AR/VRディスプレイ試験において、人間の視覚を再現する光学部品

ダグ・クレイサー、エリック・アイゼンバーグ

拡張現実と仮想現実のディスプレイ品質を測定するには、装着者の実際の視覚的体験を確認するために、人間の目の大きさ、位置、視野を模倣しなければならない。

拡張現実(Augmented Reality:AR)、仮想現実(Virtual Reality:VR)、ウェアラブルデバイス市場は、急速に成長しており、56.1%の年平均成長率(Compound Annual Growth Rate:CAGR)で、2021年までに8120万個に達する見込みである(1)。この市場成長に伴い、ディスプレイを装着した場合の装着者の視界という観点でのディスプレイの視覚品質を評価する必要性が高まっている。その品質評価には、新しい測定手法が必要である。
 ニアアイディスプレイ(Near Eye Display:NED)の画像は、ユーザーの視野(Field Of View:FOV)いっぱいに拡大されるため、それとともにディスプレイの欠陥も拡大されてしまう。そうした欠陥は、ユーザーエクスペリエンスを損なうだけでなく、最終的には、ますます競争が激化するこの新しい市場におけるその企業のブランドイメージを傷つけることになりかねない。そのため、AR/VRを特に対象としたディスプレイ試験という、新たなニーズが高まっている。
 従来のフラットパネルディスプレイの視覚品質試験では、輝度(明るさ)、色、均一性、視覚的欠陥などのパラメータが評価される。従来の測定システムの制約に基づき、NEDに対して同じ測定を行おうとすると、メーカーは課題に直面することになる。
 AR/VRデバイスのメーカーは、それぞれ固有の方法でディスプレイをヘッドセットに搭載しており、その技術やハードウエア構成はそれぞれまったく異なる。したがって、NED試験に対する有効なソリューションは、各デバイスの形状や異なるディスプレイ仕様に適応可能でなければならない。

NED測定の課題

すべてのAR/VRデバイスにおいて、NEDには視覚的測定にこれまでとは異なる課題をもたらす、固有の特徴がある。装着者は、頭部装着型かゴーグル型のディスプレイを通すことにより、物体が非常に近くに見えるか、または、広い視野が見渡せるようになる。
 残念ながら、ディスプレイに欠陥があった場合、NEDにはそれも拡大されて投影される。不均一な色や明るさ、デットピクセル、線状欠陥、両目の画像の不一致は、至近距離で見るとより顕著に現れる。解像度も、AR/VRディスプレイの非常に重要な要素である。ディスプレイいっぱいに視覚的にリアルな映像を作成するために、NEDでは、片目あたりのディスプレイピクセルを多くする必要がある。ピクセル密度の高いディスプレイには、高分解能の測定装置が必要になる。
 NEDのFOVを広げると、さらに没入感あふれる視覚的体験がユーザーに与えられるが、ディスプレイのFOVが広いほど、イメージング・システムを使ってディスプレイ全体を包括的に捉えて測定する作業は難しくなる。人間の両眼視野は、水平方向に約114 ~120°だが、いくつかの主要なNEDデバイスで100 ~ 120°のFOVが達成されている(図 1)(2)。
 NEDは通常、ヘッドアップディスプレイ(Heads Up Display:HUD)や、ヘッドセットやゴーグルのようなヘッドマウントデバイス(Head Mounted Device:HMD)に搭載される。人間がそのデバイスを装着した場合と同じ状
態でディスプレイを測定するには、人間の目と同じ位置になるように、測定システムをヘッドセット内に配置する必要がある。測定システムの入射瞳(レンズ開口)は、ヘッドセット内の人間の瞳の位置を模倣して、ヘッドセットの視覚開口部を通して見える、ディスプレイのFOV全体を捉える必要がある。

図1

図1 さまざまなVRヘッドセットディスプレイの視野(FOV)の比較。図に示されていない他のデバイスとしては、米グーグル社(Google)の「Daydream」(FOV:100°)、「Oculus Go」(101°)、台湾HTC社の「Vive Pro」(110°)、韓国サムスン(Samsung)の「Odyssey(110°)、
米デル社(Dell)の「Visor」(110°)、中国レノボ社(Lenovo)の「Explorer」(110°)などがある。

図2

図2 高分解能イメージング・システムは、この図のディスプレイの不良ピクセルのように非常に微妙な欠陥も含めて、至近距離で見ると気づく可能性がある、高解像度ディスプレイ上のすべての視覚的欠陥を検出することができる。

その他の測定基準

AR/VRデバイスのディスプレイ試験には、特有の画像特性評価データや解析が必要である。例えば、両目の画像を組み合わせるときや、(ARのように)周辺環境の上に画像を重ね合わせるときには、輝度(投影画像の明るさ)と色均一性が非常に重要となる。
 目の近くにディスプレイを表示する場合には、画像のシャープネスと明瞭度が重要である。ゴーグルやディスプレイのFOVに起因する画像の歪みを特性評価することも、空間画像精度と投影位置合わせを高めるためのカギを握る。AR/VR測定ソリューションは、こうした一般的な基準を解析する機能に加えて、デバイス間の一貫した品質を確保するために、再現可能なイメージ精度を備える必要がある。
 つまり、新しいAR/VR技術には、ディスプレイを試験するための革新的な方法が必要で、それには、新しい方法論、ソフトウエアアルゴリズム、そして、ヘッドセット内測定において最も重要な、新しい光学ジオメトリが含まれる。従来のイメージング・ソリューションをAR/VRデバイスに固有の試験基準に適合させる試みもあるが、AR/VRディスプレイの測定可能なすべての特性に包括的に対応するには、かなり制約がある。何よりもまず、実際のユーザーエクスペリエンスを評価するには、人間の目の視覚的機能と厳密に合致する測定ソリューションを構築する必要がある。

人間の視覚的体験の再現

NEDの光学性能は、人間の視覚を基準に判定する必要がある。人間の視覚的体験を客観的に評価するために、ディスプレイ試験システムが提供する必要のある主要要素としては、測光データ、FOV全体の解析、高分解能などが挙げられる。
 すべてのディスプレイに共通する必須要素は、光と色の見え方である。イメージング光度計と色彩計は、異なる光波長に対する人間の目の反応(明所視反応曲線)を模倣する特殊なフィルタが組み込まれているため、視覚的なディスプレイ品質を評価するのに最適である。
 測光イメージング・システムは、ディスプレイ試験に一般的に用いられている。ディスプレイ全体を単一の2次元画像として取得し、空間コンテキストにおいて測光データを解析するためである。このコンテキストは、均一性、歪み、シャープネス、コントラスト、画像位置の評価に不可欠である。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/09/D_020-023_pa_industrial_ar_vr.pdf