カルコゲナイドガラスが赤外線技術で、先端応用分野の基盤に

ゲルノット・ウェバー

品質の高い赤外線ガラスに対する新たな需要が生まれ、その入手可能性が高まったことにより、さらに小型かつ軽量で、内部冷却システムを必要としない光学設計が可能になる。

カルコゲナイド赤外線ガラス(IRG)(カルコゲナイド)は何十年もの間、「エキゾチックなもの」と考えられていた。IR波長に依存する、どちらかというと少数の用途に対しては、他のIR材料でうまく対応できたため、カルコゲナイドの需要はかなり限定されていた。需要が低いためにこの材料を製造するのは小規模企業に限られ、そうした小規模企業は、製品の技術的詳細を示したり、再現可能な一貫した結果を生成したりするのが困難だった。その結果、需要が低いためにその材料は入手しにくく、従って光学設計者や製品研究者は、カルコゲナイドを新製品の材料ソリューションとして実験または調査したいと思わないという、予言の自己実現が起きていた。
 新しい一連の潜在的用途と、より小型かつ軽量で、比較的高価な内部冷却システムを必要としないIR設計に対する関心の高まりによって、カルコゲナイドガラスに対する新たな関心が生み出されている。それに伴って、新たな需要が生まれ、品質の高い材料が入手しやすくなり、カルコゲナイドガラスの技術的詳細がさらに深く解明されている(図 1)。

図 1

図 1 ペンシルベニア州デュリエにあるショット社の施設では、アイルーペ、標準的な白色光干渉計、テストめっきを用いて、作製した材料の詳細検査を行う。

波長と用途の対応付け

用途の開発という目的において、IR帯域は一般的に、短波長赤外線(SWIR)、中波長赤外線(MWIR)、長波長赤外線(LWIR)という3つのスペクトル帯に分割される。帯域ごとにメリットとデメリットがあるため、帯域によって適する用途は異なる。
 SWIR(波長:約1〜3μm)は、最もクリーンな画像を生成する傾向にある。可視光と同様に、対象物によって光子が反射、吸収、散乱されることで、高い解像度に必要な高いコントラストが生成されるためである。SWIRを処理するセンサは、非常に高額である場合が多い。このトレードオフに基づき、SWIRを利用する用途は、偽造防止、プロセス品質管理、医用イメージング、半導体製造など、高価値分野に一般的に集中している。
 MWIR(波長:約3〜5μm)は、急激な温度変動の検出と大気条件からの散乱の回避に最適である。MWIRシステムは内部冷却が必要である場合が多く、より高額になる。MWIRシステムは希少品であり、防衛(戦闘機の排気の識別)や産業用サーモグラフィといったミッションクリティカルな用途に一般的に用いられる。
 LWIR(波長:約8〜14μm)は、用途の範囲が最も広く、特に民間セキュリティの分野で用いられる。LWIRカメラは主に、物体の表面温度特性を高い精度で測定するために用いられ、そうしたシステムは、物体が遠く離れていたり周囲が真っ暗であったりしても、熱放射を可視化することができる。LWIRの画像解像度はかなり低い場合もあるが、それでもLWIRは、建物検査、サーマルイメージング監視、個人用暗視カメラ、消防士用の捜索救助ツール、その他の低コストの非冷却システムなどの用途に用いられることが多い。
 ここ数年間、ほとんどのIRシステムの主な適用先は、軍用や産業の分野に限られていた。しかし、IRカメラの利用が他の分野にも広がりつつある、全般的な傾向がうかがえる。独ショット社(SCHOTT)は、民間セキュリティ装置、日用品レベルの家電製品、そして、新型コロナウイルス感染症(COVID19)に対する予防策として組織や企業で使用されている非接触型のIRサーモメーターに、高まる可能性を見出している。(図 2)。
 しかし、SWIRとMWIRに伴う冷却システムとプロセッサのコストを考えると、設計者の対象はLWIRシステムに絞られる可能性がかなり高い。幸い、LWIRを利用する場合は、光学設計がさほど複雑ではなく、量産可能な材料が使用できる。また、そうした材料を互いに組み合わせて、最適なイメージング性能を達成することができる。

図2

図2 研磨された球状のプリフォームは、IRカメラシステム用の非球面レンズの高精度な成形によって作成されている。このようなレンズや光学システムは現在、新型コロナウイルスの世界的感染拡大で需要が高まっており、体温を測定し、ウイルス感染検査が必要かどうかを判定するための非接触型のサーモメーターに使われている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/11/024-026_ft_ir_glasses.pdf