HPLD製造の課題を解決する、革新的なダイボンダ

リミン・チョウ、ジェイソン・リウ、ユリウス・オルテガ、ジャック・イノセンシオ

チップオンサブマウント(CoS)とバーオンサブマウント(BoS)の両方を、装置を切り替えることなく処理できる柔軟性を備えた、高出力レーザダイオードのパッケージング用ダイボンダを紹介する。

高出力レーザダイオード(High Power Laser Diode:HPLD)は、材料加工に最適な手段として台頭しているファイバレーザの励起源としての需要が高まっていることに主に支えられて、最も成長著しいレーザの一種である。HPLDは、光線力学療法、美容施術、組織手術などの医療分野や、クラッディング(肉盛り)、3Dプリント、切断、溶接といったダイレクトダイオード材料加工において、直接的にも広く用いられている。
 HPLDのもう1つの応用分野は防衛業界で、同業界では、指向性エネルギー兵器によってその成長が促進されている。HPLDは、400 ~ 2000nmという他の種類のレーザでは得られない波長範囲と、1 ~ 300W以上の光出力範囲を備え、最もコンパクトなフットプリントで最も高い電気-光(E-O)変換効率(最大65%)を達成する(1)。シングルエミッタで、0.5×5mmのフットプリントで最大20Wの出力パワーを、確実に供給することができる(2)。
 このように独特の性質を併せ持つことから、HPLDは、その成長を支える幅広い用途に適している。アナリストであるニルシ・ワイジェヤシンギ博士(Nilushi Wijeyasinghe)の レ ポ ー ト「Laser Diodes & Direct Diode Lasers 2019-2029: Technologies, Markets & Forecasts」(レーザダイオード&ダイ
レクトダイオードレーザ2019 ~ 2029:技術、市場、予測)によると、レーザダイオードとダイレクトダイオードレーザの世界市場規模は、2029年までに139億8500万ドルに達するという。レーザダイオードは119億5200万ドル、ダイレクトダイオードレーザは20億3300万ドルをそれぞれ占める。

重要なダイボンディング工程の課題

ダイボンディングは、HPLD製造における最も重要なパッケージング工程である。この工程では、金錫(AuSn)共晶接合プロセスによって、チップまたはバーの形をしたHPLDダイをヒートシンク基板に接合する。ダイとヒートシンクの間は通常、共晶接合技術を用いて、AuSnはんだによって接合される。HPLDダイは、シングルエミッタのチップである場合もあれば、マルチエミッタで構成されるバーレーザのダイである場合もある。どちらの場合も、ダイボンディングは、HPLD製品の光効率とフィールド信頼性の面で、非常に重要な工程である。重要なこの工程の課題としては、精度、共晶品質、ボイド率、共面性、多品種大量生産などが挙げられる。
 HPLDは、チップまたはバーの発光前面とヒートシンク基板端の間に高精度な位置要件がある。通常、チップ接合後は、前面から基板端までに凹部(リセス)がなく、前面の凸部(オーバーハング)は5 ~ 10μm未満でなければならない。この状態を達成するには、ダイボンディング装置の接合後精度は、一般的に±2.5μm未満である必要がある。レーザダイと基板端の許容誤差は、どちらも1μm未満と考えられる。つまり、装置の配置精度は±1.5μm未満でなければならない。
 HPLDチップの出力が増加するにつれて、シングルエミッタチップは長くなり、長さと幅の比が10を超えるチップも存在する。HPLDレーザバーは特に難しい。接合面の面積が大きいことから、ボイド率やバー傾斜角などの接合後特性に不具合があると、それが増幅されてしまうためである。

配置精度1.5μmの高速ダイボンダ

HPLD製造における、このようなダイボンディング工程の課題に対応するには、超高精度かつ高速で柔軟性の高い、完全自動のダイボンディング装置が必要である。装置要件としては、精度が±1.5μm未満であることや、接合力、共晶段階、接合先端のスクラビング(制御された力によるX、Y、Zに沿った小さな動き)がプログラム可能であることなどがある。1.5μmの配置精度を備える完全自動ダイボンダである「MRSI-H-LD」は、そうした要件を理解した上で開発されている。
 HPLDのダイボンディングをターゲットとするMRSI-H-LDダイボンダは、3シグマ(@3σ)で±1.5μmの配置精度を達成し、並列処理によって装置のサイクルタイムが短縮されている。用途に大きく依存するが、1時間あたりのCoSユニット数は、標準値で150を超える。
 リアルタイムでクローズドループの力フィードバック及び調整機能を備えた、プログラム可能なボンディングヘッドにより、III-V族半導体部品に対する繊細な取り扱いが可能である。例えば、部品の種類に応じて力の値をプログラミングすることにより、HPLDメーカーは、各種類の大型高出力レーザダイのピックアンドプレースを、プログラム及び制御された固有の力で、確実に実行することができる。

ボイドレスの共晶プロセス

配置精度に加え、リフロー工程の温度プロファイルは、HPLDのダイボンディング工程において非常に重要である。共晶プロセスでは、熱が効率的かつ均等に放散されるように、ダイとヒートシンク基板の間に、ボイド(空隙)を最小限に抑えた、薄く均一な共晶接合部を生成するために、特別な注意が必要である。これを達成するには、ダイボンディング装置によって、接合領域全体の共晶リフロー温度制御を正確かつ均一に行う必要がある。
 HPLDのダイボンディング工程には、温度が急速に上昇及び低下する、プログラム可能で均一な共晶加熱段階が必要である。また、ドウェル期間の温度は非常に安定していなければならない。加熱段階では、接合面の酸化を防いで、良好なウェッティングと、冷却時のボイドが最小限に抑えられた接合部を達成するための、フォーミングガスカバーも必要である。
 例えば、MRSI-H-LDは、パルスによって高速に加熱する独自の共晶接合段階を備え、フォーミングガスとして、接合面の酸化防止に有効な90 ~ 95%の窒素-水素混合ガスを供給する。共晶接合工程の温度を最小限に抑えるために(一般的には約315℃)、共晶混合物が使用される。加熱段階は最大400℃までプログラム可能で、加工プレートの温度は均一に保たれる。加熱段階は、安定性を長期的に維持するように設計されている。
 独自のプログラマブルなスクラビングは、共面性の問題に対応しており、基板に対して配置する際に、垂直と水平の両方向の力と動きを適用することによって、はんだ接合部のボイドを最小限に抑える。カスタマイズされたXYZ-thetaのライブラリにより、チップやサブマウントの条件が異なっていても共面性が達成され、ほぼボイドフリーのプロセス制御が行われる。

共面性制御

HPLDチップまたはバーとヒートシンク基板の間の共面性は、ボイド率と誘導応力に影響を与える可能性があるため、非常に重要である。共面性の欠如は、HPLD製品の性能と信頼性に影響を及ぼす可能性がある。
 共面性を適切に制御しなければ、接合後の残余応力がバーに蓄積されて、「バースマイル」と一般的に呼ばれるバーの湾曲が生じる可能性がある(3)。また、長いチップは、不均等な熱放散によって、シングルエミッタの長さに沿った熱応力が生成される可能性がある。従って、シングルエミッタチップやレーザバーチップのサイズに応じて、
接合力を変更し、リフロー中の力を正確に制御する必要がある。
 特別に設計されたセルフレベリングツールにより、接合力の均一性を高め、空気を強制的に追い出してボイドを低減することができる。ダイ表面全体にわたって均等な接合力を適用することにより、高いダイせん断強度を備え、共面性が改善された、ほぼボイドフリーの共晶接合が達成される。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/12-15_ft_high-power.pdf