レーザ分光法−複数のガスを区別するためにアクティブFTIRを使用

クリストファー・G・ルバーン、オーウザン・カラ、デリック・T・リード

アクティブ・ロングレンジFTIR分光システムは、炭化水素排出などの高分解能ガス吸収スペクトルを取得できる。

炭化水素の一時的放出は、毎年エネルギー分野に50億ドルの損失を与えると推定され、温室効果ガス放出の12%を占める。また、気候変化の主因としてだけでなく安全や公衆衛生を危険に晒すと考えられている。地域社会に近い産業施設が24時間連続センシングを行うか、あるいは燃焼機関の効率を評価するかどうかにかかわらず、石油とガス、埋立地、農業を含む市場が、コンパクト、可搬、手頃な価格の高分解能ガス検出ソリューションの需要増を生み出している。
 さまざまなガスのセンシングは、多様な方法で達成可能である。差分吸収ライダ(DIAL)は、最も進んだ技術の1つと考えられている。500mの距離で、この技術は、高エネルギーレーザ光を大気に向けて放出すると、それが、空中粒子から弱い散乱により地上設置のディテクタに戻ってくる。残念ながら、DIALシステムは複雑で、運用にコストがかかり、非常に大きく、システムによっては、巨大なトレーラートラックに収容されているものがある。
 一方、フーリエ変換赤外(FTIR)分光学は、当然ブロードバンドであり、DIALよりもはるかにカバー範囲が広い。オープンパス設定では、FTIRは数百の大気ガスの検出能力があり、ブリーフケースに匹敵する小型システムフットプリントであるので、DIALシステムよりもはるかに可搬性が優れている。オープンパスFTIRは、一般に熱源を使って炭化水素排出を定量化するが、一般的商用ソリューションの分解能は0.5cm-1なので、多数の種類がオーバーラップしていると分離が難しい。加えて、熱源を利用するフィールドFTIR分光法は、光源をディテクタのほうへ戻すには、一般に高品質再帰反射ターゲットを必要とする。
 レーザベースアクティブFTIR分光法は、分解能が高く、メタンやエタンなど同じようなガスを区別できる。しかし、大気中でこれを達成するには、長距離にわたり輝度が十分に高い広帯域光源が必要になる。そのような光源は、現在、市場には存在しない。量子カスケードレーザ(QCL)技術が、水蒸気、メタン、亜酸化窒素、過酸化水素を離れて検出測定するために使われてきた。しかし、確かにDIALの安価な代替ではあるが、QCLは狭線幅でしかなく、複数の種類の検出となると、これがその能力の制約となる。
 スコットランドのヘリオットワット大(Heriot-Watt University)の研究者のチームは、同国の超高速レーザメーカー、クロマシティ社(Chromacity)と協力して、70mを超える範囲で、単純なターゲットから、サブ0.1cm-1分解能でガス吸収スペクトルを取得することができる、アイセーフアクティブFTIR分光システムを開発している。これは、数百メートルにわたり、複数のガスを同時に定量化するためのリアルタイムソリューションへの第一歩である。

ガスセンシングシステム

セットアップは、3つの主要エレメントに分かれる。ブロードバンド光源、分光計(干渉計と検出システムで構成)、それにデータを抽出するためのコンピュータアルゴリズムである。
 光源は、クロマシティ社のブロードバンド、超高速光パラメトリック発振器(OPO)である。この特殊モデルは、2800 ~ 3900nmで可変するように設計されており、メタンとエタン(3.1 ~ 3.5μm)で最強吸収の検出と特定ができるようになっている(図1)。この高輝度光源は、平均パワーが300mWを上回り、1cm径のビームが分光計に入る。
 Chromacity OPOからの光は、最初、マイケルソン走査干渉計に入り、続いてフリースペースに出る(図 2)。ターゲットから戻って散乱された信号は、続いて、6インチf/4ニュートン式望遠鏡で集光され、アンタチモン化インジウム(InSb)液体窒素で冷却されたフォトダイオードで検出された。OPOからの光は、望遠鏡の第2ミラー前に直接設置された45°ステアリングミラーを使い、望遠鏡の視野と共配置された光軸に沿って入る。走査干渉計は1Hzで動作し、典型的分解能は0.05cm-1だった。これは、水、メタン、エタンなどの光分子の狭く複雑な吸収ライン構造の分解に十分である。
 分光計から受けた情報を解析(デコンボルーション)するために、特許申請中のコンピュータアルゴリズムが開発された。定量的オープンパス分光法は、確実な参照スペクトルか、元の照射スペクトルを推量する方法のいずれかを必要とする。また、この問題は、別の方法で処理されてきた。ここで用いたアプローチにより照射スペクトルが回復された。それは大気吸収以前のOPO出力スペクトルを示している。

図1

図1 これらアイドラースペクトルは、Chromacity OPOのファンアウト・グレーティングチューニングにより生成。スペクトル形状は、OPO結晶の位相整合特性と、OPO励起レーザスペクトルにより決まる。水吸収線は、短いほうの波長に見られる。

図2

図2 OPO、望遠鏡およびスキャニングマイケルソン干渉計は、60×90cm実験用回路板上に設置(a)。フーリエ変換分光計のレイアウトは、(b)に示した。(提供:クロマシティ社)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/01/p30_ft_remote_sensing.pdf