CFRP材料の接着強度を向上させるエキシマレーザクリーニング

ラルフ・デルムダール、トーマス・ルカスジク、マルクス・ベルトラップ、ラルフ・アイド

接着材接合は、多種多様なアプリケーションや業界で表面接合の手法として用いられており、その接着強度をあげる重要な要素の 1つに表面のクリーン度が大きく関わっている。成形によって製造されるポリマー部品の場合、表面に残っている離型剤などが、接着強度に悪影響を及ぼす。そのため接着の前に、エキシマレーザによるアブレーション加工によって、残っている微量の汚染物質と不安定な界面層を除去することが、高強度の接着を実現するために重要となる。そしてこのレーザアブレーションによる方法は、他のウエット状態で行なう方法や機械的な技術に比べ、非常に優れた表面洗浄つまりクリーニングの手法として注目されている。本稿では、航空宇宙、航空機、自動車、船舶の各業界の製造分野でその重要性が増しているCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を接着する前処理としての、エキシマレーザによるクリーニングについて解説する。

接着前のエキシマレーザによるアブレーション加工により、残っている微量の汚染物質と不安定な界面層を除去することが、高強度接着を実現するために重要であり、他のウエット状態で行なう方法や機械的な技術に比べ、非常に優れた表面洗浄つまりクリーニングの手法として注目されている。

CFRPについて

CFRPは、物理的な強度と軽量という非常に望ましい性質を併せ持つ複合材料で、強化材と母材で構成される。強化材は、耐荷重性と剛性を与えるもので、通常は布のように編まれた炭素繊維である。母材は、強化材を囲みそれを結合するもので、エポキシまたはその他の高分子樹脂が最も一般的である。CFRPには複数の作製方法が用いられているが、そのほとんどで、金型などの型で成形された強化材に母材となる液体樹脂を流し込む方法がとられている。そして硬化工程後に樹脂を金型から簡単に取り出せるように、離型剤が一般的に用いられる。また、金型の形状によっては、樹脂を金型に適切に浸潤させる(樹脂が金型の表面をまんべんなく流れるようにする)目的としても、離型剤がよく用いられる。
 CFRP材料を使い軽量な構造物を製造する場合、CFRPと金属を結合しなければならない場合や個別に製造したCFRP部品を結合して、より大きなパーツを構成しなければならない場合がある。しかし、従来の機械的な留め具(ネジやリベットなど)を用いる方法には、いくつかの欠点がある。まず、従来の留め具を使うための貫通孔を開けるとなると、内部応力が集中して、負荷の掛かる繊維に損傷を与える恐れがあるため、強化材をさらに追加しなければならない。また、金属の留め具を使うことで全体の重量が大幅に増加する可能性がある。それに対し接着剤接合という手法は、これらの問題を回避できる代替策である。つまり、CFRPに穴を開ける必要がないので、機械的負荷は接着面全体に均等に拡散され、また、完成した構造物の重量が大きく増えることもない。
 ただし、高強度接着を実現するには、接着前の製造工程で表面に残っている離型剤や、その他の微量汚染物質、不安定な界面層を完全に除去する必要がある。そして、この表面前処理は下層のCFRP部 とその繊維部の両方にまったく損傷を与えることなく行わなければならない。

表面前処理技術

接着剤接合前のCFRP部品のクリーニングには、機械研磨やグリットブラストなど、いくつかの手法が現在用いられているが、残念ながらこれらの方法にはそれぞれ欠点がある。ほとんどの機械研磨加工はスループットが低く、通常はウエット工法で行われるため、その後にクリーニングと乾燥が必要になる。またグリットブラストでは、表面に残留物や細粉が残るために、クリーニングが必要になり、どちらの機械的な方法も炭素繊維に損傷を与える危険性がある。
 航空宇宙業界では、CFRPの表面前処理技術としてピールパイル手法も用いられている。ピールパイルとは、母材樹脂の硬化前にCFRP表面にラミネート加工されるシート状の織物材料である。接着前にこれを除去することで、きれいな表面が現れるが、ピールパイルの主な欠点は、CFRPの製造が複雑になることである。また、界面層が不安定になり、例えば、最上部の樹脂層にワックスが付着すると、再現性が低下する原因にもなり得る。さらに、ピールパイルはCFRPの修復には適していない。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/07/ft_laser_cleaning.pdf