2019年Laser Focus Worldのトップ20フォトニクス技術

ジョン・ウォレス

2019年、フォトニクスにおける幅広い進歩には、精密製造と計測、バイオセンシングとイメージング及びAIの利用が含まれている。

人が物理学、工学あるいは他の技術問題にアプローチする時、分析的ソリューション(数学方程式の形式)を開発できれば慣例上、大満足である。数学による理解と予測能力は、問題と解の両方が十分に理解されたことを示しているからである。アインシュタインの一般相対性理論(general theory of relativity)は、正にこのアプローチの成功例の1つである。もちろん、多くの問題は、この方法では部分的に解けるか、あるいは全く解けないことがあり、従って実験データへのフィッティングカーブや他の実証的アプローチが重要になる。しかし、全般的に、そうした取り組みは人が深いレベルで問題を理解することに発展する。
 何年も実験室で醸成されていた全く異なる問題解決アプローチが、今、商用に向かって進んでいる。人工知能(Artificial Intelligence:AI)、これには機械学習(マシンラーニング)や深層学習(ディープラーニング)のサブセットが含まれる。AIでは、人が理解できない、あるいはとらえることさえできないような巧妙な体系的データパターンや相関関係がコンピュータアルゴリズムによって発見され、望ましい、あるいは望ましくない結果につながっていく。このような巧妙なパターンに基づいたシステムを制御するコンピュータを利用することで人間は、自分たちが望む結果を手にすることができるのである。
 素晴らしいことではないか。唯一の欠陥、それを欠陥と考えない者もいるかもしれないが、それは、あるレベルでは、ショーを運営している人間が、何が起こっているかについて手掛かりを持たないということである。とはいえ、AIは極めて有望である。ますます複雑な形式で、AIは技術領域やコンシューマー領域に組み込まれつつある。2019年 のLaser Focus Worldのヘッドラインは、これを説明している。これに含まれているのは以下のとおりである。「ファイバオプティクス非線形不安定性の大きな波を予測するAI」、「FLIRがCVEDIAに投資し、自律センシングAI専門技術拡大」、「AI推進の顔認証にはまだ技術的、法的課題がある」、「深層学習が機械学習に新たな側面をもたらす」、「NVIDIAがMellanoxを買収してAIとデータセンターコンピューティングソリューションを進める」。
 今年のTech Reviewに選ばれたLaser Focus World記事、上位20の中で、直接AIに関係するものはわずかである。しかし、学術研究機関、産業界、政府のオプティクスとフォトニクスの専門家は、今後AIを利用し新たな用途を見出していく。それにより、大きく、難解な一連のデータから実用的な成果を得るために、その能力が大きく拡大していく。

最先端

1と2
シリコンフォトニクスは、それをより実用的にするために、特に通信用途で、懸命に開発されているが、他の用途でも同様である。

昨年の成果は多く、それには製造のしやすさという画期的な出来事も含まれる。そこでは、米マサチューセッツ工科大のグループをリーダーとする研究者が、オンチップフォトニクスとエレクトロニクスを分けてアセンブリする技術を開発した。これにより、エレクトロニクスで新しいCMOS製造プロセスの利用が可能になる(以前は、オプティクスに適合する旧式のプロセスで造る必要があった)。(参照“シリコンフォトニクス製造は最新のCMOSプロセスを使うようになった” June 2018 issue; http://bit.ly/2019TechRev1.)。また、アバランシュモードLEDとシングルフォトンアバランシュダイオードを含む完全なシリコンベースオンチップ光リンクは、標準CMOS技術で造れ、電子チップに埋込可能であるが、これは蘭トゥウェンテ大のグループが実現した。(参照 “オンチップ光リンクが初めて電子チップ上に実現” February2019 issue; http://bit.ly/2019TechRev2.)


イメージングでのAI利用は、独ライカ社(Leica)が進めている。同社は、Thunder顕微鏡イメージャシリーズを発売した。ここでは、カメラベース蛍光顕微鏡を利用する際、焦点ずれのボヤケを除去するために、いわゆる「コンピューテーショナル・クリアリング」を使う。

同社は、パーソナル自動ラボアシスタント(PAULA)も開発している。これは標本を連続モニタリングすることでとらえた画像を分析し、変化があるときの反応を自動化できる。ライカ社は先頃、AIを使って脊椎動物細胞のタンパク質画像を、細胞小器官に基づいて異なるクラスに分類するコンペを後援している。(参照“AIが科学的イメージングに新たな時代を開く”September 2019 issue; http://bit.ly/2019TechRev3.)


最先端のコンピュータチップを造るための極紫外(EUV)リソグラフィが、製品を持つ企業で真価を発揮しつつある。今年、蘭ASML社が、多くのEUVスキャナを出荷したからである。

この巨大スキャナ用の13.5nm光源は、ASML社の子会社米サイマー社(Cymer)が提供。サイマー社の光源は、独トルンプ社(TRUMPF)の40kW CO2レーザを使用して、スズの液滴を13.5nm発光プラズマに変換する。独ツァイス社(ZEISS)が、これらの装置向けに反射オプティクスを製造している。大型ミラーの表面粗さは、0.1nm(図1)を上回る。(参照 “EUVリソグラフィ再考”Laser Focus World online [Aug. 29, 2019]; http://bit.ly/2019TechRev4.)

