小型衛星同士と地球までの間をつなぐレーザリンク

ジェフ・ヘクト

レーザによって小型衛星間を接続するには、まだ多くの課題を克服しなければならないが、その取り組みは進歩している。

初めての長距離海底光ファイバケーブルによって、遅延の低下と帯域幅の増加が実現され、それまで対地同期衛星を経由して伝送されていた国際通信トラフィックが、地球上で伝送されるようになったのは、30年前のことである。現在、小型衛星のコンステレーションを低地球軌道に打ち上げることによって、再び宇宙で通信を行い、さらなる遅延の低下と帯域幅の増加によって、ブロードバンドインターネットサービスが利用できない約半数の世界人口にインターネット接続を提供することが、計画されている。それらの衛星間のレーザリンクは、このシステムのバックボーンを形成する(図 1)。
 宇宙におけるレーザ通信という概念は、1960年にレーザが誕生し、セオドア・メイマン氏(Theodore Maiman)が潜在的用途としてそれを提案したときにさかのぼる。しかし、最初の衛星間レーザリンクが、低地球軌道上の2つの衛星(欧州のレーダー衛生Terra SAR-Xと米軍の衛星Near Field Infrared Expe riment[NFIRE])の間でよう
やく実証されたのは、2008年のことだったと、独テサット・スペースコム社(Tesat Spacecomm)のレーザ通信システム担当製品マネージャーを務めるフィリップ・ビラー氏(Philipp Biller)は述べた。テサット社が供給したレーザターミナルは、平均で25秒未満で、互いにロックオンして5.6Gbpsの速度で双方向に伝送を開始することができ
たという。テスト実行は、2基の宇宙船が互いの見通し線上にある限り、平均で約20分間継続し、その間、両者の間のレーザリンクは約80°回転した。実験は数カ月間続けられ、符号誤り率(BER)は、最大8000kmの距離で10〜8未満だった。
 NASAは2013年、LLCD(Lunar Laser Communication Demon stration)によって月からのデータを622Mbpsで送信し、深宇宙における初のレーザリンクを実証したことで、大きく報道された。それは、無線波で可能なデータ速度として大きな進歩だった。
 最初の商用レーザ衛星間リンクである蘭仏エアバス社(Airbus)の「Space DataHighway」は、2016年に運用を開始した。テサット社のレーザ通信ターミナルを使用して、低地球軌道上の4基の衛星によって収集された優先度の高い画像データを、地上に無線伝送するための対地同期軌道上の中継装置に、最大1.8Gbpsの速度で送信する。低衛星軌道内の高速レーザアップリンクは、対地同期衛星を追尾するため、画像をすばやく中継することができ、地上局に引き渡すために待つ必要がない。続いて同期軌道では、高速マイクロ波リンクによって、画像を地上のクラウドサーバーに中継することができる。2019年には2基目の対地同期衛星が追加され、中継速度が向上した。
 一方、宇宙におけるレーザ通信をめぐっては、飛躍的な新しいビジョンが出現している。レーザでリンクされた低地球軌道衛星を使用して、光ファイバケーブル網が敷設されていない地域にブロードバンドインターネットなどのサービスを提供しようというものである。主に2つの要因によってそのトレンドが推進されていると、米MITリンカーン研
究所(MIT Lincoln Labo ratory)のティム・ヤーナル氏(Tim Yarnall)は指摘し、次のように述べた。「米スペースX社(SpaceX)が打ち上げサービス業界に破壊をもたらし、はるかに安価に低地球軌道にアクセスできるようになった。また、小型衛星開発の推進に伴い、低地球軌道で動作するシステムの構築に必要なすべての要素を開発するベンダー基盤が形成された」。

図 1

図 1 低地球軌道上の衛星間をつなぐレーザリンクは、地球までの無線リンクとともに世界ワイヤレスネットワークのバックボーンを形成する。(提供:マイナリック社)

