破壊的な蛍光顕微鏡

クリストファー・シュメイト

照明、フィルタ、カメラなどの顕微鏡の構成要素の進歩により、システムの設計にパラダイムシフトが起きており、その影響は広範囲にわたる。

顕微鏡は、世界で最もありふれた研究室の機器である。ある研究室では、他のどの機器よりもまず顕微鏡を所有するようになっている。このように顕微鏡法は、イノベーションが絶え間なく新たな進展を生み出している分野だ。
 ここ10年における最も劇的な進歩により、光学顕微鏡法の最もありふれたモードの1つが変化している。倒立顕微鏡、落射顕微鏡、広視野顕微鏡は、その構造のほぼすべての構成要素に関する進歩によって破壊的な影響を受けている。携帯電話のように、現在の倒立顕微鏡の設計や性能は10年前のものをはるかに凌駕している。その結果、新たな形状となり、機能が設計を導くシナリオが描かれている。
 最も基本的なこととして、顕微鏡にはイメージセンサ(ヒトの眼またはカメラ)、接眼レンズ、サンプルホルダー、観察対象物がある。初期のデザインでは、これらの構成要素を鏡筒の中に並べていたが、構造が進歩するにつれ、鏡台や試料ステージ、接眼レンズ、調光式照明を収めるための筐体が登場した。初期の試行錯誤では、基本的に構成要素は筐体デザインに合わせられた。そのため、カメラがよりよく機能するために筐体を再設計するのではなく、スタンダードな構造に合わせてカメラが作られた。カメラ設計がより複雑化するにもかかわらず、である。この伝統的な顕微鏡筐体のデザインは顕微鏡のベンダー大手4社やその同類によって守られてきた(下の写真)。本記事では、蛍光顕微鏡の主な構成要素と、現在お互いに影響を与えている技術的破壊について述べる。顕微鏡法の設計の未来におけるインパクトも示す。

接眼レンズ

接眼レンズのない顕微鏡の設計は非常にシンプルなものとなる(a)。米エタルマ社(Etaluma)の光学モジュール(b)。

照明

透過光は単純な白熱電球から得られるが、蛍光励起には高い強度を持つ特定の励起波長を必要とする。ほとんどの応用で使われる可視波長で十分な強度をもたらすために、さまざまなアーク灯が開発されてきた(1)。興味深いのは、アーク灯のスペクトルまたはレーザ線として利用できるものの中から最も顕著に励起できるものとして、初期の蛍光色素が設計されたことだ。我々はこれら初期に好まれた波長と共存を続けている。
 LEDの出現と、LEDが消費者や通信市場で使われることで、十分な強度かつ適切な波長で利用できるところまで技術が進んだ。アーク灯に対するLEDの利点は多くある。

・LEDにはウォームアップやクールダウンの時間が必要ない
・シャッターなしでオンとオフを瞬時に切り替えることができる
・多くのアーク灯の寿命が数百時間であるのに対してLEDの寿命は1万から5万時間である
・時間による強度の減衰がない
・アーク灯より低コスト
・強度をパルス幅変調で連続的に変えることが可能
・所要電力がより低い
・LEDは狭帯域放射であるため、弱い紫外線(UV)や赤外線(IR)を放射しない
・LEDは数センチではなく数ミリメートル範囲で照射する(図1)
・使用済みLEDは危険廃棄物と見なされていない

 現在のところ、各波長に対応する別々のLEDを必要とすることは強調すべきだろう。すでにベンダーは、フィルタを通したアーク灯に代わる、直接マウントできる非常に明るいLEDエンジンを提供している。これらの照射システムは、従来の光路の非効率性を代償するほど十分な明るさでなければならない。

図1

図1 LEDはアーク灯に比べ多くの利点がある(a)。CMOSカメラは、CCDカメラの多くの性能特性を上回る(b)。(提供:エタルマ社提供)

フィルタ

従来より、アーク灯の励起波長を選択したり、不要な幅広い放射を排斥したりして、励起から不要なUVとIR波長を除去するためにフィルタを必要としている。これと比較して単色LEDでは、スペクトルをさらに狭めるためだけに励起フィルタが用いられる。またダイクロイックフィルタは、サンプルに対して励起を反射させるために用いられ、より長い発光波長が眼やイメージングセンサに届くようになる。これらのフィルタは発光を描写するために、数ケタ大きい非励起散乱波長を排斥するために必要だ。散乱光は、蛍光放射強度のほぼ1000倍である。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/07/bio_microscopy.pdf