最新高精度レンズを実現する、レンズ設計ソフトウエア

ジョン・ウォレス

数十年間に及ぶ開発によって機能が拡大した最新の光学設計ソフトウエアは、複雑な光学システムのモデル化、最適化、公差解析を簡単に行うことができる。

レンズ設計ソフトウエアが登場する前にも、高度な光学システムが定期的に設計されていたというのは事実である。卓越した機能を備える顕微鏡、望遠鏡、カメラレンズ、その他の光学部品も、手計算に基づいて設計され、その目的を支えてきた。しかし今、レンズ設計者はコンピュータによる高速演算を利用して、非常に複雑な光学システムに対する最適化されたソリューションを見つけ出すことができる。ガラス、製造方法、機械的欠陥の影響を精密なレベルで考慮に入れて、素子数を減らすために非球面を追加したり、対
象領域を広げたりするなど、メリットを簡単に追加することができる。その結果、今では熟練したレンズ設計者が熟練した光学部品製造者と緊密に連携して、スマートフォンカメラ、軍用赤外(IR)イメージング、コンピュータのチップ製造、拡張現実/仮想現実(AR/VR)など、さまざまな目的に向けた高精度な光学部品を製造するようになっている。
 一般的な光学設計ソフトウエアパッケージでは、レイトレーシング(スポットダイアグラムを視覚的要素とする)や、波形に基づく物理光学計算(回折パターンを視覚的要素とする)によって、光学システムをモデル化することができる。後者のほうが、必要となる演算量が多い。イメージングレンズ設計ソフトウエアには、非イメージングの光学設計ソフトウエアや統合型CAD/CAMプログラムなど、無数の派生形が存在し、その一部またはすべてが、元のソフトウエアパッケージに組み込まれている場合もある。本稿では、現在商用提供されている、レンズ設計ソフトウエアパッケージをいくつか取り上げ、その背景を少し紹介したいと思う。

高度なレイトレーシング

OSLO(Optics Software for Layout and Optimization:レイアウトと最適化のための光学ソフトウエア)は、米ラムダ・リサーチ・コーポレーション社(Lambda Research Corporation)が開発した光学設計ソフトウエアで、多種多様な光学システムの設計と解析を支援するものである。同社社長のエド・フレニエール氏(Ed Freniere)が説明するように、このプログラムの中核にあるのは、幾何学及び物理光学のモデリング機能を備えるシーケンシャルな光線追跡エンジンである。「OSLOには、
単純なものから複雑なものまで、あらゆるイメージングシステムを設計するための、多数のローカル及びグローバルな最適化手法が含まれている」と、フレニエール氏は述べた。「OSLOには、公差を解析してシミュレーションする機能と、さまざまな表面交差機能を必要とするシステム向けのノンシーケンシャルな光線追跡解析カーネルが組み
込まれている。OSLOはオープンアーキテクチュアで柔軟性が非常に高く、膨大な数の表面タイプと最適化ターゲットを含む。また、データの生成と解析のための高速マクロ言語と完全統合型のコンパイル済みプログラミング言語も備える」。
 フレニエール氏によると、OSLOの基本的な強みは、高度なレイトレーシングにあるという。それは、追跡効率が最重要要件となるズームシステムの設計のカギを握る要素である。例えば、300:1のズームレンズの設計開発において、この機能が重要だったと同氏は付け加えた。OSLOの光線追跡効率は、フォトリソグラフィレンズなど、多数の光線を必要とするシステムの設計と解析にも役立っている。OSLOにはアパーチャ関数が組み込まれており、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope)を含む、セグメントミラーシステムの設計とモデル化に利用されている(図 1)。このソフトウエアパッケージには、座標変換と非球面の機能も、3ミラーアナスチグマートなどの軸外システムや公差解析を格段に簡素化する最適化とともに搭載されていると、フレニエール氏は述べた。

図 1

図 1 ラムダ・リサーチ・コーポレーション社のOSLOは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の設計と解析に用いられた。(画像提供:NASA)

CADの統合

米ゼマックス社(Zemax)が開発した「OpticStudio」は、光学部品、サブアセンブリ、システム全体の解析、設計、最適化、公差解析に用いられている。イメージングと非イメージング(光照射と照明)の両方のシステムのシミュレーションが可能だ。OpticStudioは、システムのモデル化機能を中心に構築されている。システム内の光学部品はシステム内を伝搬する光の波長よりもはるかに大きいので、幾何学的光線として光をモデル化してよいという、幾何学的な光学部品が満たす条件が仮定されている。ただし、(フーリエやホイヘンスの理論に基づく)回折ベースの計算をサポートしており、多くの用途(レーザ走査やファイバ結合など)に対して有効な、(フレネルとフラウンホーファーの原理を用いた)自由空間のコヒーレントな光伝搬のモデル化も可能である。マイクロ光学部品がそれよりも大きなマクロスコピック(巨視的)な光学システムに含まれる場合(ARヘッドセットに含まれる表面レリーフ格子など)の特性評価のサポートも、最近追加されている。
 与えられた設計に対する初期設定と解析以外にも、OpticStudioは、システムのパラメータを最適化して、その設計から最大限の組み立て後性能を引き出すことができる。最近追加された機能によって、表面ジオメトリを記述するために用いられる離散データの最適化も可能になり、フリーフォーム設計の柔軟性がさらに高まっている。組み立て後性能の検証は、堅牢な公差解析によって行われる。摂動がシステム性能に与える影響の特性評価を行うことにより、設計の製造と組み立て時にその摂動を補償することができる。ゼマックス社のエンジニアらによると、製造歩留まりを早い段階で大まかに予測して、設計過程で使用できるようにする機能が、まもなく提供されるという。
 光学設計を終えたら、「Optics Builder」を用いた光学機械パッケージング及びアセンブリのコンピュータ支援設計(Computer Aided Design:CAD)に移ることができる。Optics Builderでは、光学モデルのジオメトリを自動的にCADプラットフォーム上に正確に再現することができる。光学部品はスタティックなCAD部品としてではな
く、ネイティブなCADオブジェクトとして 取 り込 まれ る。現時点で「Solid Works」と「Creo Para metric」のCADプログラムをサポートするこのツールは、OpticStudioで提供されているのと同じ光線追跡エンジンを使用するため、光学機械アセンブリ全体の光学性能をCADで直接解析することも可能である。従って、機械パッケージとアセンブリの影響を、光学機械系を定義したパッケージ内で直接モデル化することができる。システムを製造する準備が整えば、OpticsBuilderは、光学モデルと機械モデルから必要なデータを引き出して、自動的に製造図面を作成する機能も備えている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/024-028_pp_optical_design.pdf