産業と科学に役立つピコ秒・フェムト秒ファイバレーザ

ジョン・ウォレス

二光子顕微鏡法、3D印刷、及びその他のアプリケーションはすべて、最新世代の超短パルスファイバレーザの恩恵を受けている。

ピコ秒及びフェムト秒ファイバレーザの出現により、コンパクトで保守が容易な超高速ツールが産業界や学界に提供された。これらのレーザの用途は、材料加工から顕微鏡法やその他の科学的用途にまで及ぶ。これらのレーザを最先端技術において評価することは、偏光保持及びフォトニック結晶ファイバ、並びにパッシブとアクティブモード同期のようなキャビティ及びエクストラキャビティ要素、半導体可飽和吸収体ミラー、周波数変換などの進歩につながる。この記事では、超短パルスファイバレーザについて説明し、多数の製品例とアプリケーションを紹介する。

500 ~ 15000nmのスペクトル範囲

すべての超短パルスファイバレーザメーカーは、テクノロジーに独自のひねりを加えている。例えば独メンロー・システム社(Menlo Systems)は、寿命を制限するコンポーネントのないすべての偏波保持ファイバ設計に基づいて、独自のモード同期アプローチ(フィギュア9と呼ばれる。特許を取得)を開発した。メンロー・システム社におけるフェムト秒ファイバレーザのプロダクトマネージャーであるクリスチャン・モーゼル氏(Christian Mauser)は、アディティブパルスモード同期技術は、非線形増幅ループミラーに基づいていると説明する。それは非常に速い人工可飽和
吸収体として作用し(1)、(2)、半導体可飽和吸 収ミラー(Semiconductor Satur able Absorber Mirrors:SESAM)のような他の技術と比較していくつかの利点を持つと同氏は言う(3)。
 「最適化された設計により、タイミングジッタと位相ノイズを最小限に抑え、相対強度ノイズ(RIN)を非常に低くすることで、シンプルで堅牢、かつ信頼性の高い操作を同時に実現できる」とモーゼル氏は言う。「このファイバレイアウトにより、非常にコンパクトな設置面積で温度や振動の影響を受けない操作が可能になり、またメンテナンスフリーの操作が可能になる。非常に高いピークパワーを備えた超短フェムト秒パルスにより、500 ~ 15000nmの巨大なスペクトルカバー範囲は、高調波、スーパーコンティニウム、または差周波発生などのさまざまな非線形プロセスを介して実現される。開始波長が930、1040、1560、及び2050nmのフェムト秒レーザ発振器を実現できる。その後の増幅とパルス圧縮により、高いピーク電力は、数ワットの平均出力電力と40 ~ 400fsのパルス幅で実現できる。追加の非線形プロセスを使用して、波長とパルス幅を変更できる」。
 繰り返し周波数とキャリアエンベロープ周波数は、キャビティ内アクチュエータを使用して広範囲に調整できるため、いわゆる(完全に)安定化された光周波数コムが可能になるとモーゼル氏は述べる。これは、原子時計の光学遷移の調査など、安定化されたレーザを使用した分光法や計測学のアプリケーションにとって特に重要である。光学及び電子機器の最適化により、アト秒レベルでのタイミングジッタと非常に低い位相ノイズが発生する。
 過去数十年間、フェムト秒チタンサファイア(Ti:サファイア)ベースのレーザシステムは、多光子イメージングアプリケーションの主要な光源であったが、ラボ空間とインフラに対する複雑さやさまざまな要求があることで知られている。ファイバレーザは、ここで優秀な代替品として機能し、前例のない柔軟な方法で生きている動物の神経活動を画像化できるポータブル非線形内視鏡システムなどの新しい顕微鏡アプリケーションに特に有益である(4)。ファイバベースのレーザシステムは、多光子イメージングにおける信号生成効率を改善する新たなチャンスも提供する。例えばパルス繰り返し周波数は広い範囲で選択できる。繰り返し周波数を下げるとピークパワーが増加し、生成される非線形信号が増加するが、平均パワーは維持され、サンプルの熱損傷が低く抑えられる。
 さらに、多光子吸収メカニズムを備えたより長い波長は、非常に低い励起パワーでもサンプルのより深い領域で高い画像コントラストを提供するとモーゼル氏は述べている。特に厚いサンプルでの二光子顕微鏡法の場合、より長い波長は散乱を減らし、コントラスト比を改善するのに非常に有益である。図1は、厚さ300μmのマウスの脳のサンプルにおける多光子励起蛍光画像の例を示している。サンプルはAlexa647で染色され、780nmのTi:サファイアシステムからのレーザパルスと1300nmの波長シフトイッテルビウム
ドープファイバレーザ(メンロー・システム社の「YLMO」)で励起される。より長い波長の励起の利点は、はっきりと見える。非常に低い励起パワーでも、サンプルのより深い領域でも高い画像コントラストを得ることができる。

