マイクロLEDはディスプレイの次世代中核テクノロジーとなるか

クリス・チノック

個々のディスプレイピクセルと同サイズになるマイクロ LEDの開発が、大々的に進行している。特に注力されているのは、これらの LEDのシンギュレーション、パッケージング、そしてディスプレイへとアセンブリする工程である。

ディスプレイ業界で多大な注目を集めているマイクロLEDは、フォトニクス業界にも大きな影響を及ぼす可能性がある。何十もの企業が、小さなLEDデバイスを作製し、多彩な手法によってそれらをアセンブリしてディスプレイを構築するためのさまざまな方法を考案している。イノベーションあふれる分野だが、非常にわかりにくい分野でもあり、明らかに優れた技術方式はまだ出現していない。本稿では、いずれか1つの方式に過度に踏み込むことなく、主要トレンドや技術方式に触れつつ、その全体像を示したいと思う。

マイクロLEDとは

マイクロLEDという語は一般的に、LEDデバイスの発光領域のサイズを指して用いられる。ただし、どの程度のサイズをもって「マイクロ」と呼ぶかについて、明確な業界定義はなく、その定義は用途によって異なる可能性がある。例えば、仮想現実/拡張現実(VR/AR)メガネに対しては、10μm未満のマイクロLED素子が望ましい。直視型ディスプレイならば、50μmか100μmと定義されるかもしれない。それ以上のサイズは、ミニLEDという別のカテゴリーに分類されるが、こちらも、発光体サイズの範囲が明確に定められているわけではない。
 さらに紛らわしいのは、多くのディスプレイメーカーが自社の極小ピッチのディスプレイピクセルを、使用されている発光体のサイズにかかわらず、単純に「マイクロLED」と呼んでいることだ。ディスプレイデバイスの場合は、ピクセルピッチ(フルカラーピクセルの間の間隔)のほうがLED発光体のサイズよりも重要だからである。
 直視型LED(DV-LED)ディスプレイの一種として最もよく知られているのが、いわゆる「ビデオウォール」である。このモジュール式ディスプレイは複数の「キャビネット」で構成されており、各キャビネットは複数の「モジュール」で構成されている。各モジュールは、赤色、緑色、青色(RGB)のLEDがドライバや電気相互接続とともに搭載された、回路基板となっている。
 この数年間で、挟ピッチ(ファインピッチ)のLEDビデオウォールに向けたトレンドが明らかに進行している。ピクセルピッチは一般的に1.5mm未満と定義されており、現時点の最新プロトタイプは0.4mmである。このようなディスプレイは、近距離視聴用に設計されている。ちなみに0.4mmは、65インチの4K-UHD解像度テレビのピクセルピッチに非常に近いサイズである。そのため、主要テレビブランドはこの技術に大いに関心を寄せている。
 DV-LEDディスプレイは、輝度、ダイナミックレンジ、色域、視野角、黒レベルなどにおいて、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)の性能に匹敵し、勝る場合も多い。最大の欠点は、価格である。DV-LEDディスプレイの主なコスト要因の1つが、RGB LEDである。LED発光体を小さくすれば、必要なLEDデバイス材料が少なくなり、大幅なコスト削減につながる。もう1つの主なコスト要因は、LEDをパッケージングして、モジュール回路基板上にアセンブリする工程である。
 LEDは従来的には、エピタキシャルウエハから切断され、表面実装パッケージ上に配置されて、ワイヤボンディングされ、エポキシまたはシリコン樹脂で封止される(これをSMDトップLEDと呼ぶ)。これらのLEDをプリント回路基板(Printed Circuit Board:PCB)上にアセンブリする方法のバリエーションとして、GOB(Glue On Board)やAOB(Adhesive On Board)と呼ばれるものがある。コストの削減やピクセルピッチの縮小を目指す、さらに新しい方法もいくつか考案されており、SMDチップLED、IMD(Integrated Matrix Device)、COB(チップオンボード)などと呼ばれている。独ラング社(Lang AG)は、オランダのアムステルダムで2020年2月11 ~ 14日に開催された展示会ISE 2020で、デバイスサイズや製造方式が異なるこれらすべての方法を、並べて展示した。図 1は、その小規模なデモの写真で、表 1は、各方法の構造や長所/短所をまとめたものである。
 LEDのサイズにはかなりの幅があるため(しかも、ディスプレイメーカーは通常、これを公表しない)、ラング社はこれを明記していなかった。しかし、長さまたは直径は100 ~ 300μmの範囲にあるようなので、マイクロLEDまたはミニLEDに分類される(どちらに分類されるかは、マイクロLEDの定義に依存する)。

図1

図1 ラング社がISE 2020で展示した、複数のLED技術。(画像提供:ラング社)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/11/034-038_ft_displays.pdf