レーザオプティクス被覆が高LIDT達成

ジョン・ウォレス

ハイパワーおよび高エネルギーレーザで使用されるオプティクスには、高いレーザ誘起損傷しきい値(LIDT)が極めて重要である 。

高出力と高エネルギーレーザは、産業、学術および軍事に数知れないアプリケーションを生み出した。しかし、こうしたアプリケーションを可能にする同じレーザ特性によりこれらのレーザは、ビーム制御に使用するまさにそのオプティクスに損傷を与え、破壊する性質を持つ。それを受けて、光学設計者や制作者は、理論とアプリケーション(後者が特に重要)の両方に基づいて知識を蓄積してきた。これにより、時間経過とともに、着実にオプティクスのレーザ誘起損傷しきい値(LIDT)を上げることができた。これには、高出力および高エネルギーレーザで使用するための、コーティングも含まれる。
 高LIDTオプティクスは、一般に、以下の1つまたはそれ以上を必要とする。レーザ波長で高透過性となり、内部欠陥が少なくなるように選択されたガラス。欠陥のサイズや数を最小化するために、特に重要な高品質表面処理(研削や研磨)。高LIDT準拠光学コーティング材料。欠陥を最小化するコーティング堆積技術。(これらLIDTの概念は、オプティクスを超えて、構造やオプトエレクトロニクスにさえ拡張可能といえる)。
 LIDTのテーマは非常に広い。Laser Focus Worldは、LIDTを幅広くカバーしてきた(書評を含む)(1~7)。結果的に、製品に注力した高LIDT光学コーティングについてのこの短い記事は、これらコーティングの背後の科学や蓄積された英知を掘り下げることはしない。代わりに、商用製品の見本抽出を、メーカー提供品の背後にある技術的背景とともに紹介する。以下に市場で入手可能なものの実例をいくつか挙げている。

偏光光学コーティング

「ここで取り組んでいる高出力作業は、2つの要素からなる。狭帯域反射防止(AR)コーティングと非接合偏波ビームスプリッタキューブである」と米ソーラボ社(Thorlabs)オプティクス設計エンジニア、マイケル・ガートマン氏(Michael Gartman)は言う。「我々は、ハイパワー部品で清浄度がいかに重要であるかを評価している。したがって我々の部品のすべてが、クラス10,000のクリーンルームで出荷準備され、洗浄され、装荷されている。これらのコーティングは、ハフニアとシリカで構成され、LIDT低下となり得るイオンアシスト蒸着を用いることなく、電子ビーム蒸着されている。我々は、これらのコーティングを内部と外のレーザダメージベンダーの両方で大規模にテストした」。
 ソーラボ社の高LIDTコーティング技術を証明する製品ラインの一例として、ガートマン氏は、同社のハイパワーレーザラインPBSキューブを示す(図1)。キューブは、3つの主要Nd:YAG高調波向けに、また他の通常のハイパワーレーザライン、405nmおよび780~808nmレーザダイオード向けに設計されている。「レーザラインターゲットPBSキューブには、一般入手できるものよりも高い損傷しきい値という顧客要求がある。光学コーティングには幅広い社内知見があり、それにより接着剤なしの接続が実現できるので、そこにチャンスがあると当社は考えた」と同氏は話している。
 クリーンルームで洗浄し、準備した後、パーツは同じ部屋で組付けし汚れを防ぐ。アセンブリ後、パーツはレーザ損傷テストを行い、結果がソーラボ社のWebサイトに公表される。「当社は、532nmと1064nmパーツでは、10nsで10J/cm2以上、355nmパーツでも3J/cm2を達成している。同時に光透過性と2000:1を上回る消光比を維持している」とガートマン氏は指摘している。「消光比、LIDT、およびパーツの組付の間にある程度の相互作用がでてくる。コーティングが厚くなれば、消光比は高くなるが、組付は難しくなり、LIDTが低下する可能性がある。そこには、ある程度のトレードオフが存在する。基板に石英ガラスを使うことも、結果的にある程度の設計トレードオフになる。PBSキューブに典型的であるが、高屈折率ガラスを使うと、帯域を広げ、消光比を高めることになる。しかし、石英ガラスのコーティングは、他のガラスに堆積したコーティングと比べると、損傷しきい値が高くなりがちである」と同氏は説明している。
 PBS上のハイパワーコーティングにより、相対的に複雑な形状の結晶ポラライザに頼ることなく、使いやすいアッテネータが可能になる、とガートマン氏は話している。さらに同氏は。「PBSキューブは、ビームコンバイナとしてよく利用される。つまりサンプルビームを取り出すためである。しかしほとんどの顧客は、それらをビームアッテネータとして単独または、半波長板の追加と組み合わせて使う」と話している。

図1

図1 532nm用にソーラボ社が作製した高LIDT偏光ビームスプリッタ(PBS)キューブの分光透過曲線は、偏光選択性を示している。1064nm用に設計された同様のキューブも、挿入図に示した。(提供:ソーラボ社)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/09/D_038-040_pp_optical_coatings.pdf