全天候対応の周波数変調連続波ライダ

ステファン・クラウチ

コヒーレント検波と周波数変調により、最小限の光出力による干渉のない距離および速度の測定が可能である。

自動運転車(Autonomous Vehicle:AV)は、カメラ、レーダ、ライダといったさまざまなセンサに基づいて、安全な走行を実現する。AV技術の展開が成功するかどうかは、コストと安全性のバランスだけでなく、その規模にも依存する。AVライドシェアサービスの規模拡大に伴って、システムコストは低下し、利幅と売上高の増加が見込めるようになる。雨や雪などの環境的な悪条件は、さまざまな重要地域におけるAVの展開を抑制する要因である。そのような条件に対応することが、成長促進の鍵を握る。
 米ウェイモ社(Waymo)が、最初にサービスを提供する都市としてアリゾナ州フェニックスを選んだことは、AVセンサがまだ全天候条件には対応していないことを、控えめながら物語っている。レーダは一貫した動作を示すのに対し、カメラとライダの検出距離は降水量に大きく影響を受ける可能性がある。これらのセンサは、車両のナビゲーションと位置特定の信頼性確保に不可欠である。カメラ技術は、イスラエルのモービルアイ社(Mobileye)などのベンダーが提供する、先進運転支援システム(Advanced Driver Assis tance System:ADAS)において広く採用されているため、カメラ性能の変化については十分に理解されている。一方、悪天候下でのライダ性能に関する文献は、それと比べるとかなり少ない。本稿では、新しい種類の車載ライダセンサの悪天候下での性能について、詳しく解説する。

コヒーレントライダ

ライダ技術は、検出原理に基づいていくつかの種類に分類できる。パルスToF(Time of Flight)センサを含む多くのライダは、反射光パワーを直接検出することによって距離を推定する。コヒーレント検波は、それに代替するライダ手法で、反射電場を測定するものである。受信信号を、局部発振器と一般的に呼ばれる別の光学信号によって光学的に干渉することにより、これを行う。コヒーレントライダは、基本的には干渉計である。送信信号と局部発振器信号の周波数変調によって距離測定を支えるという、現代のレーダーシステムに非常によく似た仕組みが採用されている(1)。
 コヒーレントライダ、または周波数変調連続波(Frequency Modulated Continuous Wave:FMCW)ライダは、特に環境センシングの分野において、リモートセンシングツールとして広く活用されている(2)。米ロッキード・マーティン・コヒレント・テクノロジーズ社(Lockheed Martin Coherent Technologies)の「WindTracer」や、三菱電機のライダ製品などは、数十km範囲の風速場を調べて空港の安全性を確保する。コヒーレント検波はこれまでに、それ以外にも幅広い範囲の長距離イメージング要件に対応してきた。より複雑な信号処理が必要であることが、コヒーレントライダの普及を阻む1つの要因だが、最近になってようやく、商用製品として手の届く価格帯と、自動車に搭載できるパワーバジェットに到達してきている。

AV用のFMCWライダ

自動運転などの一般的な商用用途に対して、コヒーレントライダが利用され始めたのはまだここ数年のことである。このようなセンサがより主流になるにつれて、いくつかの主要なメリットが顕著になってくる。コヒーレント検波は、高ダイナミックレンジ、高感度、総干渉除去能力という、直接検出型ライダ設計における優先項目だが両立しないことの多い性質を併せ持つ点が、他とは異なる特長である。高いダイナミックレンジは、タイヤなどの暗い物体と、再帰反射性の道路標識などの明るい物体を、検出器のゲインを能動的に調整することなく、センサが確認できるようにするために必要である。高い感度は、大きな光出力を要することなく長距離測定を可能にするために必要で、距離要件を満たしつつ低コストのチップスケールシステムを実現するために不可欠である。干渉除去は、他のライダや直射日光が存在する環境で安定した動作を維持するために必要である。直射日光は、直接検出システム用の光学フィルタに対して面倒な問題となる場合が多い。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/09/D_034-036_ft_automotive_lidar.pdf