導波路オプティクス:古典的ファイバオプティクスを超える

ジェフ・ヘクト

新世代技術に集積光回路を組み入れるには、われわれの光についての見方を拡大する必要がある。光は、伝送し、操作する幅広い範囲のオプティクスにつながるのである。

導波路オプティクスは、溶融ガラスの表面張力によって円形断面に線引きされる古典的な固体ガラス光ファイバとは、著しい差がある。導波路オプティクスに含まれるのは、ダイオードレーザの活性層の平面導波路、光を伝送し、カプラ、リング共振器、雌雄積光チップの他のコンポーネントとして機能する多くの種類の平面導波路などである。導波路オプティクスは、ノーベル賞受賞のレーザ周波数コムをフォトニックチップに集積することさえ可能である。
 導波路オプティクスのルーツは、ジェームズ・クラーク・マクセル(James Clerk Maxwell)の電磁放射理論にさかのぼる。レイリー卿(Lord Rayleigh)が、1897年に、中空金属シリンダの数学的導波理論を初めて開発し、その後、非導電性誘電体導波路の研究が行われた。その理論は電磁波一般用に開発され、電波でテストされ、光ファイ
バの全反射、平面導波路の導光を説明することも示されている。

モーダル効果

導波路理論は、モードパターンを含め、光と他の電磁波の伝搬を説明している。センチメートルスケールの長方形金属導波路は、ほぼ同サイズのマイクロ波信号でよく機能する。伝搬モードは、20世紀半ばまでは重要にならなかった。その時点で、電波の周波数が数十GHzとなり、多くの波が導波路内部に収まるようになったのである。1950年代、電話トラフィックを伝送するための5cm「ミリ波導波路」の設計者は、この長尺埋込導波路で60GHz(0.5mm)を伝送しようとしたとき、マルチモード伝送がどの程度の問題を起こすかを理解していなかった。
 モーダル効果がファイバオプティクスに現れたのは、1950年代に全反射ベースのファイバオプティクスが開発された数年後である。ファイバコアをマイクロメートルに縮小することで医療アプリケーションで分解能を改善しようとしていた開発者は、ファイバに奇妙なパターンを見つけて驚いた。米アメリカンオプティカル社(American Optical)のエリアス・シュニッツァー氏(Elias Snitzer)は、そのパターンがシングルモード伝送であると認識した。
ミリ波導波路に取り組んでいたチャールズ・カオ氏(Charles Kao)は、光ファイバのシングルモード伝送がミリメートル導波路のマルチモード伝送問題を回避することを示唆した。ただし、シングルモードファイバは、1980年代までは広く普及していなかった。
 導波理論は、全反射がすべてでないことも明らかにした。そうではなく、エバネッセント波が高屈折率コアから低屈折率クラッドまで広がり、指数関数的に強度が低下する。モードのように、サイズが波長オーダーの場合、これは重要な意味を持つ。

平面導波路と集積オプティクス

1969年、ベル研のスチュワート・E.・ミラー氏(Stewart E. Miller)がモノリシック「集積オプティクス」開発を提案した。これは、低屈折率クラッドに埋めこんだ2μmのシンプルな高屈折率平面ガラス導波路で光を伝搬する(図 1)。計算から分かったことは、2つの近接した平行導波路間にエバネッセント波がリークすること、それらの間で光学的に結合した光であるということである。他の初期の考えに含まれていたのは、シリカまたは空気で囲まれたシリコン導波路の作製、リチウムナイオベート導波路にチタンを拡散することで変調器を作製することだった。
 平面導波路は、間もなくダイオードレーザに用途を見出した。その長方形横断面は、ダブルへテロ構造で用いられるフォトリソグラフィや半導体製造技術に適合する。そこでは、高屈折率活性層が、2つの低屈折率層で挟まれている。ダイオードレーザで用いられ普及しているストライプ形状は、平面導波路である。厚さはマイクロメートル以下、わずか数マイクロメートル幅である。
 集積フォトニクスの進歩は全体として、著しく遅かった。光領域のフォトンは、電子よりも大きく、物質を介したそれらの相互作用は一般に、電子の場合よりも弱いので、集積光コンポーネントはトランジスタを小さくする傾向にある。しかし、そうした制約を克服すると大きな進歩が訪れた。

図1 クラッドとして機能する低屈折率材料ブロックに埋めこんだ高屈折率材料の単一平面導波路。その導波路は、低屈折率の材料への堆積でもよいが、両サイドと上方で空気がクラッドとして機能する、あるいは平面層に埋めこみ、空気を上方クラッドとすることもあり得る。ほとんどのアプリケーションで、導波路は薄くて狭い。

集積フォトニクス用の材料

シリコンは集積フォトニクス向けの主要材料である。なぜなら巨大な産業基盤があり、フォトニクスにとって極めて重要な電子コンポーネントを供給できるからである。シリコンは、11000 ~ 3500nmまで透明であり、1310nmと1550nmウィンドウに広がる。その範囲でシリコンの高い屈折率、約3.5により、小さなコンポーネントで強い曲がりで光を導波する。その最大の欠点は、間接バンドギャップである。このため、シリコンは効率的に光を生成できないのでレーザ向けではない。実用的には、発光III-V半導体が、通常はInP基板であるが、これらがシリコン基板にフリップチップボンドされ、シリコンは集積光ハイブリッドになる。
 集積フォトニクスは、InPベースも可能である。これは1000 ~ 2500nmで透明であり、重要なファイバウィンドウをカバーする。InPは直接バンドギャップであり、またIII-V半導体は、その上に成長させてレーザ、ディテクタ、その他のコンポーネントを作ることができる。InPは、高性能送信機や受信機に商用利用されているが、産業基盤はシリコンと比べると著しく小さく、コストは高くなる。
 二酸化ケイ素(SiO2)と一部の他のガラスも魅力的である。300 ~ 2500nmで透明であり、導波路におけるその減衰は、ほとんどの他の導波路材料のdB/cmよりも著しく低い。しかし、SiO2の屈折率は1.45であるので、シリコンや他の高屈折率半導体のように光を強く閉じ込めることができない。また、レーザ、変調器、あるいはディテクタの作製にも使えない。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/01/36-39_ft_waveguide_optics.pdf