構造・熱・光学性能分析典型的なマルチフィジクスモデル

クリストファー・バウチャー

光学の光線追跡ソフトウエアが熱影響を明らかにするために、レンズシステムの構造・熱・光学性能の分析を連動させる。

数値シミュレーションは、光学システムの設計、最適化、評価において欠かせないツールとなっている。高い忠実度を持つ計算モデルは、試作や、関連する実験作業に費やす時間や努力を大量に削減できる。
 高忠実度のモデルを設計することは、極限環境におけるカメラ、望遠鏡、分光計、同類デバイスの操作の分野でより困難になっている。この困難はおそらく、宇宙探査機の光学システムで最も人々を萎縮させる。宇宙環境では、
機器は極端な温度勾配の支配下に置かれる。宇宙そのものの極寒な真空から太陽の灼熱まで、そしてその間にある温度勾配だ。
 実際の素材のほとんどは温度依存性の屈折率を持つため、温度変化は光学システムの性能に直接影響を与える。さらに、熱ストレスは他の運用荷重と合わせて、さらなる性能低下となり得る変形の原因となる。そこで我々は、構造・熱・光学性能(STOP)分析を連動させたシミュレーションソフトウエアを用いて、ユニークな挑戦に挑もうとしている。

シンプルなペッツバールレンズシステム

例えばペッツバールレンズシステムは、温度が均一で、力が加わらないように設計されている。ペッツバールレンズは、フィールド平坦化レンズと、その後方にあるレンズグループから構成される。図1で示すように、平行な光線が左(緑)から右(赤)にあるイメージ面に向かって伝わる。レンズグループの間にあるイメージ面と開口絞りも示す。
 ここで、このシンプルなレンズシステムが、ストレスや温度勾配にさらされた現実環境下の装置に組み込まれることを考えよう。STOP分析を正確に実施するためには、レンズそのものだけでなく周囲の装置も製作しなければならない。これには、考慮すべき次の疑問が挙げられる。

・レンズをどのようにマウントするか
・構造分析に対する境界条件は何か
・温度における境界条件は何か

 このワークフローを実演するため、以前のペッツバールレンズの配列を工夫し、熱真空チャンバの内部にあるドラムにレンズをマウントする。ここでは、圧と温度の両方を制御して、宇宙空間の再現を目指す。図2に、レンズ、ドラム、マウント、チャンバの横断面の略図を示す。このようなチャンバは、宇宙に設置する前に、制御された実験室環境の低温下で、カメラや望遠鏡の試験を行うのに使えるだろう。
 すべてのドラムは熱シュラウド境界(1)の中に格納されている。この中は、例えば−50℃設定の低温が維持され、液化ガスが壁に沿って上下に移動できるだろう。そして放熱は外側の真空窓(2)ともう1つの熱窓(3)を通って熱シュラウドに入る。このもう1つの熱窓は、レンズにおける温度勾配を制御するために適所に置かれる。熱シュラウドの外側の周囲の環境は、研究室の気温である25℃だ。
 レンズグループ(4)、(5)、(6)、イメージ面(7)、ドラム(8)、固定支柱(9)も示した。固定支柱は、変位がゼロと仮定する。解くべき数量は、レンズとドラムと窓を通じた温度、レンズとドラムにおける構造の変位、システムを通過する光線だ。

図1

図1 光線の略図としてここに示すペッツバールレンズには、左から右に向かって、第一の集束レンズ、開口絞り、第二の集束レンズ、フィールド平坦化レンズ、イメージ面が含まれる。(提供:コムソル社)

図2

図2 ペッツバールレンズ組立の概要。レンズ、ドラム、熱真空チャンバが含まれる。(提供:コムソル社)

STOP解析には数値的方法の組み合わせが必要

 数学的な視点から、STOP解析には他に類を見ない課題がある。なぜなら、構造・熱モデルには、光学モデルと比較して異なる種類の数値的アプローチが必要だからだ。構造・熱シミュレーションに最も柔軟なアプローチは有限要素法(FEM)である。この手法では、配置を大量の別々の数値的セルまたは要素として描き、その要素で定義された区分関数として各要素でひずみと温度を近似する。
 光学性能は、光線追跡のアプローチを用いることで最もよく予測できる。なぜなら、光学シミュレーションのFEM実装は通常個々の波長を解像するのに十分なメッシュを必要とするが、この必要性は光周波数において実用的でないためだ。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/07/ft_ray-tracing_software.pdf