軸外しELTミラーの試作を加速するインダストリー4.0の技術

インダストリー 4.0は、ワイヤレスでクラウドベースの製造技術を表すキャッチコピーだ。それは産業の近代化における次なる波だといわれている。インダストリー 4.0の要素は、データを保
存したり処理したりする「クラウド」ベース、工場内の地点やデバイス間の無線通信(モノのインターネット:IoT)、統計学的設計と分析であり、これらすべてはコンピュータとロボットを製造工程に緊密に統合させる。
 精密光学産業界は、すでにこの用語を使用せずに、インダストリー 4.0の技術を使い始めている。インダストリー 4.0技術の開発者は、自分たちがこの分野で苦労して獲得した専門知識を、商業光学に応用される分野で共有することを望んではいないかもしれないが、その一方で、巨大かつ一度限りの光学プロジェクトとなると話は別である。
 このような話で特に注目されているプロジェクトが、39.3メートル径の欧州超大型望遠鏡(European Extremely Large Telescope:E-ELT)である。E-ELTは2025年までにチリのアタカマ砂漠に完成する予定だ。この可視光・近赤外光の超大型望遠鏡は、サイズが約1.45m、表面粗さRMSは10nmの軸外し放物面を持つ798枚もの六角形のセグメントミラーで構成される。
 台湾の国家中山科学研究院システム製造センター(System Manufacturing Center at the National Chung-Shan Institute of Science & Technology)、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)、英ハダーズフィールド大超精密表面研究所( Laboratory for Ultra Precision Surfaces at the University of Huddersfield)の研究者たちと英ジーコ社(Zeeko)は、ヨーロッパ南天天文台(European Southern Observatory:ESO)と契約を結び、ELT用のセグメントミラーの試作品を製造することになったが、望遠鏡の主鏡のエッジ付近のセグメントミラーはすべて軸外しだった(1)。
 コンピュータ数値制御(ComputerNumerical-Control:CNC)による研削(grinding)と研磨(polishing)によって製作は行われたが、研磨の前にジーコ社によって開発されたプリセッション(Precession)と呼ばれる工程があった。巨大非球面表面を製造する際にときどき起きることだが、エンジニアは研削中に中空間周波数(Mid-Spatial Frequency:MSF)が発生すことを発見した。これは研削工程中に、特に0.02 ~ 1mm-1の範囲で発生し、研磨の工程で取り除くことは難しかった。この問題に対応すべく、彼らは「グロリッシュ(grolishing)」という工程を研削と研磨の間に加えた。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/008-009_aspheres.pdf