図 1

図 1 ASML社のEUVリソグラフィスキャナ内部に13.5nm波長で機能する反射光学系がある。EUV光源は右下、マスクは上方。(画像提供:ASML社)


透過メタサーフェスオプティクスは、(通常)フラット基板上にナノ構造形体のアレイでできている。これが、将来性を見せ始めており、ある時点で、一定のニーズでは、商用化が始まり、従来の光学素子あるいは素子群に取って代わり始める。

米ハーバード大のハーバードジョンA.ポールソン工学・応用科学部(SEAS)、フェデリコ・カパッソ教授(Federico Capasso)のグループは、以前からこの技術のリーダーである。今年、SEASのグループは、非対称ナノフィンでできた全誘電体メタレンズを発表した。これは、ほぼ可視光全域(460 ~ 700nm)で収差なく、無彩色に光を集光する。また、光の両偏光でも同様である(図2)。偏光無依存であるので、このメタサーフェスレンズは、そうでない場合の2倍の光を透過する。(参照“ブロードバンド色収差補正メタレンズは、すべての偏光を集光する”March 2019 issue; http://bit.ly/2019TechRev5.)

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図2 メタレンズ表面に配列されたサブ波長異方性ナノ構造は、偏光に関係なく光を集光し、レンズの効率を2倍にする。(画像提供:Capasso Lab/Harvard SEAS)


試行的テーブルトップレーザベース加速器は、数百メートル長にもなる従来の電界ベースのバージョンよりもはるかにコンパクトである。

究極的には、加速器はチップ上に配置される、これは独ダルムシュタット工科大(TU)の研究者の成果である(図3)。従来の線形加速器と同じアプローチを利用するが、コンセプトは、レーザに対する電子の位相の急激な変化に基づいており、チップ面の2方向で合焦と焦点外れが交替する。これは、わずか420nm幅のチャネル内で電子を集光するために超高速レーザパルスの電磁場そのものを使う二列の微小ポストによるものである。潜在的用途に含まれるのは、研究、X線リソグラフィ、及び腫瘍照射。(参照“レーザベースマイクロチップ粒子加速器は、産業及び医療に有用 ”Laser Focus World online [Nov.26,2018];http://bit.ly/2019TechRev6.)

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図3 このレーザベースマイクロチップ粒子加速器における二列のピラー間の距離は、わずか420nm。(画像提供: Hagen Schmidt/ Andrew Ceballos)

バイオサイエンスと医療


エボラウイルスは、致死性で感染力が強い。効果的に管理するには、検出が早ければ早いほどよい。

米ロチェスター技術研究所(RIT)の研究者は、フィールドでエボラを素早く検出する小型、可搬蛍光ベースの計測器を開発した。血液の小滴を488nmレーザとパラボラミラーベー
スの蛍光光度計で分析すると、結果としての感度は共焦点顕微鏡の感度に匹敵する。テストは、生の血液サンプルを採ってから15分かかる。デバイスは、並行して24患者のスクリーニングを30分以内に実施できる。研究者は、多数のウイルス株を検出する同様の測定器に取り組んでいる。例えば、エボラからインフルエンザやジカ熱。(参照“光学デバイスが、早期エボラ検出にCRISPR-Cas13a 技術を活用” June2019 issue; http://bit.ly/2019TechRev7.)


多くのDNA鑑定法は、DNA増幅というプロセスを必要とするが、そこでは微小DNAサンプルを何度も再生してサンプルサイズを大きくする。先端増強ラマン分光法(TERS)技術は、DNAのシングルストランド(一本鎖)でも、増幅不要で分析できる。この技術は、米テキサスA&M大、米レンスラ―工科大、独フリードリッヒ・シラー大イェーナ校、米ベイラー大の研究者が開発した。

室温TERS法は、貴金属プローブチップの表面プラズモン効果に依存している。プラズモンが励起波長と共鳴すると、ラマン散乱が増え、回折限界を克服できる。DNAシーケンシングは、塩基あたり4秒かかる。(参照“TERSは増幅なしでシングルストランドDNAを撮像” March 2019 issue; http://bit.ly/2019Tech Rev8.)


フォトニクス、コンピューティングパワーと、もちろんAIの進歩により、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の改善が進んでいる。

アルゴリズムにより、コンピュータOCTが、従来のOCTの解像度を劣化させる問題に対処する。これには、被写体深度と横軸分解能の間に特有のトレードオフ、サンプルと参照経路の分散ミスマッチ、オブティクスによる収差が含まれる。例えばOCT組織分析でマシンラーニングを使い、やけどによるヒトの皮膚の損傷を90%の特異度、91.6%の感度で分類する。(参照“OCTにおけるイノベーション”March 2019 issue;http://bit.ly/2019TechRev9.)

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病気、毒、病原体の検出用バイオセンシングは、新しいクラスの蛍光発光生物ナノマテリアルで増強された。これは、量子バイオセンサとして役立つDNA安定化金属粒子クラスタ(OC-DNA)である。

そのバイオセンサは、6から15の金属原子(いわゆる金属クラスタ)を含む短いDNA配列で構成されている。DNA配列の選択が、そのセンサの特性を決める。例えば、それがどの病気を検出できるか。Project BioSensingのパートナー、独フラウンホーファー研究所と蘭ライデン大物理学研究所という2ヶ所の協働で、多くの量子バイオセンサを設計している。研究者は、これらを拡張し、大学病院で実現可能性研究のために準備する計画である。(参照“バイオセンサ改善に有望な量子技術” September 2019 issue; http://bit.ly/2019TechRev10.)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/04/026-030_ft_technology_review.pdf