高パルスエネルギーのファイバレーザ、ライダやセンシングに対する目に優しいレーザ源に

ジホン・ジェング、シビーン・ジャン、アンソニー・W・ユ

エルビウム添加の特殊な光ファイバは、1550nm周辺の目に優しい波長域で、1mJ以上、ライダ対応、変換限界線幅のレーザパルスを実現するための重要な役割を担うことができる。

ファイバレーザは、連続波(CW)モードと小型パッケージで、数kWの平均出力レベルを確実に達成し、産業や軍事分野における適用可能範囲を拡大している(1)。しかし、パルスファイバレーザは多くの実用的な用途において、CWファイバレーザと同等の評価は受けていない。端的に言って、十分に高エネルギーで高ピーク出力の短い光パルスを供給することができれば、その潜在能力は大幅に向上するはずである。
 そのようなパルスの重要な応用分野の1つが、風計測、化学物質のリモートセンシングを行うためのレーザ分光法、目標測距または識別に用いられるコヒーレントライダである。コヒーレントライダには、パルス幅が比較的長い(数百ns)変換限界線幅のレーザパルスと、ほぼ回折限界のレーザビームにおける高いパルスエネルギーが必要である。
 コンパクトで堅牢で柔軟なパルス調整が可能という点において、ファイバベースのパルスレーザは、地上または空中でフィールド実装されるコヒーレントライダシステムに搭載する上で、フリースペースオプティクスよりもはるかに望ましい。それらのメリットは、ファイバレーザのオールファイバのモノリシック設計に起因している。主発振器出力増幅器(Master Oscillator Power Amplifier:MOPA)構成において、ファイバ結合のシードレーザが、用途に合わせて適切に調整されたレーザパルスフォーマットを提供し、ファイバ増幅器チェーンが、必要なレーザエネルギーを提供する。
 類似のファイバベースのパルスMOPAプラットフォームを、シードレーザのフォーマットを変えることにより、コヒーレントライダまたはダイレクトToF(Time of Flight)ライダに使用することができる。コヒーレントライダの場合、シードレーザは一般的にCWモードで動作し、ファイバピグテール付きの外部振幅変調器(音響光学[AOM]変調器または電気光学[EOM]変調器)との組み合わせによって、コヒーレント検出のための変換限界線幅のレーザパルス(パルス幅は数百ns)を生成する。ToFライダの場合は、直接変調レーザダイオードによって、直接検出のための非常に短いシードレーザパルス(<5ns)を供給することができる。
 しかし、そうした顕著なメリットがあるにもかかわらず、モノリシック型 パルスファイバレーザをライダに採用することを阻む最大の障害は、それらのレーザ源の中心にある光ファイバか らの非線形効果に起因する、パルスエ ネルギーとピーク出力の限界である。
 ファイバレーザのパルス出力の増加商用化されている高出力パルスファイ バレーザ/増幅器は一般的に、シリカ ガラスをベースとする、ファイバ長が 数メートルのステップインデックス (SI)型、ラージモードエリア(LMA) のゲインファイバを、最終段のファイ バ出力増幅器に使用することにより、 所望の出力パルスエネルギーを生成す る。残念ながら、この長さ数メートルの最終段ゲインファイバの誘導ブリルアン散乱(Stimulated Brillouin Scattering:SBS)効果によって、変換限界線幅のレーザパルス(パルス幅は 100ns程度)の最大出力エネルギーが、ある程度のビーム品質を維持する場合に、およそ200μJ未満に制約される。
 コア径が非常に大きな(80~100μm) ロッド状のフォトニック結晶ファイバ(Photonic Crystal Fiber:PCF)は、最 大パルスエネルギーをmJレベルまで高 められる可能性が実証されているが、 PCFは、商用パルスファイバレーザシ ステムにおいて広く受け入れられてはいない(2)。PCFはそもそも、その脆弱なフリースペース信号/励起光結合要件により、固体コアファイバが備える堅牢性とコンパクト性に欠けている。
 米アドバリュー・フォトニクス社(AdValue Photonics)はこの数年間で、パルス幅が数百nsの変換限界線 幅のレーザパルスから、1mJを超えるパルスエネルギーを達成する、プロプライエタリなマルチコンポーネントの ガラスファイバレーザ技術を開発した。複数の波長域(1μm、1.55μm、2μm)でその性能を達成することが実証され ている。また、比較的広いスペクトル 帯域幅を持つオールファイバのレーザ システムによって、ToFライダに有効 である可能性がある、はるかに短いパ ルス幅(2 ~ 5ns)の高いパルスエネル ギーを生成することも可能である(3)。
 アドバリュー・フォトニクス社は、 短いラージモードエリアファイバから 非常に高い光増幅とシングルモード出 力を生成する、希土類イオン添加のシ リケートガラスファイバを量産することにより、この高エネルギーのパルス ファイバレーザを、リモートセンシン グやライダの用途を対象に、産業分野 の企業や政府の研究施設に納入している。このファイバレーザは、ファイバ コア径を拡大し(30 ~ 50μm)、ゲインファイバ長を短縮し(数十cm)、添 加濃度を高くすることによって、非線 形光学効果の発生しきい値を増加させつつ、シングルモード動作を維持する。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/20-23_ft_fiber_lasers.pdf