電流励起型有機ダイオードレーザの実現

電流励起型有機半導体ダイオードは長年探求されていたが、20年前から続いた一連の誤報が終わる可能性がでてきた。最近、九州大の安達千波矢教授をリーダーとするチームが、狭線幅青色レーザ発光を報告している。これは、平方センチメートルあたり1kWに近いしきい値電流密度で、多数のデバイスからの分布期間構造特性に大きな感度がある。これは、この目標に向けて遅々とした歩みをしてきたこの分野における大きな前進である(1)。
 高いしきい値電流は、レーザ発振の確実な証拠と考えられる。明確なしきい値挙動、狭線幅、レーザキャビティ改良に対する強い感度もそうである、と米ペンシルバニア州立大のクリス・ギービンク氏(Chris Giebink)は話している。同氏はこの研究には関与していないが、当該分野における経験豊富な研究者である。その成果は同氏を驚かすものであったが、論文を見て「本当に成し遂げた可能性がある」と考える強力な証拠があると同氏は話している。
 有機化合物からの電子発光の観察は1950年代にさかのぼるが、最初の実用的な有機LED(OLED)は、1987年であり、この技術は、カラーディスプレイに広く採用されている。OLEDの経済性は、早期には安価な有機ダイオードレーザの希望はあったが、無機ダイオードレーザの量産が価格を変えたことから、それは変わった。有機ダイオードレーザへの大きな関心の1つは、無機ダイオードレーザでは得られない色、特に緑と黄色が得られることである。これらの色により、狭線幅レーザ発光から完全飽和色が、そしてより魅力的なディスプレイが得られる。もう1つは、フレキシブル基板あるいは無機ダイオードではうまく機能しない他の基板への堆積である。
 光励起は、有機半導体レーザで成功が証明されており、低しきい値分布帰還(DFB)キャビティの開発は、無機OPSLと同様のコンパクトで安価な有機光励起半導体レーザを可能にした。しかし、究極目標は、他のオプトエレクトロニクスとの集積を目的にした電流励起型有機ダイオードレーザの開発であった。また、アプリケーションでは、分光学、医療機器、ディスプレイ、Li-Fi(光忠実度)光ネットワークも目標であると、アトゥーラ・S. D.・サンダナヤカ氏(Atula S.D. Sandanayka)と同僚はアプライド・フィジクス・エクスプレス誌(Applied Physics Express)に書いている。
 これは非常に困難な挑戦であることが判明している。また、今では悪名高い物理学者、詐欺師、ヤン・ヘンドリック・シェーン氏(Jan Hendrik Schön)にとっては非常に魅力的な目標であった。同氏は、2000年早期にベル研で電流励起型有機ダイオードレーザの実現を主張した。同氏の偽の公表により、他の研究者は「有機電気レーザ発振の新たな主張は、何でも非常に疑わしいと捉えるようになった」と九州大の研究グループのリビエル・ジーン・チャールズ氏(JeanCharles Ribierre)は話している。電流励起型有機レーザダイオードの他の早期報告は、レーザ発振の他の現象を誤解していたとして、イフォ ・サミュエル氏(Ifor Samuel)、エビナザール・ナムダス氏(Ebinazar Namdas)、グラハム・ターンブル氏(Graham Turnbull)らは、次のように警告することになった。レーザ動作を主張するには、鋭いレーザしきい値、発光しきい値でのスペクトル変化、ビームコヒーレンス、偏光、および放射光の空間プロファイルという証拠がなければならない。後の報告も疑わしいことが判明した、とリビエル氏は言う。これには、2017年にLaser Focus Worldに発表された“Electrically pumped organic laser diode has low threshold current density”(電流励起型有機レーザダイオードは低しきい値電流密度)(参照http://bit.ly/OLaserDiode)も含まれる。これは、中国科学院の研究者によるScience Bulletin(2)の報告に基づいたものである。ここでは、非現実的に低しきい値、平方センチメートルあたりミリアンペア(mA)が報告されていた。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/09/D_010-011_wn_semiconductor_lasers.pdf