光学とフォトニクスが進展させるスペクトルフローサイトメトリー

バーバラ・ゲフベルト

高性能なスペクトルフローサイトメトリーの新興世代が、新たな応用をもたらし、より低コストで届くようになっている。

サイトメトリー(細胞計測)は、細胞の大きさや形状や構造といった特性、細胞集団の量、機能的な細胞状態、さらに特定のタンパク質とその位置、DNAといった物質などを評価する。細胞生物学だけでなく、日常的な血液検査や疾患診断を含めた臨床応用では頼みの綱となっている。
 流体中で細胞の特性を計測するために、レーザ光を利用する蛍光技術がフローサイトメトリーだ。フローサイトメトリーは、多くのエンジニアや研究者によるハードウエアと試薬のイノベーションを経て、ここ20〜30年にわたって大きく進歩している。彼らの共同開発によって、1秒あたり数万個の細胞という割合で個々の細胞に対してマルチパラメータ解析を行う現在の性能に達している。
 しかし、蛍光分子の開発がオプションの広がりをもたらした一方で、多数の蛍光分子を扱うことは、色やフィルタを注意深く選択する必要があるという困難でもある。特殊な色素はしばしば従来のフローサイトメトリーで必要になるが、色を追加すると染色がかすみやすくなり、スペクトルの溢出効果によってマスクされる。スペクトルプロファイルに近い、またはオーバーラップする色素は識別を困難にし、解像度が制限される。
 従来のフローサイトメトリーは複数のレーザを必要とし、ダイクロイックミラーを用いて独立したシグナル検出パスを作成する。1つの色素に対して1つのフィルタと検出器(通常は光電子増倍管(PMT))の枠組みとなる。そのため、色の追加は、ハードウエアとパネル設計が複雑になることを意味する。
 さらに、異なる組織や生物からの細胞を同定することにもフローサイトメトリーは挑んでいる。これにはデータ解析のために、幅広く、マルチパラメータの代償マトリクスが必要となる(1)。

分光計を足すだけ

検出器、光学、ミリ秒以下の計算能、フルスペクトル計測の近年の発展(2)により、スペクトル(もしくはマルチスペクトルまたはハイパースペクトル)フローサイトメトリーが近年登場し、これらの限界に立ち向かっている。超高速の光学分光計を内蔵するスペクトルフローサイトメトリー(3)は、従来のフローサイトメトリーよりシンプルな光学パスで少ないコンポーネントから構成され、少ないレーザでより高品質な結果をもたらす。
 どちらの形式のフローサイトメトリーでも、懸濁液中の蛍光ラベルされた細胞は、ラベルを励起するのに合わせた波長のレーザビームの前を1つずつ通過する。従来のフローサイトメトリーでは、各レーザは3〜5色を励起できる。光学システムには、細胞から放射された光を集め、ダイクロイックミラーとフィルタを通じて検出器に誘導する対物レンズが含まれる。スペルトルフローサイトメトリーでは、各システムレーザは、使用するすべてのラベルを励起する。初期のスペルトル法のいくつかは、プリズムや回折格子などの分散的光学を利用して蛍光シグナル(各細胞にある生体色素、ナノ粒子、蛍光タンパク質)を直線状の検出アレイに分配する(図1)(3)。半導体検出器、通信光学、計算能が進展する近年のさらなる革命により、わずか3つのレーザで24色以上の高品質なデータ出力というフルスペクトル計測が可能となっている(図2)。この最新の手法は、より広い科学者がスペクトルサイトメトリーを受け入れることにつながっている。
 従来のフローサイトメトリーが蛍光色素の放射ピークを検出する一方、スペクトルフローサイトメトリーは各粒子の全蛍光スペクトルを計測し、幅広い連続波長における放射スペクトル形状を識別する(1)。
 スペクトルフローサイトメトリーの大きな特徴は当然、スペクトルの非混合だ。すなわち、明らかにする情報を抽出するためのスペクトルデータの分析である。スペクトルの非混合は正確なラベル強度を推定でき、大きなスペルトルオーバーラップの蛍光色素を解像できる。この処理で使われるアルゴリズムは、従来のフローサイトメトリーの代償マトリクスを置き換え、自家蛍光を独立パラメータとして扱う(1)。
 これは複雑でなく高性能かつ柔軟な機器である。研究者には、アッセイ設計時により多くの選択がある。

図 1

図 1 フローサイトメトリーでは、ラベルされた細胞の流れがレーザビームの前を通過し、細胞から放射される光を対物レンズが集める。従来のシステムでは、励起される細胞のラベルにレーザの波長を合わせ、対物レンズが集めた光はダイクロイックミラーとフィルタを経由してPMTに伝達される。スペクトルシステムでは、各レーザからの光がすべてのラベルを照射し、初期のシステムでは蛍光を直線状の検出器アレイに分布する分散系光学を特徴とした(http://nolanlab.com/spectral-fc.htmlより引用(4))。

図2

図2 スペクトルフローサイトメトリーシステムの最新版では、サンプルから放射された蛍光は光学ファイバベースの低密度光波長多重通信(CWDM)の分波器部品に伝送される。ここでは、スペクトルプロファイルを検出するためにフォトダイオードアレイを用いる。(提供:サイテック・バイオサイエンス社)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/05/038-040_bio_cytometry.pdf