図 1

図 1 780nm(a)及び1300nm(b)で励起された、Alexa647で染色された厚さ300μmのマウス脳スライスの二光子励起蛍光画像。 測定は、独マックスプランク実験医学研究所と協力して行われた。(画像提供:マックスプランク研究所、メンロー・システム社)

高速カッティング

米スペクトラ・フィジックス社(Spectra­Physics)は、赤外、グリーン、紫外波長をカバーする、工業用製造向けの超短パルスピコ秒及びフェムト秒レーザを開発・製造している。「当社のハイブリッドファイバレーザ設計は、例えば、IRフェムト秒パルスで600μJを超える高いパルスエネルギー、シングルショットから10MHz超までの広い動作範囲、及び柔軟なパルスプログラムに対応するための『TimeShift』機能を備えている」と製品マーケティングディレクターのスコット・ホワイト氏(Scott White)は語っている。「これらの機能により、有機ELディスプレイ、脆性材料、薄膜、フレキシブルプリント回路基板(FPCB)など、今日のさまざまな複雑な材料の高速微細加工が可能になる」。
 同社の50W UVピコ秒ファイバレーザである「IceFyre 355­50」は、1.25MHzで40μJ/パルスを生成し、通常のパルス幅は10psで、シングルショットから10MHzまで動作する。ハイブリッドファイバ設計、レーザのTimeShiftピコ秒プログラマブルバーストモード技術により、ユーザーは独自の波形を作成してプロセスの速度と品質を最適化し、バーストモードで数百μJのパルスエネルギーを生成できる。レーザには、パルスオンデマンド(Pulse On Demand:POD)と位置同期出力(Position Synchronized Output:PSO)があり、「ポリゴンスキャナを使用する場合のような超高速スキャン速度で高品質の処理を行うために、クラスで最も低いタイミングジッタ」でトリガーされるとホワイト氏は言う。同氏は、レーザはガラス、サファイア、FPCB、フラットパネルディスプレイ材料などの幅広い材料を処理できると付け加えた。
 IceFyre 355­50は、スマートフォンで使用される有機EL、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate:PET)、シクロオレフィンポリマー(Cyclo­Olefin Polymer:COP)などのフレキシブルディスプレイ材料の高速カッティングに使用できる。有機ELの製造には、通常、層状に積み重ねたPET/COPを接着剤で処理することが含まれる。完成したスタックは、厳密な要件に合わせてカットされ曲線を描く必要がある。ピコ秒UVレーザは、数年前からフレキシブル有機EL切断に必要な品質を得るために使用されてきたが、これらの家電製品の生産需要を満たすために、材料を高速で切断することが課題であった。「IceFyre 355­50は、より高い再現率でより高い出力を発揮するため、以前のより高価なUVピコ秒レーザと同等のパルスエネルギーとパルス幅でフレキシブル有機EL材料を切断できるが、その中でもほぼ90%の速度を維持している」とホワイト氏は述べている。

