5G—光学部品は5Gネットワークに欠かせない存在に

ジェフ・ヘクト

5Gに関する話題と言えば、ワイヤレスと無線技術が中心だが、フォトニクスや光ファイバは、ユーザーにサービスを提供する新世代の基地局との間の信号伝送を支えるという、重要な役割を担う。

第5世代(5G)携帯端末として最初の製品が発表されたのは2019年だが、5G技術が完全に展開されるまでには多くの年月がかかる見込みである。現在の計画としては、モノのインターネット(Internet of Things:IoT)や自動運転車に代表される、まだ初期段階にある他の技術に対する接続の提供などがある。5Gは、標準規格として完全に定義されているわけではなく、進行中の取り組みという状態にある。ミリ秒の遅延や99.9999%の信頼性などが目標として掲げられているが、現時点では達成可能というよりは野心的な目標のように思われる。それでも5Gは、通信の未来を具現化しつつある。
 5Gの説明のほとんどが、ワイヤレスやモバイルという単語で占められている。しかし、光学部品はネットワークのデータ伝送バックボーンに残り、海底及び地上ケーブル、データセンター、ワイヤレストランスミッタから建物まで敷設された伝送線に組み込まれる。5Gによって、欧州や北米では光ファイバが家庭まで敷設されるようになるかもしれない。これらの地域では、光ファイバの利用率がわずか15%にとどまっており(ただし光ファイバが敷設されている家庭は約40%にのぼる)、韓国で80%、シンガポールで90%とい
う加入率と比べると、大きく引き離された状態にある。

5Gの目標

5Gの3大主要目標は、以下のとおりである。
 モバイルブロードバンドの高度化(enhanced Mobile Broadband:eMBB):10Gbps以上のピークデータレートの提供。これは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)や「超高密度」動画といった新興技術とともに言及されることが多いが、実際には、顧客が求めるすべての情報に対応する帯域幅を提供することを意味する。それには、昔ながらの音声通話やテキストメッセージから、テレワーク接続、ゲーム機、壁サイズでハイダイナミックレンジ(HDR)のビデオスクリーン、高精細で高性能なパーソナルビデオやオーデ
ィオに至るまでのすべてが含まれる。これは、強化されたインターネットと考えることができる。「モバイル」と名付けられるかもしれないが、実際には固定ブロードバンドも提供する。
 高信頼・低遅延通信(Ultra-Reliable and Low Latency Communications:URLLC):99.9999%の信頼性とミリ秒レベルの遅延を実現するサービス。どちらも、自動運転車とその周囲にあるものすべて(他の車両、自転車、歩行者、建設現場、木など)の追跡と制御に必要である。信頼性と迅速な応答は、家庭用医療機器などの他のデバイ
スに対しても不可欠な要素となる。
 大規模マシンタイプ通信(massive Machine Type Communication:mMTC):多種多様かつ大量のデバイスで構成されるIoT内のデータ伝送。1km2あたりのデバイス数は、数十万台にまで急増すると予想されている。多くの家庭で、サーモスタット、セキュリティカメラ、医療機器が既に接続されているが、より多くのデバイスが人間の介入なく絶えず互いに通信する状態を想定して、計画が進められている。
 そのすべてが将来的に実現される。5G対応スマートフォンが2019年から販売開始されているが、帯域幅を飛躍的に拡大するだけのトランスミッタが実装されるまでには数年を要する。完全自動運転車やVRといった潜在的応用分野は、当初の計画よりも遅れた状態にある。しかし、これらの応用分野が結局軌道に乗らなかったとしても、動画配信の増加や画面解像度の向上といった既存のトレンドに対応するために、さらなる容量が必要になる見込みである。

モバイルブロードバンドの周波数帯

5Gでは、新しい技術と、モバイル通信専用の無線周波数帯の拡大によって、帯域幅が拡大される予定である。周波数帯ごとに対象用途は異なる。以前はブロードバンドテレビや初期の携帯電話に占有されていた1GHz以下の周波数帯は、IoTからの低速データレート向けに、広域をカバーする代わりに限られた帯域幅を提供する。1 ~6GHzの周波数帯は、衛星リンク、携帯電話、WiFiなどの用途を対象に、より広い帯域幅を提供するが、周波数が高いほど通信距離は短くなる。つまり、2.5GHzのWiFiのほうが5GHzのWiFiよりも通信距離は長い。帯域幅の増加に主につながるのは6GHz以上の新しい周波数帯で、米国では、27.5 ~28.35GHz、37 ~ 40GHz、64 ~ 71GHzが使用される。これらの高い周波数帯は、帯域幅は広いが通信距離がさらに限られるため、トランスミッタをユーザーの近くに配置する必要がある。ゲームや高解像度ビデオが、主な用途になると予想されている。
 今日のセルラーネットワークでは、一般的に2 ~ 50kmの間隔でセルが配置される。地方に行くほどその間隔は広くなる。都市部では高い人口密度に対応するために、0.4 ~ 4kmのエリアをカバーするマイクロセルが使用される。28GHz帯では伝送損失がはるかに高くなるため、5Gでは、マイクロセルに加えて、それよりも小さな数十mのエリアをカバーするピコセルと、カバーエリアはほぼ同じだがそれよりも消費電力が低いフェムトセルが使用される。これにより、多くのエリアで家庭から数軒の範囲内にアンテナが設置されることになる。
 これらのセルのすべてに、一般的には多数の基地局からの信号を接続する中央局を介した、ネットワークへのバックホール接続が必要である。2015年の時点で、セルラーバックホールの約90%が銅ケーブル、6%が固定ワイヤレスマイクロ波、4%がファイバで接続されていた。さらなる帯域幅が求められる5Gに銅ケーブルは適さないため、その構成には変化が生じている。図1は、新しいネットワークを簡素化して示したものである。28GHz帯のスモールセルは、ブロードバンド信号を短距離内で分配し、ラージセルは6GHz以下の周波数帯でより広いエリアをカバーする。アンテナまたは基地局に到達したワイヤレス信号は、ファイバなどのリンクを介して、無線またはデジタル形式で中央局まで伝送される。中央局の装置によって、無線信号のデコードやその他の処理が行われる。低遅延が求められる信号は、ローカルデータセンターに転送され、それ以外は、リモートデータセンターやネットワークコアにおける他の宛先に転送される。データのほとんどがファイバによって伝送されるが、固定ワイヤレスマイクロ波やフリースペースレーザリンクが使われるケースもある。以下で説明するように、これらのシステムは現在開発段階にあり、何を選択するかは、コスト/性能面のメリットに依存する。

図1

図1 5Gネットワークの簡素化された概念図。28GHz帯で動作するスモールセルは、ギガビットレートのブロードバンドサービスをローカルな目的地まで伝送する。ラージセルは6GHz以下の周波数帯でより広いエリアをカバーする。アンテナはワイヤレス信号を受信し、ケーブルまたは固定ワイヤレスリンクを介して中央局に送信する。中央局では、さらなる処理と転送が行われる。低遅延が求められるサービスは、ローカルデータセンターに転送され、それ以外は、大規模なリモートデータセンターで処理される。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/32-35_ft_future_photonics.pdf