レーザプラズマ加速器:噴霧スプレーを定量的に画像化するための新ツール

ディエゴ・ゲノ、オッレ・ルンド、エドアール・ベロカル

噴霧スプレーによって発生した液滴構造のX線画像と蛍光画像を融合させることにより、燃焼研究に重要な、液体 -気体相転移の物理学をよく理解することができる。

噴霧スプレーは、車両や船舶、航空機などの燃焼エンジンに液体燃料を注入するために広く使われている。液体気体の相転移の物理学を理解することは、汚染物質を大幅に削減し、より効率的で環境にやさしい車両を設計するために非常に重要である。概念実証のレーザプラズマ加速器は、噴霧スプレーの研究において、軟X線吸収と2光子レーザ誘起蛍光(two-photon La serIn duced Fluorescence:2p-LIF)を同時に使用して過渡散乱媒体を視覚化するという、魅力的な新しい手法である。
 同時に撮影した軟X線吸収と2pLIFの画像の融合には、2つの利点がある。1点目は、多重の光散乱によるぼかし効果を最小限に抑えることだ。2点目は、高度に相補的な噴霧の情報を提供できることである。X線吸収は液体の質量分布を定量化できる。一方で、2p-LIF画像は液滴(droplet)、液糸(ligament)及びその他の不規則な液体構造の高コントラスト像を生成する(図 1)。これらのレーザプラズマ加速器によるスナップショット画像は、表示領域が2cm×2cmと比較的大きく、液体噴霧の物理学に対する科学的な理解を拡大させる。

図 1

図 1 X線ラジオグラフィ(a)と2光子蛍光ライトシート(b)のイメージングは、レーザプラズマ加速器を用いて取得された。ここでは、ポート燃料インジェクタが使用されており、注入された液体は、目に見える注入の開始後850μs時点のものである。

スプレーシステムの用途

スプレーシステムは、人の気道への薬剤の噴霧、表面への塗装やコーティング、食品及び製薬業界における噴霧乾燥による粉末の製造、作物への農薬の散布、ウォータージェットカッターを使用した金属の切断、消火、高温環境の冷却、プリンターにおけるインクの注入、やけどの治療における細胞懸濁液の塗布、その他さまざまな場面で使われる。それでもやはり、最も重要なアプリケーションは、燃焼ベースの車両や輸送デバイスにおいて、液体燃料をピストンへ噴射したり、ガスタービン燃焼エンジンへ噴射したりすることにより、必要な機械的パワーを生み出すことだといえる。
 液体燃料は、気体燃料よりも単位体積当たりのエネルギーがはるかに多く、貯蔵や輸送も容易である。しかし、液体燃料の燃焼は、亜酸化窒素、炭化水素、一酸化炭素や二酸化窒素、及びすすなどの汚染物質の主な排出源でもある。大気汚染物質の排出量を削減するということは、より効率的でクリーンな液体燃料駆動の燃料デバイスを開発することを意味する。
 これらの目標を解決するための直接的な方法の1つは、各燃焼装置に対して適切なスプレーシステムを使用することである。すなわち、サイズ、速度、濃度、軌道、そして蒸発状態が望み通りとなる液体が作られるシステムだ。このアプローチは、エタノール混合燃料やバイオディーゼルなど、将来の代替燃料の噴射にも適用できる。このことから、液体燃料の燃焼の改善及び制御のためには、液体の微粒化のプロセスをより深く理解する必要がある。
 スプレーの直接観察は、液滴によって引き起こされる複数の光散乱と、大きな液滴ボディによる屈折及び反射により、大幅に制限される。これらは噴霧スプレーに容易に到達できる定量的情報の量を制限する。言い換えると、噴霧スプレーの散乱特性は、液体の分裂の原因となる複雑な流体機械プロセスを、ぼかして隠す原因となる。
 その他の問題としては、超高速イベントをキャプチャする必要や、スプレーシステムのマイクロメートルからセンチメートルスケールというマルチスケールにわたる特性を管理することが挙げられる。結果的に、噴霧プロセスの定量的情報と、噴霧プロセスの詳細な可視化はまだ十分ではなく、信頼性の高いスプレー形成の予測を行えるような分析モデルと数値モデルの開発の進展を阻んでいる。

X線画像と蛍光画像の融合

複数の光散乱や画像のボケに関する問題を克服するために、ここ20年にわたり、高度な画像技術の実験開発が増加している。複数の光散乱からの寄与を減少させるいくつかの光学的手法は、タイムゲーティング、構造化照明、最近では2p-LIFライトシートイメージングといった、さまざまなフィルタリング手法を使用する。
 光学的に密度の高いスプレーにおける2p-LIF検出の利点は、1光子液体LIFまたは弾性散乱よりはるかに高いコントラストの画像を得られることである。この主な理由は、複数の散乱光子が空間及び時間的に広がり、2つの光子が同時に蛍光トレーサーに吸収される確率が大幅に減少するためである。
 それどころか、照明用ライトシートの焦点が合っている場所では、2p-LIFプロセスの発生する確率が最も高く、カメラの被写体の物体表面でのみ生成される信号が提供される。その結果、ライトシート2p-LIFは、液体本体の非常に正確な画像を提供し、ボイド構造を明らかにする。従って、2p-LIFライトシートイメージングは、従来のイメージング手法では見えない小さな液滴や、小さな液体要素の詳細な情報を提供できる。
 複数の光散乱の発生を抑制するための別の解決策は、X線を使用することである。注入された例えば水のような液体におけるX線の屈折率は、可視光とは異なり、キロ電子ボルトの範囲の光子において1近くになり、一方で吸収は大幅に増加する。従って、X線ラジオグラフィにおける信号は、主に散乱ではなく吸収によるものになる。このアプローチは、大きく不規則な液体構造がまだ存在し、液体の密度が最も高いノズル付近の領域において、液体の質量分布を測定する場面で、もっとも信頼性が高くなる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/018-021_ft_image_fusion.pdf