レーザが形作る量子技術の世界

ステファン・リッター、ユルゲン・ステューラー

狭線幅可変ダイオードレーザ、増幅・周波数倍増レーザ、周波数コム、波長計により、多くの量子技術が実現する。

量子理論が初めて定式化された1世紀前、どれほど多くの技術開発が量子物理学から生まれ、それが今日の私たちの生活や交流のあり方を形作ることになると、誰が想像しただろうか。コンピュータで仕事をしたり、携帯電話を使ったり、磁気共鳴イメージングによる診断を受けたりする場合、いずれも技術の基礎となっているのが量子力学の理解である。
 フォトニクスでは、レーザと発光ダイオード(LED)がその代表例であり、レーザだけでも現在の市場は120億ドルを超える。今や、新たな量子技術の兆しが見えている。研究者とサイエンスライターともに第2の量子革命と宣言するほど、エキサイティングなアプリケーションである。

基礎研究から市場へ

彼らの情熱は、「量子2.0」に多額の投資をしている政府や企業にも共有されている。量子系の最大の弱点は、しばしば直感に反して不気味にすら受け止められることだが、実際には新技術の根本となっている。結果として得られるアプリケーションは新しいものだが、量子技術を可能にするツールは真新しいものではない。すでにニュートンは、近代科学技術の中心に存在するものを認めていた。「私が彼方を見渡せたとするのなら、それは巨人の肩に乗っているからだ」。このことは、特に量子技術に当てはまる。例えば、最初の量子革命の産物であるレーザは、量子技術を実現する技術である。その応用は、純粋に光量子技術に限られていない。むしろ、レーザは大多数の量子装置で使用されている。
 事実、レーザ企業である独トプティカフォトニクス社(TOPTICA Photonics)は、レーザ冷却と原子種分光学に起源を持ち、現在では量子通信、量子コンピュータ、量子シミュレーション、量子計測、量子センシングなど、あらゆる分野の量子技術におけるレーザシステムを提供する主要企業となっている。
 最も明確なことは、量子ネットワークの中心に光源があることだ。なぜなら、長距離にわたって量子状態の天然のキャリアとなるのが光子だからだ。光子は、量子鍵配送や、将来的には量子コンピュータの相互連結などのアプリケーションを可能にする。その中でレーザは多くの量子コンピュータや量子センサ、光時計に必要不可欠なコンポーネントでもある。本質的には、レーザから発せられる光をすべての自由度で驚異的に制御することは、最重要なツールだ。なぜなら、しばしば量子限界において、他の量子系を初期化して操作し、読み出すからである。
 レーザのすべての特性、すなわち波長、線幅、出力、偏光、空間的ビームプロファイルは、量子技術において重要な制御パラメータである。量子通信では、制御パラメータが量子情報の多くの異なるエンコーディングに反映されている。単一光子の偏光は、その時間的形状がタイムビン量子ビット(qubit)の形としているように、量子ビットを運ぶことができる。
 単一光子のタイミング、周波数、空間構造、さらには軌道角運動量も同様に、量子情報をエンコードするために用いられるが、特定の長所と短所がある。これらの自由度のいくつかは、二準位系に存在する量子ビットを超えるために使われ、量子ビットをエンコードする。つまり、追加された次元で量子ビットの一般化である。光パルスの位相と振幅は量子通信にも採用されている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/09/010-013_ft_quantum_photonics.pdf