高速、深部組織イメージングの散乱制御

バーバラ・ゲフベルト

事前に組織散乱を抑えるために 、検出範囲の拡大と再構成計算を組み合わせる新しいアプローチで 、組織深部構造の高品質の広視野画像が可能になる。

組織散乱は、励起光と放出光の両方を曲げることでイメージングを劣化させる(図 1)。生物組織は、不均質媒質であり、ランダムに光を散乱させる(1)。また、強い後方散乱では、励起光は組織に浸透する力が制限される。散乱が少ない状況でさえ、イメージングパフォーマンス、焦点の歪みやクロストークによって劣化する。このため、散乱に対処する目的で多くの方法が提案されてきた。神経科学では、究極目標は、脳深部に高速で、高品質の画像を生成することである。
 中国精華大のリンジエ・コン氏(Lingjie Kong)の研究室は、多くの新しい神経イメージングツールに関わっており、最新のものは、適応補償技術と計算を組み合わせた拡張検出である。他のアプローチと違い、同氏のツールは、動的に組織散乱に対処する包括的方法である。「われわれは適応光学(アダブティブオプティクス)を提案した。励起光に悩まされる散乱を克服するためである。また、再構成計算が放出光の散乱信号を利用できるようにするためである」とコン氏は説明している。
 コン氏は、精密機器学部の准教授であり、2018年にMIT Technology Reviewで“Innovator under 35”として認められた。これは、同氏のチームのシステム開発を対象にしただけでなく、同氏とその同僚が、そのイノベーションを複製し、適用しようとしている世界中の神経科学研究室に提供している支援もたたえられている。

図1 均質媒質からのコリメートビームの光線が散乱組織の中に進む、混濁媒質における光散乱。光は、1 TMFP(平均自由行程)進んだ後、拡散する。蛍光体から出た光の光線が散乱組織に進む様子は(b)に示した。(提供:リンジエ・コン氏)

顕微鏡からスタート

パッシブアプローチ、レーザスキャニング共焦点顕微鏡は、ピンホールを使って空間的に散乱放出光をフィルタリングすることで深度を強化する。散乱を減らすより動的で直接的な方法は、長波長の光を使うことである。レイリー散乱が、波長の4乗として反比例変化することを考慮する。多光子顕微鏡(MPM)では、近赤外光を使い、非線形光学効果に基づいて信号を励起する。これが散乱を弱める。非線形効果は、局所的励起を確実にする。従って、非デスキャン検出における発光のクロストークをなくする。しかし、多次元レーザスキャニングの必要性がイメージング速度を遅くする。
 ラインスキャニング時間集光顕微鏡(LTFM)は有望である。強い軸閉じ込めを維持しながら高速イメージングができるからである(2)。LTFMでは、励起光は、軸に沿って空間的に集光する、一方パルス分散は他の軸に沿って変調される。これには「時間集光」原理を使って、深さ解像度を保証する。点スキャニングと比較すると、ラインスキャニングは、イメージング速度を1ケタ以上改善できる(3)。とはいえ、最大深度を達成するには、LTFMにおける組織散乱は、制御されなければならない。

励起光

励起光の組織散乱は、MPMでは焦点歪、励起効率低下に、また光学分解能やイメージング深度低減になる。適応光学(AO)は、こうした制約への対処に役立つ。AOでは、サンプル誘起波面歪が計測され、次に補償波面が、空間光変調器のような能動素子により励起光に適用される。これにより回折限界焦点が回復される。特にLTFMでは、波面補償は空間的次元とスペクトル的次元の両方で必要とされている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/01/p40_bioft_deep_tissue_imaging.pdf