光学集光設計を開発した。チームは2017年のCYTOカンファレンス(4)及び2020年『Cytometry Part A』誌(5)に掲載された中で、バックグラウンドノイズを減少させて空間分解能を向上させるために、検出システムにおける共焦点ピンホールを最適化するアイデアを初めて提案した。

フローサイトメータの基礎

フローサイトメータのことを最も単純に述べると、粒子カウンターと蛍光光度計を組み合わせたものであり、物理的・生化学的特性に基づいて細胞などの小粒子を一斉に選別できる。あらゆるフローサイトメータは4つの基本的なシステム、すなわち流路系、照射系、検出系、データ解析系から構成される(図1)。共焦点フィルタリングは主に検出系に関わるが、他の系の主な機能も理解しておくことは有用だろう。流路系は、個々の細胞または粒子を1列縦隊の流れに誘導することで、それぞれを個別に分析できる。照射源は通常、1つ以上の低ノイズTEM00レーザから構成される。レーザを粒子の流れに照射すると、個々の細胞がビームを通過する際に蛍光分子が励起し、光散乱が誘導される。
 検出系は2つの主要パートで構成される。1つは散乱強度を測定するもの、もう1つはさまざまな波長の蛍光強度を測定するものだ。前方散乱光(FSC)は照射路に沿って、側方散乱光(SSC)は照射路と直交して測定される。FSCは、散乱体の周辺で回折したレーザビームの結果であり、細胞や粒子の相対サイズと相関する。一方、SSCは散乱体の構造や粒度に依存する。
 フローサイトメータの蛍光の検出系もまた、レーザの照射路に直交する光を測定できるように構成されている。蛍光は、波長特異的な光検出器へシグナルを誘導する一連のダイクロイックフィルタを介して検出される。そして、特定の蛍光体に対する親和性の有無によって、細胞の種類を生化学的に識別できる。フローサイトメーターによっては、個々のフィルタベースの検出チャンネルではなく、分光計によって蛍光を分析することに注意が必要である(6)。
 データ解析系は、SSCとFSC検出器による物理データと、蛍光検出系による生化学的データを組み合わせ、異種細胞の混合物をまとめてカウント、ソートする。情報は、ユーザーが比較したいパラメータ数に応じて、1次元ヒストグラム、2次元散布図、3次元等高線プロットとして表示できる。さらに、データポイントの1セット(SSCとFSCの1組など)の情報を利用して、別のセット(異なる蛍光検出器)におけるゲーティングパラメータを作成するのに有用であると、多くの使用者が体感している。

図 1

図 1 従来のフローサイトメータの設計を示す。ここには、一般的な流路系、照射レーザ、そしてFSCとSSC、3チャンネルの蛍光検出器がある。多くの最新のフローサイトメータでは、複数の照射レーザと、3種類以上の蛍光検出チャンネルが搭載されている。

ノイズ減少による分解能向上

FSCはレーザ光路に沿うため、バックグラウンドノイズの影響を非常に受けやすい。加えて、光は弾性的に散乱するため、FSCの光は照射レーザと同じ波長であり、従来の光学フィルタは使用できない。長年にわたり、レーザ光をフィルタリングするために複数の異なるアプローチが計測工学よって試されてきた。そして最終的に、最も効果的なソリューションとして、集光光学系の前面に不透明な遮光物を設置することを業界標準にした。これにより、障害物周辺を通過する軸外のFSCを集光しながら、光学系の中心にあるレーザ光を遮断できる。このアプローチは、直接レーザ光をフィルタリングするという優れた性質を有するが、システム内の軸外迷光をあまり遮断できず、バックグラウンドノイズフロアが生じる要因となる。
 ほとんどの細胞計数アプリケーションにおいて、光学的バックグラウンドノイズは無視できる。しかし、粒子サイズが小さくなるにつれてFSC強度が弱くなり、ノイズフロアを超えて検出できなくなるため、細胞外小胞のようなサブミクロン粒子の解析は非常に困難である。ヴォーベン研究グループはこの課題に取り組むため、空間フィルタとして機能する光路内で最適なピンホールを探索することにした。その設計は、共役するピンホールがないため技術的には真の共焦点ではないものの、個々の散乱体そのものがピンホールに共益するので、非常に類似した効果が得られた。図2に、ピンホールを設置したFSCの光学レイアウトの模式図を示す。遮光物周辺を通過して光検出器に向かう一般的な迷光を、この擬似的な共焦点配置がどのようにフィルタリングできるか、この図から容易に理解できる。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/01/40-42_bioft_flow_cytometry.pdf