数千の衛星で構成されるコンステレーション

数百または数千の小型衛星を地上300 〜 2000kmの軌道で運用し、任意の時点で少なくとも1つの衛星が上空で必ず稼働している状態を維持するというのが、その概念である。衛星は、衝突を避けるために異なる高度と位置に配置された複数の軌道上で、地球の周りを周回する。各周回軌道上の衛星は等間隔に配置されるため、常に1つ、または2つの隣接する衛星が、レーザリンクの視野内にある状態になる(図 2)。個々の地上局は、上空を通過する衛星と接続して信号を送信し、その衛星が範囲外に移動すると、それと同じ軌道上の次の衛星に接続を切り替える。宇宙に送信された信号は、一連の衛星間リンクを介して、目的地の上空を通過する衛星まで中継され、その衛星からその場所の地上局に届けられる。
 地上局と衛星の間は、雲や降雨によって大気中の光信号が遮られる恐れがあるため、おそらくマイクロ波リンクが採用される。衛星間にマイクロ波リンクを用いる構想も提案されている。しかし、大気圏外の衛星間リンクに対し、レーザリンクには無線周波数を上回る重要なメリットがある。つまり、伝送帯域幅が広く、受信機が小さく、ビームの集束性が高いのでセキュリティが高いことだ。光帯域における最大の課題は、コンステレーション全体が宇宙空間を移動し、各衛星に最も近い衛星が変わり続ける中で、隣接する衛星の間のレーザ接続を維持しなければならないことである。
 この計画により、今日の衛星電話システムの限られた帯域幅が飛躍的に拡大される予定で、既存のケーブルによって十分なサービスが提供されていない広い地域(アフリカのほぼ全域、中央アジア、北極圏、米国中部の農村地域)に、ブロードバンドサービスを提供したいと考える企業から広く関心を集めている。米フェイスブック社(Facebook)は当初、高空飛行ドローンからの伝送を提案していたが、現在は衛星を検討している。米グーグル社(Google)の「Project Loon」は、気球を18 〜 25kmの高度に配置するもので、ケニアの通信事業者であるTelkom Kenyaと農村地域にサービスを提供する契約を交わしている。数百または数千の低軌道衛星群は、はるかに広い地域を網羅できる可能性があり、遅延も0.25秒という対地同期軌道までの往復時間よりもはるかに低くなる見込みである。
 米アマゾン社(Amazon)、米ボーイング社(Boeing)、スペースX社が、数千基の小型低軌道衛星に関する計画を発表しており、フェイスブック社もこれに関心を示している。2019年5月初頭のAviation Week誌の集計によると、32の企業によって合計1万3529基の小型通信衛星を低地球軌道に打ち上げる計画が提案されているという。その時点では、軌道上の実験衛星はわずか数基だったが、2019年5月23日にスペースX社が「Starlink」システム用の60基の実験衛星を打ち上げ、その後3回の打ち上げでさらに衛星を追加した。これらの衛星には、最終システムで予定されているレーザ送信機が搭載されていないが、内蔵エンジンによって440kmの切り離し地点から550kmの最終軌道までの移動に成功している。はるかに多くの衛星が打ち上げられる予定で、スペースX社は現在、当初計画していた4400基に約7500基を追加すると語っている。そうなれば、Starlinkコンステレーションを構成する衛星は、合計1万2000基弱となる。

図2

図2 低軌道衛星は、世界中に信号を中継できるように、等間隔に配置される。7 ~ 9基の衛星が配備された軌道上で、1つ前と1つ後の衛星が常に視野内に存在する。10 ~ 14基の衛星からなる軌道は、冗長性を持たせることが可能である。その場合は、各衛星を常に前 2つと後 2つの衛星にリンク可能とすることで、1基の衛星が故障してもリンクが途切れないようにする。(提供:MITリンカーン研究所のティム・ヤーナル氏)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/24-27_ft_free-space.pdf