生物医学におけるOCTの新しい方向性

バーバラ・ゲフベルト

BiOS2020の産業セッションで明らかになったのは、OCTの新たな開発の方向性だ。

SPIEフォトニクスウェスト2020の生物医学光学シンポジウム(BiOS)初日において、光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)の商業開発を展示した産業セッションは、小型な低コストシステムによる幅広い応用などの劇的な変化と、度重なる技術開発による臨床インパクトを予感させるものであった(1)。

走査速度、視野、システムサイズ

独カールツァイスメディテック社(Carl Zeiss Meditec)は、眼科器具メーカーが最初にタイムドメインOCTシステムを市場に送り出した当初から、OCT技術の最前線に立ち続けている。同社はおよそ20年にわたり、眼科学でOCTが標準治療となる際に重要な役割を果たしてきた。
 オーストリアのウィーン医科大(Medical University of Vienna)にあるツァイス研究室の責任者であるティルマン・シュモル氏(Tilman Schmoll)は、OCTの発 展について、 最 新 のOCT装置は初代システムの約2000倍の速さで動作すると述べる。さらにツァイス社は、この急速な成長は続くと見込んでいる(なお、スピードの向上
は画質の損失につながらず、むしろ画質は改善している)。
 シュモル氏は、スピードが向上するにつれて主に視野が広くなり、取得時間の合計はほぼ変わらずにいると話した。しかし、現在の技術は、OCT血管造影(OCTA)のように拡張できるほどのスピードが可能となっている。OCT血管造影は、同じ場所を複数回走査することで、網膜毛細血管内で動く血液細胞のような変化を取得できる。
 現在の多くのOCTシステムは、3mmの走査深度と20〜25μmの方位分解能で、3×3mmから12×12mmの視野(FOV)の走査パターンを提供する。取得スピードはFOV幅を制限する主要因子である。事実、広視野のOCTAは通常、走査を組み合わせて実現している(例えば、部分的に重なっている2つの15×9の走査を記録し、合成して15×15のモンタージュを作成する)。しかし、新たな技術によって今や、200kHzの15×15の走査1回で可能となっている。これは、解像度を維持するために100kHzで走査して15×9の画像を同時に記録していた方法を置き換えるものだ。加えて、ツァイス社の研究者は、眼球運動のリスク緩和は再検査の必要性を下げるため、新しい走査モダリティは取得時間を25%減らすことができると述べる。
 アドオンのレンズにより、27μmの解像度と90°の視野で、24×24のOCTA走査のシングルショットを取得できる。これは、ツァイス社の広角眼底カメラCLARUS 500に匹敵する。糖尿病患者の観察や治療だけでなく、疾患の理解そのものにも活用できると期待されている。
 ツァイス社のR&Dチームは、メガヘルツスピードの広視野イメージングに対するさらなる臨床価値を示している。これは、カンファレンスのプレゼテーションで紹介された(図 1)(2)。
 シュモル氏は、チップ上の眼科OCTプロジェクトにおけるツァイス社の役割について議論した。このプロジェクトは、2020年末まで続く5カ年計画である(3)。このコンソーシアムの目的は、光集積回路(PIC)を用いてOCTシステムのサイズとコストを下げることである。CMOSエレクトロニクスの統合により、メンテナンス・アライメントフリーのデバイスを大量生産できると考えられている。こうしたデバイスは、ポイント・オブ・ケア診断やデジタル医薬における新たな応用を可能とするだろう。会議論文では、プロジェクトの最初のinvivoの結果は臨床的に有用な画質であることが示され、この技術による2つのシステムが紹介された(4)。
 ツァイス社は、2020年1月に始まった、もう1つの5カ年計画にも参加している。これはハンドヘルドOCTと呼ばれるもので、イメージングスピードが劇的に向上し、現在の最先端デバイスと比較してサイズとコストを下げた新世代の1060nmデバイスを容易にすることが目的だ(5)。別の会議論文で述べられたように、コンソーシアムの目的はこれらの目標を、「窒化ケイ素の光導波路のモノリシック集積化、ゲルマニウムの光ダイオード、新規の小さな全半導体の無動掃引源の混成集積と組み合わせたマイクロ光学」によって達成することだ。究極の目的は、網膜病理学におけるポイント・オブ・ケア診断や診断ドリブンな治療において、OCTを幅広く適用させることである(6)。

図 1

図 1 メガヘルツスピードでのSS-OCTは、想像するほど未来のことではない。OCTAの12×12mm走査(a)は2.5秒以下(1秒あたり170万のA-スキャン)でキャプチャされ、100kHzシステムを用いて25秒かけて走査したもの(b)と同等画質で送られる。

図2

図2 ソーラボ社のMEMS-VCSEL掃引波長レーザ源の新たな可能性は、最適化された双方向掃引だ。これにより、最大1.2MHzの効率的な掃引レートを実現する。開発中のものは1MHz以上(または2MHzの双方向)の掃引レートが可能と期待されている。

より小さく、速く、手頃で、高性能なものを

OCTにおける別の大手企業は米ソーラボ社(Thorlabs)だ。15年以上にわたり、さまざまな光源、光学・機械製品、検出器を含む部品からモジュラーサブシステム、そして完成系のシステムまで、幅広いOCT製品を取り揃える開発製造者である。同社はOCTを発展させるために、オプトメカニクス、光学コーティング、オプトエレクトロニクス、光学ファイバ、半導体ウエハ製造、そして研究者・産業パートナー・消費者との協働を目的とした製造施設を所有している。
 ソーラボ社の部品ビシネスは、自社の供給ラインだけでなく、OEM市場にも貢献している。そのため、さまざまなOEM製品とともに、カスタマイズされたOCTモジュールを複なホストシステムに組み込む技術も提供する。
 ソーラボ社の最近の成果を要約する際、主要VCSELアプリケーション科学者であるシャヒド・イスラム氏(Shahid Islam)は、主な部品の小型化とコスト削減であると言及した。彼は、OCTと蛍光イメージを同時に取得できるTelesto OCTのマルチモーダルバージョン(2020年発売)を含む新製品を振り返った。他の新製品は、光学シグナルを分割して結合させるために設計された、広帯域の光ファイバ結合器である。これは特定の結合比を有しており、広いスペクトル幅と、最小限のスペクトル依存性が特徴だ。OCTシステムに組み込みやすく、さまざまな波長と帯域幅をカバーする高速なモニター出力を持つOCT平衡検波器である。ソーラボ社のリン化インジウム(InP)とガリウムヒ素(GaAs)ベースのブースター光増幅器(BOA)ラインが新しく加わったことは、今や製品は980〜1650nmに広がることを意味する。
 ソーラボ社がOCT向けにさまざまな光源を提供する一方で、フラッグシップ照明製品は、調節可能なMEMSVCSEL掃引波長レーザ源である。一定の寿命出力を維持するため、100mm以上のコヒーレンス長とアクティブな出力制御が特徴だ(MEMSは微小電気機械システム、VCSELは垂直共振器面発光レーザを意味する)。VCSELベースのOCTは、高速かつ操作の柔軟性、生物医学やその先にある新たなアプリケーションを幅広くもたらす。この技術は現在、1060nmから1300nm波長の間で提供されているが、高速かつ調節可能で、複数の掃引モードがある。レーザは最大3つの完全に独立した掃引モードと、(オプションで)最大3つのマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)kクロックが可能で、マルチレートで複数のMZI操作が実現できる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/038-041_bioft_optcal_coherence_tomography.pdf