光トラッピングで脳を騙す

外耳道にある極小の炭酸カルシウムの結晶は大きな仕事をしている。それは、体の態勢変化によって転がることで、体の位置や直線加速度、空間を脳に知らせる。生存に必須であるこの結晶は耳石と呼ばれ、前庭系の一部である。ところが前庭系は、刺激するのに必要とされる運動が障壁となり、あまり理解が進んでいない。「運動する脳における活動を研究することは難しい」と、オーストラリアのクイーンズランド大(University of Queensland)生物医学部のイーサン・スコット准教授(Ethan Scott)は言う。
 しかし、この障壁を克服する大きなイノベーションのなかで、スコット准教授と彼の仲間は、小さな結晶を光トラッピングの標的にした(1)、(2)。蛍光顕微鏡の結果を観察することで、脳がどのようにして重力や運動を検出しているかが明らかになり、2018年のオーストラリア博物館エウレカ賞の学際的科学研究の優秀賞(Australian Museum Eureka Prize for Excellence in Inter disciplinary Scientific Research)に選ばれた(図1)。
 彼らは赤外(IR)レーザ光を用いて、固定したゼブラフィッシュの耳石を動かした。それにより脳内で運動感覚が発生し、誘発される行動を、カスタマイズしたイメージングシステムで観察した。「脳を固定させたまま運動していると動物を騙すことで、進歩した顕微鏡を初めて使えるようになり、運動プロセスに反応する脳の細胞や回路を研究できる」と同准教授は言う。

図1

図1 球形嚢(sac)と卵形嚢(ut)は、ゼブラフィッシュの稚魚において重力と運動感覚に関わる内耳の臓器である。ここにある耳石を光トラッピングするとき、脳の中に向けて300μm領域の容積測定の選択的平面照明顕微鏡法(SPIM)を実施した。2Dのガルバノミラーと、制御調整するための電気的に同調可能なレンズを用いて、イメージング技術としてz軸に沿って2つの488nm光シートを走査する。1つはゼブラフィッシュの前方から、もう1つは側方からである(a)。イーサン・スコット准教授、イチア・A・ファーブル・ビュル博士(Itia A Favre-Bulle)、ハリーナ・ルビンシティン・ダンロップ教授(Halina Rubinsztein-Dunlop)は、この研究を指揮するクイーンズランド大の神経科学光物理学チームの一員だ。この研究は2018年のオーストラリア博物館エウレカ賞の学際的科学研究の優秀賞を受賞した。

設定

チームの顕微鏡のアプローチは、タンパク質工学と蛍光イメージングの進展によって可能となった。これは、遺伝子でコードされるカルシウムインジケータ(GECI)と、選択的平面照明顕微鏡法(SPIM)と呼ばれる。このシステムは、2つの走査光シートと蛍光放射チャネルをもたらし、動物内の反応をカメラで描写する。光トラッピングを実施するため、1064nmビームのペアを、ジンバル搭載のミラーを用いて個々に操作し、正中圧と横圧をそれぞれ、生きた魚に2つある55μmの耳石に当てる。光シートを走査するためにガルバノミラーを用い、トラッピングビームを届けるために使われたのと同じ対物レンズを用いて、蛍光放射を検出した。

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/05/008wn.pdf