産業応用キロワットパワーの超短パルスレーザ光源

ディーター・ホフマン、イェンス・リンパート、アンドレアス・ソス

ピコ秒及びフェムト秒レーザ光源と加工技術を10kW超に拡大。

モバイル機器のガラススクライビングアプリケーションで早期に広く利用されたことから、ピコ秒、フェムト秒の範囲でも、短バルス(USP)レーザは、10年以上前から利用できるようになっている。スプラッタや熱副作用なく、ミクロン精度で多くの材料を加工する能力は、産業USPレーザで潜在的なアプリケーション範囲拡大に有望である。しかし、採算に乗るスループットを達成するために、高繰り返しレートやハイパワーを必要とするアプリケーションでのUSPレーザの利用には限界があった。
 問題は、市場にある少数のUSPレーザ光源は150W、150μJ/パルスを超えるかもしれないが、ほとんどがそれ以下であるという点にある。たとえ強力な光源が利用できるとしても、付加的パワーの利用は難しい。超短パルスは、多くが一点に集束しすぎるときに「コールドアブレーション」能力を失うからである(1)。
 この問題を理解した独フラウンホーファー研究機構は、USPレーザに大きな機会があると認定し、そのような新世代システムを開発するために同研究所の少なくとも13名の専門家を結集した。The Fraunhofer Cluster of Excellence Advanced Photon Sources(CAPS)は、USPレーザパワーの限界を克服するだけでなく、パルス生成からプロセス技術、実世界のアプリケーションまでのプロセスチェーンに沿った技術も開発する計画である。

キロワット出力に拡大

CAPSプロジェクトは、フラウンホーファーレーザ技術研究所(フラウンホーファー ILT)とフラウンホーファー応用光学・精密機械工学研究所(フラウンホーファー IOF)が管理する。両研究所は、アプリケーション研究所を提供しており、また両ファシリティではレーザ光源とアプリケーションテストの並行開発が可能である。フラウンホーファー ILTのサイトは、2019年9月に開設、またフラウンホーファーIOFのサイトは、2020年早期に運営を始める。
 パワーをスループットに変換する問題は、USPレーザシステムにとっては新たなプロセス技術が必要になる。これは、高繰り返しレートと高パルスエネルギーでのレーザと物質との相互作
用について基礎研究から始まる(1)。もう1つの課題は、出力分布である。高エネルギーパルスの1つの概念は、ビームを多数の並行ビームレットに分けることに関わる(2)。多数の同じようなビームレットによって、並行加工が可能になり、周期的構造のパターン加工が可能になる。これにより、大幅な生産性上昇が実現される可能性がある。
 別のアプローチは、音響光学変調器をビームレットに構築し、個々のビームレットをON/OFFすることで実現できる、ある種のレーザマトリクスプリンターを生み出すことに関与する。第3の極めて柔軟なバージョンでは、ビームレットは、液晶変調器を通して送り出される。これは、元のビームから、ほとんどどんなパターン、ビーム特性でも生成できる。
 これらのかなり高機能のソリューションは、より従来型の高速スキャナ技術と並行して開発されている。そのようなポリゴンスキャナは、CAPS内に適用され、スキャナ速度>300m/sを達成する。効率的なスキャニング戦略の開発のために、プロジェクトは、レーザ吸収及び吸収後の物理的プロセスの詳細なシミュレーションのためにソフトウエアを利用する。フラウンホーファー ILTのこのツールで、熱効果を研究し、加工パターンをテストすることができる。

スラブコンセプト

ハイパワー超短レーザパルス実現の1つのカギは、適切な増幅スキームの発見である。最近のIndustrial Laser Solutionsの記事は、100W以上にアップスケールする技術を詳説しており、その記事は、ファイバとスラブ/ロッドコンセプトを考察している。CAPSプロジェクトの研究者は、実質的に10kW平均パワーへの前進を可能にするような非常に特殊な進歩を伴う概念も実行に移す。1つは、ファイバ増幅器とのコヒーレント結合であり、もう1つは特殊なダイオード励起スラブを使う。
 スラブレーザシステムは、1966年にケミン・デュ氏(Keming Du)とピーター・ルースン氏(Peter Loosen)が特許を取得したInnoslabコンセプトに基づいている。その時、ケミン氏はフラウンホーファー ILTで働いていた。わずか5年後、同氏はそのアイデアを商用利用するために独エッジウェーブ社(EdgeWave)を設立した。フラウンホーファー ILTでは、Innoslabコンセプトは、さらに改善され、今日では、キロワットクラスUSPレーザ増幅器に適用されている(3)。これらの成果に基づいて、 もう1つのスピンオフ企業、AMPHOS社が設立された。
 Innoslabレーザの共振器セットアップは、2つのヒートシンク間の長方形の結晶をベースにしている。これは、コリメートされたレーザダイオードで長軸方向に励起されている(図1)。最初は、その設計はNd:YVO4及びNd:YAGレーザ結晶励起の連続波(CW)で開発された。異なる目的でいくつかの結晶材料の実証が行われ、サブピコ秒パルス幅の短パルスシステムには、
Ybドープ結晶が最適であることが分かった。

図 1

図 1 500WクラスInnos lab増幅器は7パス構成で利得=53(上)、500Wクラス、シングルパスInnoslabパワーブースタは利得=2(下)を示している。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/04/032-035_ft_ultrashort-pulse.pdf