自家製低周波除振システムは、市販製品に匹敵、あるいは上回る

マヤンク・チュー、ゲロ・ヘルムスドルフ

市販除振システムは高価であり、低周波除振が必要な時には、性能がよくないことが多い。機械バネや油浸球を持つ自家製システムは、十二分な置き換えである。

機械の移動や建物の冷暖房装置など日常生活の一部であろうと、地震活動のような極端なケースであろうと、機械的振動は広範囲に存在する。ビル内の機械的振動は、1Hzから数百Hzの範囲であり、さまざまな振動源から生ずる。人々の動き(1 ~ 5Hz)、昇降機(≤40Hz)など多くの他の擾乱から生ずる。例えば、重いドア、機械、換気扇あるいはエアコン、変圧器、風や海の波、自動車、列車あるいは飛行機を含む近隣の輸送形態(7 ~ 350Hz)もある(1)。
 周波数百Hz以下の長波長振動では、そのような振動は、普通の研究室ビルでは十分に減衰されないことがある。従って、計測、ナノファブリケーション、顕微鏡など、さまざまな領域で、高精度計測の操作は、干渉フリーの計測をするために除振を必要としている。
 独テュービンゲン大(University of Tübingen)植物分子生物学センター(ZMBP)では、顕微鏡アプリケーション向け光学テーブルに焦点を当ててい
る。光学テーブル向け除振システムは、計測されるナノスケール物体の重要な特性と振動が干渉する前に機械的振動を減衰しなければならない。ナノスケール顕微鏡や単一分子イメージングには、再現性のある正確で高分解能計測のために光学テーブルの十分な除振が必要不可欠である。
 一般的な除振システムは空気制振テーブル、バンジーコード、振り子システム、パッシブシステム、フィードバック回路付アクティブシステムを含むが、多くの市販製品は高価であり、低周波領域では性能がよくない(2~7)。手頃な価格では、バンジーコードが最良の選択であるが、その構成部品として使用されているゴムは、クリープという材料特性のために、長期的には信頼度がなくなる。
 最近、比較的簡素で低コストの機械的コンポーネントを使って、当研究室が特注除振システムを開発し、特性を明らかにした。これは、低周波減衰用の市販システムに匹敵し、ある意味では凌駕している。

除振原理の適用

特注除振システムは、標準天井高(2.5m)フォーマットで鋼バネ懸架システムである。言い換えると、それはシリコーンオイルで減衰を強化したフックバネシステムである。
 通常、天井からのフックバネ懸架システムでは,共振周波数は主にスプリングの伸展性によって制限される。従って、クリープ(上述の材料特性、持続的機械応力による永久歪)の傾向があるラバーバンジーコードを使う天井懸架セットアップは、静止長を長くする必要があり、従って、十分な減衰のために高い天井(約4m)が必要になる。
 クリープで変わらない標準的な天井高で高性能除振システムを開発するために、鋼バネを利用することを選択した。鋼バネは、短い静止長と耐たわみ値により素晴らしい代替として機能する。とはいえ、そのようなシステムは、さらに除振装置を必要とする。高粘度シリコーンオイルと組み合わせた鋼バネは、すべての自由度で振動を減衰させる方策の重要要素になることが分かった。
 ZMBPでの顕微鏡実験はビルの地下で実施される。部屋は、振動減衰フォームの上に鋼板を使ってビルそのものから分離されている。鋼板の上のレンガの壁、コンクリートの天井で作られたその部屋は、遮音のための防音ドアで補完されている。
 その自家製除振システムは、共振周波数0.5Hz用に設計された。光学テーブル(900×1400×200mm)は、天井の実装レールと光学テーブルに接続した鋼バネを使って天井から吊り下げられている(図1)。鋼バネは、バネ定数0.39N/mm、初期テンション21N、無負荷静止長0.4m、最大伸張1m、重量1.4kgである。この剛性の割には、どんな高周波伝達も、バネ両端と実装レール間の圧迫ゴムパッドで最小化される。
 鋼バネの内部共振とその急増をさらに減衰するために、標準ラボ用ラテックスグラブがバネから下げられ,テープを使ってバネコイルを接続した。あるいはまた、自転車タイヤのインナチューブも使える。チューブの長いストリップを切って、バネの内側に実装することもできる。全体として、そのようなシステムは、手頃な価格で、効率的な減衰システムになる。
 天井懸架バネ構造の他に、さらなる減衰は、M6糸で光学テーブルの実装レールに鋼球(半径2cm、質量256g)を取り付けることでセットアップに組み込まれた。これら鋼球は、さらに、高さと内径が10cmの透明アクリルガラスビーカー(図2)に流し込んだシリコーンオイル(粘性:100Pa・s)に挿入された。シリコーンオイルは、非常に高粘度で、あらゆる方向の振動を減衰する。また、この除振システムで最も高価なコンポーネントでもある(図3)。

図1

図1 自家製除振システムは、鋼バネを使って天井から吊り下げられている(a)。付加的減衰はラテックスグラブで提供される(b)。

図2

図2 鋼バネ天井懸架に加えて、減衰は高粘度シリコーンオイルに沈設した鋼球でも得られる。

図3

図3 自家製除振システムは、低周波とある振動自由度で市販製品を上回っている。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/01/p34_ft_vibration_isolation.pdf