機械学習は、内部閉じ込め融合を点火するコンピュータモデルを改善できるか

ジェフ・ヘクト

ロチェスター大のOMEGAレーザに適用された機械学習が核融合収率を強化した 。同じことは国立点火施設(NIF)でも起こり得る。

レーザ核融合の研究者は、慣性核融合(ICF)の標的内破の最適化に必要なレーザパルス特性と標的設計の組合せを探すために機械学習に頼った。これは、核融合プラズマを点火する意欲的な目標を満たそうと努力するプログラムにとって重要な強化となる。その目標は、ICFエネルギー生産にとって重要な到達点である。
 1960年にさかのぼると、コンピュータモデルは、重水素と三重水素を含むターゲットの内破が、核融合に必要な高温と高圧を一時的に作れると予測していた。 ICFは、熱核兵器の物理学シミュレーションと融合エネルギーの磁気閉じ込めの代替としても魅力的に見えた。最大のプログラムを擁していた米国は、一連の大型コンピュータモデルと実験用レーザを開発した。大部分の資金は、核兵器プログラムが提供した。
 この取組のために構築された最新にして最大のレーザは、米ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)の国立点火施設(NIF)である。 2009年に開始になったとき、それは、当初の計画から数年遅れであり、当初予算に対して数十億ドル少なかったが、2012年までに核融合プラズマを点火するのが目標だった。レーザは、コンピュータモデルが十分であると予測していた1.8MJパルスを出力したが、目標実験結果は、点火には至らなかった(1)。
 2012年末、NIFショットは、点火の測定基準、ローソン条件の35%に届いたに過ぎなかった、とLLNLのICFプログラムの主席サイエンティスト、オマール・ハリケーン氏(Omar Hurricane)は言っている。同氏によると、NIFは現在、ローソン条件の74%に達している。より簡素な計測基準、中性子収率は、同時期に21倍増加した。2015年、LLNLは核融合で生成されたアルファ粒子が、標的プラズマに必須の熱を送達していると報告した。
 核融合エネルギー収率は、この数年で大幅に増加した(図1)。2018年6月、LLNLは、2014年に達成された記録を破ったと報告した。核エネルギーの収率を54kJ、1.9×1016に押し上げた。これは、ターゲットの内破に必要だった運動エネルギー 21kJの2倍以上である(2)。ショットは、間接駆動核融合を利用した、入力レーザパルスがいわゆる「空洞」(両端が開いていてレーザビームが通過するようになっている円筒コンテナ)を照射するプロセスである。これによりエネルギーをターゲットに移送する(図2)。間接駆動は、レーザパルスをターゲットに直接集光するよりも均一にターゲットを照射するので、面倒なプラズマの不安定性を低減する。しかし、1.5MJのレーザエネルギーが空洞を加熱するので、エネルギー効率を犠牲にすることになる。究極の目標は、正味のエネルギー利得である。つまり、核融合プロセスを起こすのに必要なよりも多くのエネルギーを融合から生み出すことである。
 点火は、しばらくは達成されないように見えた。 2016年、調査委員会は、「現在、NIFで点火を保証する既知の構成、特別なターゲット設計、もしくはアプローチはない」と報告した(3)。米国エネルギー省(DOE)は、NIFの時間を他の実験に多くシフトした。また、NIFによる点火の見通し決定の目標を会計年2020にずらした。国家核安全保障局(NNSA)に委託された調査委員会が、すでにラボの訪問を始めており、会計年2020末までに提言を伝えることになっている(4)。2018年、同局は点火目標を会計年2025年にずらした(5)。

図1

図1 NIF実験における核融合収率を示した 。カプセルタイプはプラスチック(CH)、ベリリウム(Be)、または高密度炭素(HDC)。パルスは、いわゆるローフッ(LF)、ハイフット(HF)、またはビッグフット(BF)。LGFは、カプセル内の低ガス充填を示している 。記録的な結果は、HDCカプセルとBFパルスの組合せによるものであった 。

図2

図2 レーザパルスが両端が開いた円筒形空洞に入り、金属壁に当たると、X線が出る。これが、中央の極低温水素ターゲットを均一に加熱し、圧縮する。(提供:LLNL)

OMEGAにおける機械学習

現在、別の場所で機械学習が、より簡素なダイレクト駆動アプローチの融合収率を3倍にした。これは米ロチェスター大、30kJ OMEGAレーザで研究されているアプローチである。同大のバルカス・ゴパラワミ氏(Varchas Gopalaswamy) とリカルド・ベッティ氏(Riccardo Betti)のチームが、簡素な一次元モデルを数十万回走らせ、各ラン毎にパルス形状とターゲット構造の値をランダムに変えた。図3は、2つの例を示している。次に、ターゲットショットの新しいラウンドに最良の設計を選ぶために、シミュレートした結果と、固体重水素-三重水素ターゲットを使用したOMEGAショットの実際の結果を比較した。シミュレーションと実験結果を結びつけることで、ゴパラワミ氏によると、研究者は、機械設計されたターゲットに徐々に近づいた。これは、前の最高OMEGAショットのニュートロン収率を3倍増やした(6)。
 「(ICFで)探求できるパラメータ空間は計り知れない」とベッティ氏は言う。数十万回の簡単なテストが行われ、OMEGA成果の保存記録に対抗させる豊富なデータが得られたからである。それは、設計を改善する確率を増やした。そのテストをNIFの1.8mJエネルギーに拡張することで、ロチェスター大のチームは、新技術が500kJ溶融エネルギーを生成できる設計を作れると予測した。しかし、NIF用の間接駆動を使うのではなく溶融を直接駆動するパルスを使う時にのみである。
 「Nature論文は、大きな前進である」とその研究には関わっていない、米SLAC国立研究所のジークフリート・グレンツァ氏(Siegfried Glenzer)は言う。その新しい洞察まで、停滞期に続いて、一連の大きな段階として、同氏はレーザ融合の開発を捕らえている。ロチェスター大の機械学習技術は、そのよう大きなステップであり、複雑な従来のモデルを悩ましていた非線形性と不安定性を回避する可能性がある。同氏によると、その2つのタイプのターゲットショットは、直接駆動ショットとともにNIFの間接駆動ショットの収率を改善する新技術にとっては、同等である。

図3

図3 融合ターゲット(a)の横断面とターゲットショット(b)の時間プロファイルをコンピュータ「ショット」ではランダムに変えた。これは、OMEGAレーザ実験結果と比較したものである 。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/28-30_machine_learning.pdf