パルス幅可変により、スクライビングを最適化

フォトニック結晶ファイバ(PCF)の技術でよく知られるデンマークのNKTフォトニクス社(NKT Photonics)は、ファイバレーザにその知識を適用している。例えば「aeroPULSE」超短パルスファイバレーザプラットフォームの形についてであり、それは同社のPCFアンプ技術に基づいている。同社の超高速レーザ担当上級副社長であるカー
ステン・トムセン氏(Carsten Thomsen)が説明しているように、標準のピコ秒モデルは、1030nm及び5psのパルス幅(5 ~ 50psの間でカスタマイズ可能)で10W(「aeroPULSE PS10」)と40W(「aeroPULSE PS40」)の出力を備えている。例えば効率的な外部周波数変換が必要なアプリケーションで利用可能な狭帯域幅バージョンである。
 「aeroPULSE FS」シリーズは、同社のOptoCAGE技術を利用してピコ秒プラットフォーム上に構築され、500fs未満のパルス幅でフェムト秒超高速レーザ出力を提供し、高いポインティング安定性と20 ~ 50Wの出力電力を提供する。グリーン及びUV周波数変換モジュールaeroPULSEプラットフォームで利用可能で、単一または多波長のオプションがある。
 最新の「aeroPULSE FS­50」フェムト秒ファイバレーザは、1030nmで50Wの出力を提供し、パルスエネルギーは40μJであるとトムセン氏は語る。レーザ処理条件を最適化するための追加機能には、バーストモード、出力減衰、繰り返し周波数の選択(シングルショットから50MHz)、パルス幅の選択(<500fsから3ps)、及びゲートとイ ベントのトリガー制御が含まれる。グリーン(515nm)とUV(343nm)高調 波モジュールにより、熱に敏感な材料 やもろい材料を処理するための柔軟性 がさらに高まる。「このレーザは、薄 膜切断、ガラスマーキングと切断、医 療用ステント製造、ICパッケージと PCB切断、low­k材料のスクライビン グ、バイオイメージング用のOPAポンピング、表面処理薬、及び耐食性マーキングを対象とするアプリケーションに最適だ」とトムセン氏は説明する。  ディスプレイ業界のアプリケーショ ンの場合、low­k、特に次世代有機EL とフレキシブルディスプレイは200μm 未満の薄い誘電体材料の多層スタック で構成されているため、温度に敏感な 材料は、熱プロセスを最小限に抑える ために超高速プロセスを必要とする。 aeroPULSE FS­50レーザのパルス幅を 調整する機能により、特に異なる材料 のスタックを操作する場合に、ユーザーがスクライビングプロセスを最適化 する柔軟性が得られる。繰り返し周波 数とパルスエネルギーを調整できると いう追加の柔軟性、及びバーストモードを使用する可能性により、顧客はスクライビング・切断プロセスを改善し、 スループットを向上させることができる。オプションとしてグリーンとUVを利用できるため、スポットサイズが小さくなり熱負荷がさらに減少すると、パルスエネルギーの供給精度が向上し、マイクロクラックや不均一な加工切り口が減少することから、加工材料の歩留まりと信頼性も向上する。

マイクロスケール印刷

米カルマ・レーザー社(Calmar Laser)は、パッシブモード同期フェムト秒ファイバレーザ、アクティブモード同期ピコ秒ファイバレーザ、チャープパルスアンプ、非線形波長変換、ラージコア、ダブルクラッドエルビウム・イッテルビウムファイバンプ、光パラメトリックアンプ、レーザエレクトロニクスのハードウエアとソフトウエアなど、幅広
い技術に関する知識と強力な特許ポートフォリオを持つと同社の創設者兼社長であるトニー・リン氏(Tony Lin)は述べている。カルマ・レーザー社製の超短パルスファイバレーザとファイバアンプシステムは、OEM、B2B、生物医学、半導体/マイクロエレクトロニクス、電気通信、産業、及び科学研究市場セグメントの研究顧客を対象としている。
 同社には3つの主要な製品プラットフォームがある。1つは、シードソース/増幅器モジュールとして他のメーカーの高出力レーザプラットフォームに組み込むための堅牢で高度にカスタマイズされたファイバレーザのOEMモジュールである。第二に、製造または研究開発環境でのテスト及び測定アプリケーション用に設計されたベンチトップシステムである。第三に、さまざまな市場セクターにわたる特定のアプリケーション向けに開発された高出力システムである。
 最近、ギガヘルツの低ジッター同期信号を備えた新しい一連のフェムト秒光源が、同社の低電力「Mendocino」ベンチトッププラットフォームに追加された。780、850、1310、1550nmの波長オプション、0.3ps未満のパルス幅、及び200fsの低いタイミングジッタを備えたこの新しい製品ラインは、高速トランシーバー適合性テストとフォトダイオードの特性評価の光源として最適である。
 「Carmel X­780」は、市場で最も小型の高出力フェムト秒ファイバレーザであり、780nmで最大1Wの出力、90fs未満のパルス幅を備えている。「CarmelX」シリーズの構成要素は、カルマ社独自の可飽和吸収技術を備えた超高速Er:ファイバであり、電源投入時に再現性と信頼性の高いモード同期を実現する。すべてのファイバベースのチャープパルス増幅方式を使用して、より高いパルスエネルギーとより高い平均パワーを提供する。チャープされた1.55μmパルスは、装甲ファイバケーブルを介して手のひらサイズのレーザヘッドに送られ、そこで圧縮されて、バイオイメージング、二光子顕微鏡、光学計測、3Dナノプリンティング、テラヘルツイメージング、眼科学などに有用な780nmの
出力に変換される。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/01/20-27_pp_ultrafast_fiber_lasers.pdf