世界拠点の形成を目指す東京大学・ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構

川尻多加志

フォトニクス・イノベーションセミナー等で人材も育成

東京大学・ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構(研究機構長:平川一彦教授)は、ナノ科学技術や情報科学に立脚したイノベーションの創出と人材育成のために平成18年10月、総長室直轄の学内横断組織として設立された。同大学が保有するナノ技術や量子科学、ITなどの「知」を結集するとともに、海外を含めた学外研究組織とも連携を強く図りながら、ナノ量子情報科学技術分野における世界拠点の形成を目指して活動を続けている。
 同機構は、もともと平成18年度の科学技術振興調整費(現在の地域産学官連携科学技術振興事業費補助事業)先端融合領域イノベーション創出拠点プログラムに採択された「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」プロジェクトを推進するための中核的研究組織として発足したもの。プロジェクトは平成27年度に終了したが、事後評価においてS評価を取得している。
 組織としては、「ナノ量子情報エレクトロニクス研究部門」、「次世代ナノエレクトロニクス研究部門」、「量子情報科学技術基盤研究部門」、「量子イノベーション協創センター」で構成されており、高性能量子ドットレーザや単一光子光源の技術開発によって、次世代ユビキタス情報化社会に必要な超ブロードバンド、超高セキュリティ、超高エネルギー効率のグリーンITネットワークの実現と高性能なエネルギー変換技術の開発に取り組んでいる。
 さらには、有機トランジスタによる新世代のフレキシブルエレクトロニクスや光電子融合技術の研究開発を進めるとともに、量子暗号通信や量子中継などを用いた超高セキュリティ量子情報通信ネットワークの実用化技術を実現することでフォトニック・量子融合ネットワークの技術基盤を確立、加えて量子現象で飛躍的に計算量を増やすことのできる量子計算機の基盤技術を実証していくとしている。

各研究部門の目標

「ナノ量子情報エレクトロニクス研究部門」は、単一光子発生デバイスや量子もつれ状態制御デバイスなど、量子情報デバイスの高性能化に向けたデバイス技術を開発する研究部門だ。量子テレポーテーションや量子中継などを含
む高度な量子暗号通信システムの実現を目指し、ナノおよび量子技術による情報通信技術のイノベーションを目標としている。さらに、量子計算機の基礎となる量子演算素子の研究にも取り組み、量子計算機の基盤技術を実証する。
 「次世代ナノエレクトロニクス研究部門」は、量子ドットやフォトニック結晶などのナノ技術を駆使して、量子ドットレーザを始めとしたナノデバイスの高性能化を図り、早期実用化に向けた開発研究を推進している。また、フレキシブルエレクトロニクスにおける有機トランジスタ技術の高性能化に向けて、新材料の開発から取り組むとともに、光電子融合を図るシリコンフォトニクスや太陽電池の研究開発も進めている。
 「量子情報科学技術基盤研究部門」は、量子情報エレクトロニクスおよび次世代ナノエレクトロニクスの科学技術基盤として、ナノ技術の確立と量子物性科学を探求して、量子状態の完全制御を目指した研究を進めている。特に、量子ドットやナノ共振器などのナノ技術について結晶成長やプロセス技術などの基盤技術開発を行うとともに、量子ドットにおける新しい量子現象を探索して量子状態のより深い理解と完全制御を図り、量子計算科学の基礎の確立を目指す。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/09/D_046-047_event_focus.pdf